M.M トモシビはいつ消えるのか 紅き日の思い出


 この「トモシビはいつ消えるのか 紅き日の思い出」は前作である「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-」の続編となっております。したがってこの「トモシビはいつ消えるのか 紅き日の思い出」のネタバレ有り・ネタバレ無し双方のレビューに「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-」のネタバレが含まれていますので、「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-」のネタバレを避けたい方は避難して下さい。「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-」のレビューはこちらからどうぞ。

※「トモシビはいつ消えるのか 紅き日の思い出」を未プレイでもネタバレ無しのレビューはご覧になれます。


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<前作とはうって変わって登場人物の心理描写に重点を置いた文章>

 この「トモシビはいつ消えるのか 紅き日の思い出(以下紅き日の思い出)」という作品は同人サークルである「アンチョビプリン」で制作されたサウンドノベルです。タイトルの通りこの作品は「トモシビはいつ消えるのか」というシリーズものの1つであり、前作である「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-(以下白の少女)」の続編です。発売されたのはC82でして、私はこの時に白の少女と合わせて購入していました。でずが前作と合わせて中々プレイできてなかったのですが、COMITIA102でアンチョビプリンさんとお話しして優先的にプレイしようと決め、白の少女と合わせて連続で終わらせました。基本的な世界観はもちろん白の少女も紅き日の思い出も同じであり、白の少女が気に入った方であれば問題なくプレイ出来る作品だと思っております。というよりも紅き日の思い出は白の少女の正当な続編ですのでやらないという選択肢は無いと思いますけどね。感想ですけど、白の少女とはまた表現するものが違っているという印象を受けました。

 白の少女をプレイされた方なら分かりますが紅き日の思い出は白の少女で悠が死んでからの話となります。転死病とはどのようなものか、旧隔離地域で何が起こっているのか、ラボの真相は何か、謎の誘拐集団は何者か、主人公の過去は何なのか、それらの伏線を残しつつ大切な友達を失ってしまった物語でした。こんな言い方をしては冷たいかも知れませんが、白の少女で悠が死んだことで改めて転死病の残酷さやどうしようもなさを認識できたのではないかと思います。そしてその死から十分な時間を空ける事も許されず、主人公は義父から指示を受けて新たに動き出す事となる訳です。

 今作の特徴としまして一番のポイントはやはり文章そのものですね。これはシナリオという事ではなく文章で重点的に表現したいことという意味です。白の少女ではどうしても転死病や旧隔離地域という近未来的な設定にプレイヤーを取り込ませる意味もあり状況説明的な文章が目立った印象でした。ですがこの紅き日の思い出をプレイされている方はほぼ間違いなく白の少女はプレイ済みだと思いますので、改めてそういった状況説明は必要ない訳です。その分今作では前作では若干不足だと感じた人物描写に力が入っていたと感じています。もちろん白の少女で人物描写を怠っていたという事ではありません。ですがどうしても主人公の説明的な文章の印象が記憶に残り、登場人物の細かな心理描写まで目が届きませんでした。そういう意味で今作では逆に登場人物の心理描写が目立っており、より深くこのトモシビはいつ消えるのかの世界にはまる事が出来るのではないかと思っております。

 後はシステム面でですが、白の少女のあらすじが見れるようになっています。私は白の少女をプレイして間もなかったので見ませんでしたが、日が開いた方にとってはありがたいシステムだったのではないでしょうか。そして白の少女にはあった「用語集」や「人物紹介」が無くなっていました。白の少女での便利さが印象的でしたのでなくなったのは残念でしたが、まあ逆にそういった要素が無くなる事でより文章に入り込むように読むようにしたのは事実ですし、逆にそういった補助機能がまずはこの世界観を理解してもらいたいというサークル側の意向にも思えましたので、白の少女をプレイして引き続き紅き日の思い出をプレイするようなプレイヤーには必要ない機能なのかも知れません。

 何れにしても白の少女が気に入ったのであれば是非プレイして頂きたいですね。転死病の余りにも無慈悲な現実を目の当たりにして、果たしてこれを取り巻く真実を解明できるのか、気になっている方はもうプレイするしか解決す方法はありませんね。プレイ時間も白の少女と同じくらいですので忙しい方でも片手間でプレイできると思います。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人は失ってみて傍にいる人との繋がりの大切さに気付くんですね>

