M.M TearDrop〜虹人の思い出〜Refrain


<リアルな高校生の日常を描いたテキストに良い意味でやられてしまいました>

 この「TearDrop〜虹人の思い出〜Refrain」というタイトルは同人サークルである「TimidLimit」から発売された作品です。私が初めてこのサークルを知ったのはSC56の時でして、実はSC56では同人ゲームのサークル数が極端に少ない事もありとりあえず参加されている全てのサークルの作品を入手しようという気持ちでした。そういう意味で当時はこの「TearDrop〜虹人の思い出〜Refrain(以下ティアドロ)」を目当てで購入した訳ではなく、数多くある同人サークルの1つ程度の認識でした。ですがその後コミケやCOMITIAなど様々な即売会の場でこの「TimidLimit」さんをお目に掛ける事があり、毎回毎回「まだプレイしてないんです」と断るのもいい加減恐縮でしたので思い切ってプレイしてしまいました。感想ですが、どうしてもっと早くプレイしなかったのだろうと後悔する程泣けるシナリオと、それを演出する日常シーンの拘りにやられました。

 OHPを見ればわかりますが、この作品は所謂「泣きゲー」と呼ばれるジャンルです。泣きゲーと言えばやはり「key」作品に代表される様な感動系の作品がまず頭に浮かぶかと思いますが、このティアドロは確かにシナリオ的には涙を誘う部分はありますが感動系かと言われればそのように言い切るのは違うのかも知れません。これは決して感動しないという意味ではありません。ティアドロのシナリオの中で非常に重要になってくる要素が、最初から最後まで一貫して描かれる日常の雰囲気だからです。

 この作品に登場する人物の殆どは高校生です。高校生の日常と聞いて、ちょっと自分自身の高校生時代の生活を思い出してみて下さい。正直黒歴史と呼べる思い出や今考えれば恥ずかしいような言動や行動に心当たりがあるのではないかと思います。ちょっと背伸びしているかと思えば全然周りに気をつかえていない、それでもまだ子供ですし寧ろこれから先に無限の可能性があるのでそんな事なんて何も気にする必要のなかった時代です。何が言いたかったのかと言いますと、このティアドロはそんな今思えば恥ずかしい時代の雰囲気を思い出させるようなテキストばかりだという事です。

 正直プレイ開始数時間はつまらないと思います。リアルな高校生らしいテキストばかりで大人になった現代の私達と共感できる要素が無く(むしろ恥ずかしいと思わせるテキストですし)、それでいてそんな日常がずっと淡々と描かれているからです。ティアドロの特徴として一日一日が結構長い事もあります。その為シナリオはなかなか進まずいつになったらエンディングにたどり着けるのだろうという気持ちになると思います。私がそうでした。とりあえず1人クリアしてもう割とやる気を削がれて後は惰性でやろうかなとも思いました。ですがそのつまらないという気持ちをとりあえず我慢して辛抱強くプレイしますと、これが不思議なことにそんなリアルな高校生らしいテキストが結構馴染んできていつの間にか受け入れている自分がいたんですね。

 私が個人的に感じている事に「プレイ時間と点数はある程度比例すると思う」というものがありますが、このティアドロはまさにその典型ですね。この作品は私でとりあえず20時間程度でフルクリアしたのですが、プレイ時間も10時間を超えてある程度テキストに慣れてくると逆にこのリアルな高校生の日常が掛け替えのないものに思えてくるんですね。そして慣れると逆にリアルな高校生の日常を描いたテキストですので逆に微笑ましく感じ、クリックする事が苦でなくなってくるんですね。そしてそんな感じで慣れてきたなかで「泣きゲー」の本領発揮なシナリオが展開されていきます。もうこうなるとどっぷりとシナリオに浸かるしかありませんね。珍しく泣かせて頂きました。

 上でも書きましたが開始数時間はテキストに慣れず投げ出したくなると思います。ですがそこで1つ踏みとどまってとりあえず辛抱強くプレイしてみて下さい。そして是非テキストにやられてください(良い意味で)。そうすれば後は泣きゲーらしいシナリオを十分堪能する事が出来ます。その他の要素である背景やBGMやキャラクターの描写についてはやはり同人サークルという事もあり荒削りな部分はあります。この辺りも気になる人には気になるとは思いますが、そういった部分も含めて是非慣れて下さい。このテキストや雰囲気に慣れてしまえば、後は最後まで突っ走って下さい。結構なプレイ時間を想定して余裕を持ったスケジュールでプレイする事をお勧めします。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<正直楚羅EDの為にこのリアルな高校生の日常が用意されたと思ってしまいますね>

