M.M W-Standard,Wonderland Lv.0


<ビジュアルノベルにおけるエンターテイメント性に拘った演出は唯一無二のもの>

 この「W-Standard,Wonderland Lv.0」という作品は同人サークルである「Circletempo」で制作されたビジュアルノベルです。Circletempoさんの作品では過去に「少年オロカと不思議の森」をプレイさせて頂き、映画的でありビジュアルノベルにおけるエンターテイメントを追求している作風が大変印象深い作品でした。実はこの「少年オロカと不思議の森」は私が本格的に同人ビジュアルノベルを始めた時期にプレイした作品でもありまして、同人ビジュアルノベルに対して良いイメージを持つ事が出来た事にとても感謝しております。今回プレイした「W-Standard,Wonderland Lv.0」はC86での新作でして、推察の通り「W-Standard,Wonderland」の体験版としての位置付けになっております。

 上でも書きましたが、Circletempoさんの作品の魅力はビジュアルノベルにおけるエンターテイメント性を追求した演出にあると思っております。エンターテイメント性と言っても具体的に定義するのは難しいですが、ビジュアルノベルだからこそ表現出来る要素を絶妙な配分で融合し作品として仕上げているといった感じです。ビジュアルノベルとは文字通りテキスト・絵・音楽が組み合わさったものですが、あくまでノベルですのでシナリオがあってそれに肉付けする形で他の要素が存在するのだと思っております。少年オロカがそうだったのですが、シナリオの中で視点をどんどん変更して多方面から自称を描くテキスト・ファンタジーな雰囲気に合致しており存在感がありながらもあくまで引き立て役としてあるBGM・動的に動きファンタジーらしくアクの強い塗りの絵、という3つの要素のバランスがシナリオの起承転結をクッキリとさせ後味の良い作風を作っておりました。全体のバランスを何度も推敲している事が伝わる演出はCircletempoさん唯一無二のものだと思っております。

 W-Standard,Wonderland Lv.0も同様の演出を感じる事が出来ました。狙いすましたかのように変化する一人称・Wonderlandの名の通りのおどけた感じのBGM・人物に加えてダイナミックな視点から描かれた背景画と、まさに少年オロカで感じた演出が待っておりました。登場人物のパーソナリティも分かりやすく、良い意味で人によってハッキリと好き嫌いが分かれるのではないでしょうか。一番驚いたのは動的な演出がかなり強化されていた事です。立ち絵がコミカルに動くのは少年オロカでも見ましたが、背景がグラグラ揺れたり漫画的な吹き出しが多用されていたりとビジュアルノベルだからこそできる演出だと思いました。

 そしてこの作品はまだLv.0です。W-Standard,Wonderlandの世界観を感じることは出来ますがシナリオの肝は全然明かされておりません。明かされていないと言うよりは、現在提示されている情報の答えや意味を明かしていないと言った方が適切ですね。この作品、Lv.0で提示された情報を元にプレイヤーに推理させる事も1つの遊び方として提示しております。自分なりの回答を用意するのも良し、難しいことは考えず続きをプレイするのも良し、プレイヤー次第でLv.0の遊び方は幾つも存在するかもしれません。このあたりもエンターテイメント性に溢れていると思いました。誰もがLv.1を楽しみにしたくなるシナリオです。現在公式HPでもダウンロード出来るようですので、是非プレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<解決できない問題は乗り越えるしかない。それは自分自身が変わることであり最も大切なギフトである。>

 実に憎い幕引きだと思いました。始めは別々の世界だと思っていた2つのWonderlandの登場人物が出会ってしまったのですからね。ファンタジー世界から田舎世界へやってきたトト・ポッケ・エバンナ、慣れない異世界でどのような生活を送っていくのか楽しみです。ですが、大事なことはファンタジー世界も田舎世界も両方Wonderlandである事。もっと言えば現実世界は途中断片的に登場したRealの方であるという事です。

 あの不気味なReal世界な一体何なのでしょう。塔人という一人称の視点で語られた思いの他グロい演出に驚きました。女性の胸部の中身を求めるという言葉は唯の例え話なのでしょうか。物語後半で実際に死体をかき集めて家に持って帰ってきている辺り、唯の与太話ではなさそうです。そして最後に登場した沢山のモニタを見ている男性のような後ろ姿の人物、彼が塔人なのでしょうか。そして塔人という名前もどことなくトトに似てますね。これも関係あるのでしょうか。色々と想像できますが、正直なところ2つのWonderlandとどう繋がるかが全く読めませんのでこれらのキーポイントを忘れないようにしてシナリオを進めていきたいです。

 一方でLv.0の大半の時間を使って描かれたファンタジー世界の描写は素直に楽しかったです。おどおどして自信のない主人公トト、それを守ろうとする幼馴染エバンナ、そんな兄にベッタリな妹ポッケ、実に分かりやすいキャラクターだと思いました。そんな3人ですが実は凄腕のトレジャーハンターとして色々なスポットを巡り歩いてました。これについてはギアの中でも語られてましたが、ギフトと呼ばれる力の使い方がまた1つの鍵になりそうです。ギフトについてはまだまだこれからも色々と紹介されていくのでしょうが、Lv.0の中で一番心に残ったエピソードは自分自身が変わるというギフトを語る場面でした。

 作中で「解決できない問題は乗り越えるしかない」という記述がありました。要は問題の捉え方なのかも知れません。現在壁に当たって解けない問題があったとして、解決方法は壁を壊すことだけでしょうか。今はその方法しか見えなくても、時が経ち別の解決方法が見つかるかも知れません。それが自分自身が変わるということであり、問題を乗り越えるという事なんだろうと思います。引っ込み思案でフワフワしているトトにとって痛烈な言葉だったと思います。しかしこれこそが最も大切なギフトだと思いますね。いつか涙を流して何か問題を解決して一歩前に進んで欲しいと思いました。

 という訳でまとまりませんがこの辺りで締めたいと思います。Circletempoさんらしいエンターテイメント溢れる演出はプレイヤーを飽きさせず一気に物語を読む原動力になっておりました。加えて提示された数々の謎と怒涛の物語展開、Lv.0として相応しい提示だったと思います。私の想像力では多くのことは語れませんが、Lv.1をプレイした時に僅かでも予想が当たっていれば嬉しいですね。続きを楽しみにしております。


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