 まずは最大の謎である主人公の5年前の過去について明らかにすることが出来ました。それと同時に紅音の過去も明らかになりましたのであとは転死病そのものの謎、ラボの真実、椿姫と義父の思惑について明らかにするだけです。今回は自警団との関わりを中心にそれぞれの人物の細かい心の中を垣間見る事が出来たと思います。特にメインとなる寿々と紅音については状況の変化で主人公との心のギスギスが増しある意味で人間的な部分が表れてました。それだからこそ主人公は諦めないで最後まで自分の力で真実を明らかにするという意識を持てたんですね。

 今回一番注目するべき人物はやはり主人公です。見る人が見れば主人公は論理的で本当の意味で寿々と紅音に向かい合っていない寂しげな印象を受けたと思います。事実そういった主人公の打算的な行動によって寿々との信頼関係を失い紅音の本音も聞き出せないまま自暴自棄になってしまいました。ですがそれもある意味主人公の生い立ちや任務に起因する部分はあったのでしょうね。主人公は何も間違ったことをしていないのです。自分に過去の記憶がないから義父を絶対裏切れない事はしょうがない事ですし、義父からの指示を的確にこなすことがもう本能的に動く基盤になっているのでしょうね。だからこそ本人は決して手を抜いている訳ではないのに寿々や紅音に対する行動にどこか本気度を感じなかったのだと思います。

 ですが人間関係ってそういった計算では絶対上手くいかないんですね。「この位すれば大丈夫だろう。」とか推し測って動いているとそういった思惑は絶対相手にはばれますからね。やはりどれだけ相手の気持ちに立って相手に対して誠意をもって動くのかという事が大事ですね。シナリオの中でも千夏が言ってましたけど、人の気持ちって理屈で語れないんですね。例え自分の力が及ばなくて結果が伴わなくてもどれだけ自分の行動に一生懸命さが見えるかという事が大事なんだと思いました。

 そういう意味では今回の紅き日の思い出の中の大半は主人公の計算の中でどうやって自警団の真実を暴き出すかという事柄でした。そしてそれの比較として寿々の満たされない寂しさが表現されてました。確かに様々な事件があって自警団の方に目が行きがちですが、結局はそれらは全て寿々にとって蚊帳の外だった訳で、寿々ずっと寂しい思いをしていた事には変わりないわけですね。その後は結果として主人公の計算通りには行かず大切な人を失い紅音とも絶縁され落ち込んでいる中で蚊帳の外として扱っていた寿々に慰められるわけです。全て自分の計算で動けると思っていた主人公にとってそんな寿々の言葉はノイズでしかなかった訳で、結果冷たく当たってしまい寿々との信頼関係を壊してしまいました。そして全てを失って初めて、主人公は人と向き合う為に動く事が出来るようになったわけです。

 人って、失ってみて傍にいた人の大切さに気付くんですね。ずっと義父の言うとおりに動いていればいい、それが達成されれば何を失っても構わない、そんな思いがひょっとしたら主人公にはあったのかも知れません。ですがそれは間違いでした。そしてその間違いに一番先に気付いたのは他ならぬ主人公だった訳です。やはり身の回りの人を大切に出来ないと人ってダメになるんですね。一度でも関わりを持ってしまえば無視できないのが人間です。例え人に話す事が出来ない秘密を持っていても構わないんです。ただ人との繋がりが大切だという事を忘れなければそれでいいんだと思います。

 今回の自警団との関わりはもしかしたらそんな単純で大切な事柄に気付かせるための指示だったのかも知れませんね。もしかしたら義父もそれを見越していたのかも知れません。きっとこれからの主人公はそういった人との繋がりの大切さを失わず義父からの指示もこなしながら苦労して任務に当たるのだと思います。元々頭の良い主人公です。困難はあれどきっと成功に導くのだと思います。後はとにかくこの世界の根本的な謎を解明するだけです。結局のところ根本的な部分は明らかになってませんからね。今回一番気になった伏線はやはりラボに送られた転死病死者が実は死んでないかも知れない疑惑ですね。この展開は予想は出来てましたけどとりあえず楽しみですね。もしかしたら悠との再開もあり得るかも知れませんし、何はともあれ続編を待つことにしますね。


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