M.M 月に寄りそう乙女の作法2


<魅力ある登場人物と動きの細やかな演出は過去作と同等かそれ以上のものあります>

 この「月に寄りそう乙女の作法2」は老舗のブランドである「Navel」から2014年12月に発売された作品です。Navelの作品では過去に「俺たちに翼はない」をプレイしたことがあり、その圧倒的なテキストで描かれた人物とそれ以上に壮大で綿密なシナリオに感動した事を覚えております。今回プレイした「月に寄りそう乙女の作法2」は前作である「月に寄りそう乙女の作法」及びその続編である「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」の服飾シリーズの第三弾であり、過去作品以上に魅力の詰まった内容でした。

 タイトルに「2」とあります通り、舞台やプロットは過去作である「月に寄りそう乙女の作法」と同じとなっております。主人公である「桜小路才華」はその苗字から推察される通り前作のヒロインであるあの「お優しいルナ様」の息子です。そしてそんな桜小路才華が女装しメイドとして名乗る名前である「小倉朝陽」も勿論前作の主人公が名乗った「小倉朝日」そのものです。今作も服飾の道を目指した主人公がその権力を使い女性としてフィリア学園での生活を始めるところから始まります。そして他の登場人物もメインヒロイン、サブキャラクターまで全員一筋縄ではいかない人物ばかりです。全てにおいてまさに「月に寄りそう乙女の作法」であり、過去作をプレイされた方であれば楽しめる要素が満載になっております。それでも過去作の人物を知らなくてもシナリオは読めますので、初めての方でも問題ありません。

 最大の魅力はやはり登場人物の魅力ですね。主人公である桜小路才華はその真っ白な髪と赤い瞳で人間離れしており、女性よりも女性らしい振る舞いであらゆる登場人物を虜にしていきます。そして前作との違いは桜小路才華が圧倒的にナルシストであるという事です。自分が美しいのは当然の事であり、自分の髪が褒められる事に最大の喜びを感じるのです。これは前作とは違いますね。前作の主人公である大蔵遊星もそれは美しい姿を披露してくれましたが、あくまでメイドとして完全であり礼儀正しく大人しい正確でした。もちろん桜小路才華も礼儀正しく大人しいのですが、そのナルシストっぷりがにじみ出ておりヒロイン達と過去作までと違ったやり取りを楽しむことが出来ます。

 そしてメインヒロインやサブキャラクターも勿論魅力に溢れております。前作は「桜小路ルナ」もとい「お優しいルナ様」の圧倒的なカリスマ性に惹かれました。今作にはあそこまでカリスマ性に溢れた人物はいなかった印象ですが、それぞれの人物が自分の目的や誇りを持っており癖はあるものの好感の持てる人物ばかりであります。まあ、桜小路ルナのカリスマ性が圧倒的過ぎるとも思えますね。あれは中々出す事が出来ません。カリスマ性でやインパクトという意味では過去作よりも平坦な印象ですが、その分内面的な部分で一歩深く掘り下げた印象でありプレイ後の今ではこちらのヒロインの好感が大きいかも知れません。何が言いたいのかといいますと、今作も過去作に負けず劣らずの魅力溢れた人物が大勢出てくるという事です。

 そして背景やBGM、演出面も相変わらずNavelらしさが出ておりました。テンポの良いテキストは過去作同様であり、そのテキストに合わせるように動く立ち絵・絶妙に使い分けている効果音・素早く変化する場面も流石でした。見ているだけで楽しくなってくる演出でした。そして今作も服飾をテーマにしております。そのテーマの通り衣装には大変な拘りを持っており、彼女たちが精一杯作った作品の魅力を余すことなく描いております。一言で言えば美しいです。これこそまさにビジュアルノベルだからこそ表現できたものだと思っております。BGMも全体的に落ち着いた印象のものが多く、お嬢様が多いフィリア学園の雰囲気をよく表現しております。そしてメインヒロインにはそれぞれテーマ曲があり、どれも彼女らしさに溢れておりました。

 プレイ時間は私で17時間かかりました。これは共通パートで約6時間、各ヒロインで約2時間、メインヒロインであるエストで約5時間でした。既読スキップしておりますので、共通パートを読み返せば30時間は超えると思います。他の作品と比較して非常に長い共通パートですが、上でも書いたテンポの良いテキストで実際は6時間もかからない印象です。ちなみに選択肢もヒロインを分岐させるだけの最小限なものですので迷うこともありません。また現段階で修正パッチがダウンロードできます。これをしないと特定のCGやHシーンが見れませんので是非当てたほうが良いです。とにかく魅力ある登場人物と動きの細やかな演出は過去作と同等かそれ以上のものあります。過去作をプレイされた方は勿論、そうではない方にも大変オススメです。可能であれば前作である「月に寄りそう乙女の作法」及びその続編である「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」をプレイしてからやって欲しいですね。よりこの作品を楽しめると思います。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分の技術に誇りを持ち、その技術を持って成すべき目標を具体的にする事の大切さ>

