M.M シンフォニック=レイン


<雰囲気を感じる。ただ…それだけ…。>

 この「シンフォニック=レイン」と言うゲーム、おそらくあまり有名なゲームではないと思います。なぜなら、このゲームを手がけた「工画堂スタジオ」自体あまり有名ではなく、何よりPCゲームとして出されたのに全年齢対象のゲームだからです。別にこれは全年齢対象を否定しているわけではありませんが、知名度と言う観点で言えば明らかに下がるポイントではあります。しかし、そんな知名度の低さとは全く逆の、それはそれは素晴らしいシナリオと雰囲気で構成されたゲームでした。

 このゲームの最大の特徴として、ゲームパートが「シナリオモード」と「音楽モード」の二種類あると言うところです。シナリオモードはいわゆる普通のサウンドノベルと同じくテキストを読んでいくモードです。音楽モードは、主人公が愛用している「フォルテーヌ」と言う楽器を実際に演奏するモードで、いわゆる「音ゲー」と呼ばれる類の物と同質です。この音楽モードについては一般的に賛否両論あり、私もプレイしてみてこれは一般的に難しいものだと認識しました。しかし、私はこの音楽モードの導入は非常に高く評価しています。なぜなら、これはシナリオ上必要不可欠な要素だからです。

 あらすじを簡単に言いたいと思います。「雨の街」と呼ばれた街で音楽学校に通うためにやってきた主人公は、卒業発表を控えていました。その内容は、自分の専攻であるフォルテーヌという楽器と誰か一人の声楽とのデュオであり、卒業するために主人公とそのパートナーは練習に励む、といった感じです。つまり主人公は、基本的にどのシナリオに行ってもフォルテーヌを精一杯練習しなければいけないわけです。なので、その主人公達の思いを実際体験できるこの音楽モードはまさにうってつけであり、音楽やシナリオに対する愛着は必然的に増すと思います。ちなみに、どうしてもクリアできない方の為に「オートモード」と言う物も用意してあるため、絶対グッドエンディングに行けない訳ではありません。それでも、シナリオ上自力でクリアしてもらいたい物です。

 そしてこのシンフォニック=レインの最大の見所は、この音楽モードを含めた作品中に漂う雰囲気にあります。一言で言いますと「柔らかい」といった感じです。原画の「しろ」の絵は本当に柔らかくて、穏やかな作品の雰囲気に的確です。また、背景も雨の描写や西洋の町並みがしこく自然で、作品中に漂う柔らかな雰囲気を作り出すのに一役買っています。シナリオ中の文章表現もギャグ要素の一つもなく、小説のような雰囲気を作り出しています。そして、この雰囲気を作り出している最大級の要因はやはり音です。「岡崎律子」さんの奏でる音楽は舞台が音楽学校であるだけにピアノを貴重としたクラシック的な雰囲気の漂う物ばかりで、嫌が応にも作中の雰囲気の取り込まれてしまいます。同様に、効果音も雨の音を筆頭に楽器の音や教会の音など、ささやかな要素なのですがそれが良い味を出しています。そして、声優陣が非常に上手いです。声はもちろんなのですが、音楽モードで実際歌うのもこのヒロインごとの声優なのです。なのでシナリオに整合性が出来、嫌が応にもヒロインに愛着が湧くことと思います。

 ここまで結構坦々と書きましたが、このゲームの作り出す雰囲気は今までやったどのギャルゲーにも勝る物です。多少言いすぎと思う方もいらっしゃるでしょうが、これに関しては紛れもない事実で、9割方この雰囲気だけで100点の評価を付けたといっても過言ではありません。なので、是非このゲームをされる方はあまり急いでプレイしないでゆっくりとすることをオススメします。そして、音量はやや高めが良いかと思います。

 至高の雰囲気を、是非全ての方に味わってもらいたいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人と人との絆を結ぶ音楽>

 私がこの「シンフォニック=レイン」というシナリオで最も感動したことは、その技巧的な演出でも凝った音楽モードでもなく、その音楽によって繋がる絆を垣間見る事ができたところです。

 どのヒロインにも他人には言えない陰の部分が存在してました。それは自分の信念だったり、自分の願望だったり、もしくは自分の欲望だったりと色々な物でした。しかし、それらの人には言えない思いが主人公の奏でるフォルテーヌによって紐解かれていきます。そして、ヒロインはそれに立ち向かおうとする勇気と主人公に対する思いを手に入れるわけです。

 もちろん、結果は自分達の納得する物ばかりではありませんし、実際エンディングの大半は幡から見たら不幸かとも思える物でした。しかし、今まで向き合えなかった思いを主人公と共有できたヒロインたちに後悔の念はありませんでした。たとえそれが、人を裏切ったり、自分が傷ついたり、最愛の人を失う事になっても、ヒロインたちには希望ある新しい未来が待っている事と思います。

 そして、そんなヒロインたちの思いを簡単に垣間見る方法がこのゲームには備わっています。それが音楽モードです。ゲーム中は高得点を目指すが故にその歌詞にまで注意が行き届かなかったと思いますが、改めて各ヒロインと卒業発表で歌った歌の歌詞を見てみてください。各ヒロインが心に秘めていた思いがはっきりと伝わってくると思います。ヒロイン達が秘めていた思いを歌詞にこめる、そしてそれを主人公のフォルテーヌに乗せる、そんな肯定を踏まえて作り上げられた音楽は、たとえ他人に認められようと認められまいと、自分達にとって最高の絆を作り上げられたことに他なりません。

 正直な話、私もこのヒロインたちの思いに惹かれてしまい、このレビューを書き下ろすまで何をするにも手のつかない状況が続いてしまいました。それ程までに、このゲームの作り出す雰囲気とそれに乗せられたシナリオが素晴らしかったという事だと思います。

 ちなみに、一番グッと来たシナリオはトルティニタ・フィーネに纏わる物でした。まあ、メインヒロインだけあってシナリオの長さも通常の2倍もありますし、その中にはal fineと言う名のトルティニタ視点の物も含まれてますのでまあ順当かと思います。このal fineですが、前半はその技巧さに、後半はトルティニタの思いに釘付けでした。この演出はやはり神と形容するしかないなぁとも思いました。そして、一番ホッとしたシナリオはフォーニに纏わる物でした。それまでのシナリオは全部何かしらの代償の上に成り立った結末でしたが、このフォーニシナリオ、最後の最後でフォーニの記憶を失わずにアリエッタが蘇って心の底から嬉しかったです。完全なるハッピーエンドとも形容できるかと思います。

 このレビューを書いてから数週間はきっと新しいギャルゲーは出来ない思います。あまりに純粋なヒロインたちの思いが抜け切る自信がないからです。それはそれでいい事なのかもしれませんが、とりあえずひとまずの休憩を取ろうかと思います。それではこの辺で。


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