M.M WAS〜レピドプテラの砂時計〜 Rchronicle


<主人公の前向きで素直な性格が物語を動かしていると思いました。>

 この「WAS〜レピドプテラの砂時計〜 Rchronicle」という作品は同人サークルである「S.R.L」で制作されたビジュアルノベルです。S.R.Lさんの作品をプレイするのは今作が初めてでして、C86で同人ゲームのエリアを回っている時に手に取りました。ディストピア系の世界設定という事で正直それだけで心躍らされました。加えてパッケージに描かれた躍動感を感じるキャラクターの表情に魅せられた今回のレビューに至っております。感想ですが、とにかく登場人物達のパーソナリティが魅力的で誰もが愛するべき存在であると思いました。

 舞台は現実とは違う歴史を歩んだ地球。世界大戦が集結してからまだ10年しか経過していない日本が舞台です。この歴史では日本は戦勝国でして、他の国々との関係も現実とは変化しております。戦争からまだ10年しか経過していないという事でまだまだ復興は道半ばで、至るところにスラム街が存在しております。主人公である黒川忠芳はそんな日本の有力財閥である黒川財閥の跡取り息子としてこの世に生を受けましたが、ある日目を覚ますとスラム街に存在する見知らぬ教会にいました。そして自分が既に故人となっている記事を読みます。この世界はどうなってしまったのか、何が正しくて何が間違っているのか、そして全く変わってしまった自分を取り巻く状況にどうするのか、是非世界の謎を主人公と一緒に探して欲しいですね。

 最大の魅力は登場人物達のパーソナリティですね。物語の大半はスラム街で出会った人達との時間を描いているのですが、非常に感情的で真っ直ぐな登場人物ばかり登場します。それはヒロインである教会の修道女であるロザリオ、女ギャンブラーであるリン、かつての許嫁であるニーナの3人のみに留まらず、教会で生活している3人の子供やスラム街の荒くれ者達全てのキャラクターに色があります。取り分け協会で生活しているユリア、アラン、マーナの3人にはたいへん癒されますね。子供らしい無邪気さと素直さは大人が忘れてしまった輝きに満ちており、彼らを見ていてば大概の問題は気にならなくなりますね。スラム街という決して贅沢な環境ではない中で優しさに満ちた雰囲気を味わうことが出来ます。

 そして何よりも主人公が私の中で一番魅力的でした。黒川家で生活していた時は跡取りという事で厳しい監視環境に置かれ、外の世界を一切知らない存在でした。その為始めはスラム街での生活に戸惑う様子を見せます。ですがこの主人公、もの凄く前向きで素直な性格をしているんですね。普通だったら自分の不幸な境遇に絶望して引きこもってしまいそうですが、スラム街に来て自分が持つ順応性の高さを開花させたみたいです。その為決して暗い雰囲気になることはなく主人公が率先して皆を引っ張ってくれます。主人公の前向きで素直な性格が物語を動かしていると思いました。是非プレイヤーの皆さんも主人公のポジティブさに負けずに付いていって欲しいですね。

 プレイ時間は私で約4時間掛かりました。コロコロと変わる登場人物達の表情に魅せられているうちに時間を忘れてプレイしてしまいました。加えて水彩画のような背景描写が大変温かく、世界観を肌で感じることができます。後は結構動的な演出も多く、途中目も見張るような場面が多数あります。レピドプテラとはラテン語で蝶々の意味、是非物語の随所で登場する蝶々たちの真実を想像して欲しいと思います。この作品はまだ全3部作の第1弾です。これからのシナリオ展開が楽しみですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<どんなに人の心を読む事が出来ても人の心を掴む事はそれだけで才能なのかも知れませんね>

 ネタバレ無しでも書きましたがとにかく主人公である忠芳の前向きで素直な性格が物語を作っているのだなと思いました。教会での生活にもすぐに慣れ、誰も疑うことなくどんどん首を突っ込んでいき、それでいて気が付けば誰もが忠芳の事を慕っておりました。リンも言ってましたが、どんなに人の心を読む事が出来ても人の心を掴む事はそれだけで才能なのかも知れませんね。

 この世界を裏で動かしている存在はきっとレピドプテラの能力ですね。主人公が持っているカエルラの力、リンが持っているウィリディスの力、そして物語の最後に明かされたロザリオが持っているアウルムの力は分かりませんが、どれも人の心に干渉し人の心を見る力でした。それは普通の人間が持っている能力を超えた力、今後彼ら能力者がどのように関わっていくのか楽しみです。そしてそんな能力者を狙う勢力とそんな勢力とは無関係そうに振舞う商人と呼ばれる男。それぞれの思惑が交差する中で再び戦争が始まってしまうのか、そもそも彼らの目的は何なのか、色々と妄想しながら次回作を待とうと思います。

 とりあえず世界の秘密やレピドプテラの秘密については追々語れれることを信じて、この作品を支配しているのは圧倒的な人の優しさと人を信じる力でした。物語中盤、忠芳は自分の力が弱いことで教会の皆を守れない自分に嫌気がさしてロザリオに「俺なんかいなくなればいい」と言ってしまいました。ですがそれは忠芳の勝手な思い込みでした。ロザリオにとってもユリア、アラン、マーナの3人にとっても、忠芳は忠芳として唯そばにいてくれれば良かったのかも知れません。自分を守ってくれる存在でなくても居るだけで安心できる存在、それが忠芳の魅力なのかも知れません。

 そしてそんな忠芳を慕う人は教会の人間だけではありませんでした。始めは金目の物を身に付けている鴨にしか見てなかったスラム街の人も、会うたびに親しくなり食べ物や飲み物などを差し入れてくれました。食料でさえ入手できない厳しい状況であるにも関わらずです。どんなに環境が悪化しても、やはり人と人との繋がりと言いますか優しさというものは存在し続けるのだと思いました。そしてそれは忠芳の素直な性格だからという事も忘れてはいけません。片方が心を開けばもう片方も案外心を開いてくれるものです。リンが忠芳を慕うようになったのもそんな忠芳の素直さにあてられたからでした。やはりリンが言ってましたが、忠芳の人の心を掴む力はレピドプテラ以上の能力なのでしょうね。

 という訳で裕福な生活から一転生きることに必死な生活になってしまいましたが、持ち前の明るさと素直さですっかりスラム街に馴染んだ忠芳でした。今後また謎の男によるアプローチが忠芳とその周りの人に影響を与えるのだと思います。次回はロザリオに手が掛かるみたいです。彼女が持つ能力はなんなのか、今後忠芳と周りの人の関係はどうなるのか、それでも忠芳は持ち前の明るさと素直さを貫けるのか、見所満載ですね。楽しみです。


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