 服って、やはり最終的には着るものですのでどんなに高価で手間暇かかって美しいものでも誰かが着ないと意味がないんですね。逆に言えば誰か一人でも自分が作った服を着てくれるのであればそれ以上の喜びはないのですね。何故服を作るのか?作った服をどうしたいのか?この作品はそんな問いかけに対して最もシンプルな回答にたどり着くまでの物語なのかも知れません。

 桜小路才華はナルシストでしたので、自分が賞賛され褒められる事が一番の喜びでした。そして彼がフィリア学園に入学したのは、自分と同じ白髪と赤目を持った母親であるルナ様を超える為でした。そこには自分が作った服を誰かに着てもらいたいという思いが一番ではなく、あくまで服飾という道において誰からも認められる事が一番でした。勿論有名な賞を取ることや学園で一番の成績を修める事は結果として知名度を上げ多くの人に自分の服を着て貰う事に繋がります。ですが桜小路才華には服を着てもらう具体的な人物やビジョンがありませんでした。それが桜小路才華に足りないものであり、最終的に彼が手に入れたかけがえのない物でした。

 エストシナリオの最後、ジャズティーヌは「着る相手のことを考えて、考えぬいて、考えつづけること。」と話してました。これは銀条が初めから持ち合わせていた気持ちでした。ジャズティーヌもまた桜小路才華と同様自分が作った服を着せて見せる相手のビジョンを持ってませんでした。始めはジャスティーヌの方が当たりがキツく思いやりのない印象でしたが、本質的には桜小路才華と同じでした。ですが、クラスメイトと協力して一つの作品を作っていく、また自分の大切な人の為だけ作品を作る事を通して自分に足りないものを見つける事が出来ました。それが見つかったとき、桜小路才華やジャスティーヌにとって賞を取ることが一番ではなくなっておりました。大切な事は着る相手のことを考えること。そのビジョンが明確になったとき、もう彼らを止めるものはなくなってました。

 そしてこの作品ではもう一つ大切なものを教えてくれました。それは自分に誇りを持つことです。八日堂シナリオで彼女は「誇りのない私など、臭く、酷い生き物です」とハッキリ言いました。彼女は自分の女優としての実力に絶対の自信を持ってました。そしてそれこそが彼女の誇りであり自分が生きる意味でありました。これは絶対に譲ってはいけないもの。何故ならその誇りは彼女が努力して長い時間を掛けて身につけたものだからです。技術って、目には見えない分理解のない人には安く扱われがちだと思います。ですが実際は物とは違い大変価値のあるものです。そしてそれは安請け合いしては決して行けないものです。自分に自信が有り、それを周りも認めているのであれば精一杯その価値を主張するべきでした。それはとても正当な事。そしてそれが誇りというものでした。

 これは八日堂だけではなくルミネのピアノ、アトレの料理も同じです。分野は違えど全て彼ら彼女らしか持っていない技術です。それは唯一無二ものであり誇って良いものです。それを大切にする事もまたこの作品で言いたいことだと思いました。そしてその誇りを持ってなすべき目標を具体的にする事。演劇やピアノでは見たり聴いたりする人を感動させる、料理であれば食べた人を満足させる、そして服飾であれば来てくれる人を喜ばせるです。主人公やヒロイン達は殆ど自分の目指すものについては完成させておりました。ですがそれでも足りない部分がありました。その足りない部分について、このフィリア学園の中で見つけることが出来たんですね。

 始めは桜小路才華がヒロインと親しくなり、途中何らかの形で女装がバレてもこれまで築いてきた信頼関係で許されハッピーエンドになるシナリオだけだと思ってました。事実大まかな流れは同じでしたが、その中で表現されたテーマは過去作以上にストンと私の中に伝わりました。服飾、演劇、音楽、料理、どれも自分一人では完成せずそれを受け取ってくれる相手がいて完成するものです。その受け取ってくれる相手の事を想ったとき、この作品の目的は達成されたのだと思います。これからも桜小路才華とヒロインは末永く幸せに暮らすのだろうと思います。自分の愛する人に自分の技術を捧げる事が出来るのですから。そんな輝かしい未来を信じて今回のレビューと致します。ありがとうございました。


→Game Review
→Main

inserted by FC2 system