 ネタバレ無しでも書きましたが、とりあえずテキストに慣れるまでは結構苦痛でした。単調な日常シーンを見せられて恥ずかしくなるような会話を聞かされて、文章を読んでいくことが退屈でした。とりあえずレナEDを迎えてまた頭からプレイするのかと思うとそこまでやる気は湧きませんでした。ですのでとりあえずレナEDを迎えてその日はプレイを中断したのですが、翌日になると何故か頭の中でそんな退屈な文章がリフレインしていたんです。そして同時に退屈に思うにはまだ早すぎると考えるようになり、そもそもそんなテキストが退屈という理由で投げ出すのは間違っていると思い心機一転して再プレイしていました。それ程までにこのテキストには騙されてやられたという印象でしたね。

 正直言いたい事の殆どはネタバレ無しで書いてしまったのですが、とにかくリアルな高校生の日常がこの作品の全てであると思います。リアルな日常であるからこそ逆にシナリオに説得力が生まれ、その後の泣き要素を引き立てるのではないかと思います。本当に前半も中盤も後半も主人公のどこか抜けた感じの思考や行動は変化することなく、唐突に物語は終わったような印象だったのではないでしょうか。ですがそれが逆に良かったのかも知れません。あからざまに終盤だな〜という印象を持たせるということはつまりリアルな日常が終わるんだな〜という事と同義です。それは寂しい事です。私もこのリアルな日常はいつになっても終わって欲しくないと思いましたからね。

 ですがいわゆるグランドエンディングに相当する楚羅EDはかなり後半の泣き要素は長かったですね。途中までは女子会や男子会など徹底した楽しい日常に仕上げておきながら、その後にたった1日だけの主人公とレナの慎ましくも穏やかな日常であり、そしてレナがいなくなってから主人公が立ち直るまでの流れは見事だと思いました。特に主人公とレナだけの1日限りの日常の殆どは2人の会話だけで構成されており、それも中々シナリオが進まず生々しいリアルな日常であるがゆえに非常にこそばゆかったですね。ですが既にその日は8月4日という事でこれが最初で最後の1日になるという事はプレイヤーは分かっている訳です。だからこそこそばゆいと同時に可哀想とも思いました。

 そして正直8月5日になってシナリオは終わるのかと思いました。ですがその後主人公が立ち直るまでの流れは感動モノでした。まずは男友達の励ましと特に翠が主人公と同じ気持ちであったという告白は胸を打たれました。そして最後に普段勝気な楚羅が告白した過去と涙に完全にもっていかれました。本当に主人公は素敵な仲間に出会えたんだと羨ましく思いましたね。これだけの仲間に愛されればそう遠くない未来で主人公はレナの死を受け入れる事が出来るのではないでしょうか。そうすれば改めてレナと向き合う事が出来、涙で「きいろいいぬ」を濡らす日々ともおさらば出来ると思います。

 何よりも8月5日になって主人公がレナが消えた事を受け入れられず涙を流す日々が私的にはかなり心に来るものがありましたね。あれだけ慎ましくも楽しい日常生活を見せつけられた事もあり主人公の気持ちが痛いほど分かりましたからね。レナの幻聴らしきものが聞こえてその度に一喜一憂したり、「きいろいいぬ」に八つ当たりしながらその後ごめんなさいと誤ったりする様子はリアルすぎて一番の泣き所だと思いました。最後にこんな泣かせるテキストを用意しているなんて、本当に途中で投げ出さずにプレイし続けて良かったと思っております。

 全体を通すとあまりまとまった感想ではありませんが、今思えばリアルな高校生の日常の連続は全て楚羅EDの感動の為に用意されたのかも知れないと思う程ですね。明らかに楚羅EDの8月4日以降のテキストは泣かせる事に重点を置いているとしか思えませんからね。これまでのリアルな高校生の日常はどこえやらと言った感じです。ですかこの楚羅EDの為のリアルな高校生の日常の連続であったのであれば、それは間違いなくTimidLimitの作戦勝ちだと思います。そんな最大瞬間風速の強い泣きゲーでした。ありがとうございました。


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