M.M アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ 〜第一章 テクノ原理


<日常会話の自然な空気感が何とも心地よいですね>

 この「アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ 〜第一章 テクノ原理」は同人サークルである「人工くらげ」で制作されたビジュアルノベルです。人工くらげさんと初めて出会ったのはC86で同人ゲームを見せ合う会に参加した時でした。厳密には人工くらげさんではなくサークル代表の山科さんとお話させて頂きました。その後C87で改めて人工くらげさんを訪問させて頂き、その時に入手したのが今回のレビューとなっている「アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ」です。感想ですが、とにかく大学生らしい日常的な会話とそんな会話に溶け込むように描かれる風景描写に感動しました。

 主人公である山賀は大学院生です。大学内のオタクサークルに所属しており、サークル員の野之原や機見さんと共に日々徒然なく過ごしておりました。このオタクサークルにはちょっとした伝統がありました。それは「火の七日間」と呼ばれるイベントで、七日間ぶっ通しで何かをやるというこれもまた徒然ないイベントです。やる事もその時次第で何も決まっておらず、全てがノリのイベントです。ですが今回はひょんな切っ掛けでノベルゲームを作ることになりました。シナリオライターは山賀です。果たしてどんなノベルゲームが仕上がるのか。そもそも本当にノベルゲームは完成するのか。前途多難な火の七日間が幕を開けます。

 この作品の最大の魅力は冒頭でも書きましたがとにかく日常の会話の自然さです。主人公を始めとして主要な登場人物は全員20代の大学生及び大学院生です。大学生大学院生といってもピンキリだと思いますが、一般的には特に感情の起伏もなく日々研究を行いながらダラダラを過ごすイメージです。この作品に登場する人物達もそんな感じで、決して情熱的ではありませんが怠惰というわけでもなく本当に「極々どこにでもいる大学院生」です。どうでもいい話題でダラダラと会話をして、ちょっと熱中したかと思えば現実に帰ってきてまたボーッとしたり、笑ったり怒ったり拗ねたりそのどれもが馴れ合いといった感じで気兼ねない空気が漂っております。この空気感が何とも心地よいですね。私自身も会話に集中するでもなくかと言って流し読みするでもなく、自然なリズムでクリックすることが出来ました。

 そしてこの作品は主人公がノベルゲームを作る作品ということで、途中選択肢が出てきます。それはどのようなノベルゲームを作るかという選択肢。この選択肢でその後の展開が全て決まってしまいます。果たして主人公が作るのは一般的な学園ものなのか、それとも有名作品の二次創作なのか、はたまた壮大なSF作品なのか、是非それぞれの選択でどのように展開が変化していくか見届けて欲しいですね。この作品、その後同じテキストが一つとして出てきません。例え同じような時間軸でも微妙に会話や展開が変化しておりその差異を楽しむのもまた魅力かと思います。是非バリエーション豊富な日常会話を堪能して欲しいですね。

 プレイ時間は私で1時間20分掛かりました。この作品は第一章ですのでまだ物語は続きます。どの選択肢を選んでも終わり方は同じです。いや、同じように見えます。ですがどうやらプレイヤーが選んだ選択で微妙に展開は変化していくようです。そんな事を匂わせるような幕引きでした。果たしてこの先主人公はノベルゲームを完成させる事が出来るのか。そしてタイトルにある「アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ」とは何のことなのか。第二章が楽しみです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<会話のバリエーションを楽しむ事こそこの作品の醍醐味なのかも知れません>

 上でも書きましたが本当に日常会話の空気感が素敵でした。テレビで流れている歌番組、ワイン、お茶、食べ物の好み、車の防犯ブザー、携帯の点滅する様子など当たり前の話題や風景について展開される会話、そのどれもが本当に自然でまるで自分自身が体感しているみたいでした。個人的に一番気に入った描写は冷蔵庫を開く「がばり」という表現でした。「あ〜、あるある!」って唸ってしまいました。読んでいて全くストレスを感じませんでした。

 そして途中出てくる3つの選択肢からの展開も完全に独立していて凄いと思いました。ノベルゲームの設定が違うのは当たり前なのですが、その後のワイン抜きを買いに行く展開や翌日お昼を買いに行く展開、その後民族料理店に行く展開が同じにも関わらず微妙に会話や時間の流れが違ってましたからね。よくもまあここまで差別化を図れるなと感動してしまいました。始めは「既読スキップ出来ないの?」って思いましたが、それも一瞬でした。これはむしろ既読スキップなんてしてはいけませんね。例え一つ一つの会話に深い意味はないとしても、その深い意味のない会話のバリエーションを楽しむ事こそこの作品の醍醐味なのかも知れません。

 ですがどうやらその会話の些細な違いはどうやら今後の展開で意味を持ってきそうです。物語最後にようやく登場した「アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ」の文字、そしてそこから出てきた謎の少女、一気にファンタジーになってしまいました。それまでの日常が余りにも自然だった為に私も思わず「なに〜〜!!!」って言ってしまいましたね。そしてその直後で第一章は終わりですよ。これはもう直ぐにでも第二章に取り掛かるべきですね。各章ごとのプレイ時間は短そうですので、空いた時間を見つけてどんどん消化していこうと思います。

 私は何も考えずに上から順に選択肢を選んで行きました。その為必然的に最後に選んだのはSFでしたが、これだけ唯一制作のテンポが遅いですね。これも後々意味を持ってきそうです。果たして自分オンリーイベントとは何なのか。並行世界の自分とは何なのか。最終的に選ばれるノベルゲームとはどういう意味なのか。この作品のゴールには何が待っているのか。一気に妄想が膨らみました。それでもまあ基本は日常の会話を楽しめそうですねまずはそのリズムを忘れずに読み進めていこうと思います。早速第二章に入ろうと思います。


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