M.M ThanatoFobia ひとりぼっちのかげぼうし 第壱章


<気持ち悪い存在を気持ち悪く書く、このリアルさは流石TimidLimitさんのテキストだと思いました>

 この「ThanatoFobia ひとりぼっちのかげぼうし」という作品は同人サークル「TimidLimit」で制作されたビジュアルノベルです。TimidLimitさんの作品では過去に「TearDrop〜虹人の思い出〜Refrain」をプレイした事があり、リアルな高校生の日常を描いたテキストが大変印象的な泣きゲーでした。今回プレイした「ThanatoFobia ひとりぼっちのかげぼうし」もまた前作同様のテーマを持っておりますが、ジャンルは違いネガティブソウルカタルシスと唄っております。その名の通り死に対する漠然とした恐怖を持っている主人公が夜の公園で死神と出会うところから物語が幕を開けます。

 タイトルにあるThanatoFobiaとはタナトフォビアと読み、意味は死に体する恐怖といった感じです。主人公である禊萩明日可(ミソハギアスカ)は受験にも就職にも失敗したいわゆる落ちこぼれの存在で、それが故に人との関わりを絶った生活を送っておりました。自分自身をクズと自認しており常に人の視線に怯えている生活はまさに死んでいるかのようです。そんな主人公がとある出来事を切っ掛けにして1人の死神と出会います。彼女は主人公に「死にたいの?生きていたくないの?」と問いかけ、その答えが帰ってくるまで待ち続ける存在でした。一日にして非日常の世界へを足を踏みれてしまった主人公、果たして彼女の目的はなんなのか、そして主人公はどのような結論を出すのかが気になります。

 最大の魅力はやはり主人公のパーソナリティの書き方ですね。ハッキリ言ってこの主人公は見ていて気持ちのいい者ではありません。全てにおいて投げやりで悲観的であるだけではなく、プライドは無駄に大きいので一々心に思っていることが痛々しいです。コンビニの定員にイライラしたり朝マラソンをしている近所の人に舌打ちしたり、僅かに残ったプライドを守るために必死に生きているだけの存在です。徹底的に気持ち悪い存在を気持ち悪く書く、このリアルさは流石TimidLimitさんのテキストだと思いました。ですがそんな主人公であるからこそこの死神との出会いが印象的に映るのかも知れません。全てにおいて投げやりな主人公は例え出会った存在が死神だったとしても必死に会話をしようとします。この健気さもまた主人公の魅力であり、今作の注目するべきポイントだと思いました。

 そしてまだこの作品は第壱章です。プレイ時間的には私で2時間20分でした。正直第壱章では何も結論が出ません。死神の目的も分かりませんしどのような結末へ向かっているかも分かりません。ただ、夜の公園での主人公と死神との会合を傍観するだけになると思います。それでもリアルな気持ち悪さとそれでも死神とコミュニケーションを取ろうとする主人公の様子は逆に微笑ましくも思えてきます。是非プレイヤーの皆さんは歩みは遅いですが必死にコミュニケーションを取ろうとする主人公を見守って欲しいですね。そして随所に散りばめられた伏線がどのように繋がってくるのかも想像して欲しいです。後半に向けて加速度的に盛り上がってくれるだろう予感を胸に、次回作を待とうと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<ヨミは死神ですが、アスカにとっては間違いなく天使に見えたのではないでしょうか。>

 ネタバレ無しでも書きましたがこの作品はまだ第壱章ですので明確な結論は何一つ出ておりません。死神であるヨミの本当の目的はなんなのか、アスカの何がヨミを呼び寄せたのが、パラミシアとは何者なのか、後半で登場した赤い髪の死神との関係性は何なのか、「死を記憶する」とはどういう事なのか、数多くの伏線を張っておりますがその答えは第二章以降に明らかになると思っております。とりあえずは夜の公園でのアスカとヨミの会合が第壱章の全てであり、2人の噛み合わない会話をずっと見続けるのが不思議と楽しくなっておりました。

 何なのでしょうね、どうしてこのTimidLimitさんのテキストに惹かれるんでしょうね。最初は唯のウザい主人公だなとしか思ってませんでしたが、次第にそれが気にならなくなり後半は何故か応援しているんですよね。ヨミもヨミで訳の分からない事を言う電波なやつだなと思ってましたが、次第に彼女の真意を知りたいと思い耳を傾けているんですよね。アスカがそうでしたが、私も夜になって公園に行きヨミと意味のない会話をする様子を見るのが楽しみになってました。そして回数を重ねていく中で少しずつお互いの距離が近くなっていき、ベンチで隣通しで座るのが当たり前になっていく様子は微笑ましくも思えました。これもやはりTimidLimitさんのテキストの魅力なのかなと思っております。

 思えばテキストの殆どは主人公の心理描写でした。会話は会話で普通にあるのですが、それ以外は主人公が心の中で思っていることだけでした。流れていくテキストが全て主人公の心理描写であれば、私が主人公の気持ちに共感し応援したくなるのは必然だったのかも知れません。常に主人公目線であり、ヨミに対する疑問も想いも何もかも赤裸々に語れれるテキストでしたので読んでいてすんなりと頭の中に入ってきました。

 あとこのシナリオで一番印象に残ったのはアスカがヨミの事を「俺専属のヨミ」と言ったところでしたね。もうこの時のアスカの嬉しさって言ったら見ているこっちが恥ずかしくなってくる程でした。今まで彼女どころか女の子の友達もいなかったアスカにとって、本当にこのヨミという存在は掛け替えのない存在なんだなと思いました。ヨミは死神ですが、アスカにとっては間違いなく天使に見えたのではないでしょうか。第壱章ではそんなアスカとヨミが1つ屋根の下で生活するところで終わっておりました。恐らくこれから赤い髪の死神との衝突がありその他のキャラクターも登場したりして物語は加速するのだと思いますが、いつまでもアスカのヨミを愛おしく思う気持ちを失って欲しくないと思いました。これからどのように物語が展開していくのか楽しみです。ありがとうございました。


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