M.M Steins;Gate


<壮大で綿密なシナリオを表現する為の現実的な世界観と魅力あるキャラクター>

 この「Steins;Gate」というゲーム、2009年にXBOX360で発表されそのシナリオの壮大さと綿密さでまたたく間に人気になった作品です。5pbとNitroplusのコラボレート作品でもあり、第1弾である「CHAOS;HEAD』」から続く科学ADVシリーズ第2弾です。ジャンルとしては「想定科学ADV」という事で、出来るだけ現実世界での物理学的理論に基づくシナリオとなっており、その壮大さと綿密さは他の作品の追随を許さないものでした。

 この「Steins;Gate」の特徴として、壮大で綿密なシナリオはもちろんなのですがそれ以外にも非常に現実的な舞台設定や魅力あるキャラクターも挙げる事が出来ます。物語の始まりから「何だこれは?」と思わせる伏線の数々ですが、そういった鍵になるシーン以外の日常部分は非常にリアルでして、まさに私がよく訪れている秋葉原という街を見事に再現したものでした。秋葉原駅、メインストリート、アキバUDX、ヨドバシアキバ、裏路地など、背景がまんま秋葉原なのです。もし秋葉原に行った事が無い人やあまり詳しくない人は、このSteins;Gateの中で描かれている秋葉原をそのまま信じて頂いて構いません。実際に街を歩いているような錯覚を覆えるほどでした。

 そして、システム面も現実感を表現するのに意味を持っています。このゲームにはいわゆる選択肢がありません。その代りに「フォーントリガーシステム」という物を採用しています。これは、主人公は常に携帯電話を持っておりシナリオの中で普通にメールが受信され着信があります。また場面によっては主人公がメールを送信出来たり発進出来たりします。つまり、どのタイミングで携帯電話を使ったかでシナリオを分岐させるシステムなのです。これは非常に画期的でしたね。最初システムの意味を理解していない時は何が何だか分からないうちにエンディングにたどり着いてしまいましたが、システムを理解した瞬間もう無数のルートと向かい合う事になるわけです。このタイミングでメールを返信したらどうなるんだろう、この着信はとらない方がいいのか、などなど場面をシナリオ進行を意識して携帯電話を駆使することとなります。実に現代的でリアルなシステムでした。

 あとはキャラクターですが、1人1人魅力があって誰が欠けても物語は成立しませんね。それはキャラクターの魅力という意味ももちろんあるのですが、シナリオの中で全てのキャラクターがしっかりと関わっており、プロローグからエピローグまで見せ場があります。そしてそんな魅力あるキャラクター性の中でも最大の特徴は、やはり主人公の「厨二病」でしょう。そうです、主人公は重度の厨二病なのです。こんなやつが現実にいたらもう面倒くさくて張り倒したくなります。ですが主人公が厨二病だからこそ、また物語が面白くなるという訳です。本当読んでいて楽しかったですね。

 とにかくありとあらゆる要素が高レベルにまとまっており、それでいて矛盾が無く壮大でありながらきちんと収束させたシナリオは見事と言うしかありません。さすが、数あるサウンドノベルの中でもトップクラスの人気を誇っているだけのことはあります。XBOX360以外ではWindowsで発売されており、さらにPSPでの発売も決定していますので、お好みのマシンで是非プレイしてみて下さい。おススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<軽率な事、迂闊なことをせず周囲に注意を払えば、自分だけのSteins;Gateに行ける>

 上でも述べたとおり、このゲームはとにかく壮大で綿密なシナリオに尽きる訳ですが、内容としては物理学、特に素粒子理論物理学や宇宙物理学を理解していないと何が何だか分からない内容でした。そんな難しい理論を用い物語の主軸に使った訳ですが、最終的にSteins;Gateにたどり着いた時には殆どのプレイヤーの方はこのゲーム内で紹介された理論について理解できたのでは無いでしょうか。何故理解できたのか、それはシナリオの中でこういった理論について何度も何度も触れ、具体例を提示して繰り返したからだと思っています。

 メインの理論である「アトラクタフィールド理論」ですが、これは世界はより糸のあつまりの様なものである1つのより糸の世界に属していれば多少の変動はあれどそのより糸の世界から外れない限り結果は1つに収束するというものです。そしてその世界の変動は「ダイバージェンス」で表され、1%単位で別のより糸の世界と区別しています。こんな風に文章だけで書かれると何が何だか分かりませんが、この具体例がまさにα世界線で繰り返される「まゆりの死」であり「2036年のディストピア」という事になります。α世界線の中でも電話レンジ(仮)を使用したDメールによって確かにダイバージェンスは変動していました。ですがどんなにダイバージェンスを変動させてもその変動が1%を超えない限りまゆりは死んでしまいますしディストピアは起きてしますのです。よって、物語の流れも自動的にこのダイバージェンスを1%を超えて変動させるという流れになる訳です。

 そしてそんな世界線を越えるという事が如何に難しいかを、綿密に丁寧に何度も同じような事象を繰り返したおかげで私たちは理解できた訳です。何度も繰り返すというのは、まさに鈴羽、フェイリス、るか、萌都の4人の事です。4人には4人それぞれの物語はありますが、目的はあくまで世界線を飛び越える事です。その為に倫太郎は苦労して1人1人のDメールを相殺するやり方を模索し、着実にダイバージェンスを上げていきます。

 しかし、ここまで書いておいてあれですが果たしてダイバージェンスとは何を意味しているのでしょうか。2036年にディストピアが起きた世界を0.000000%としていますが、このディストピアが起こりにくくなる方向に持っていくのがきっとダイバージェンスの値が大きくなるという事なのでしょうね。それでも結局アトラクタフィールド理論によれば、たとえ0.999999%でもまゆりは死んでしまいますしディストピアは起きてしまうという事です。ですが、ダイバージェンスの変動でまゆりの死の時間がずれましたので、これから察するにダイバージェンスが0.999999%まで大きくなればもしかしたらまゆりが死ぬのは数十年後かも知れませんしディストピアが起きるのは数百年後かも知れませんね。そうなればある意味α世界線を越えなくても目的を達成する事は出来るのかもしれませんね。

 そしてこのダイバージェンスを大きくする事は、物語の中ではタイムトラベルによる倫太郎のトライ&エラーで達成している訳ですが、視点を変えればこれは私達の日常生活でも意味を持ってくると思いました。例えば、どこかに旅行するという事を仮定します。そして、前日に持ち物を確認する場合と確認しない場合があったとします。この場合、持ち物を確認した方が旅行で忘れ物によるトラブルが起きる可能性が低くなる訳です。これはある意味、持ち物を確認する世界の方が確認しない世界に対してダイバージェンスが大きいと言えるのではないでしょうか。なんだかよく分からない例えになってしまいましたが、物語の冒頭で倫太郎が言っていた「軽率な事、迂闊な事をするな」「周囲に注意を払え」はまさにダイバージェンスを大きくする行為に他なりません。きっとこの物語を通してそんな事も私達に伝えたかったのかもしれません。

 とまあそんな感じでSteins;Gate独自の理論が特徴的でしたが、何度も説明してくれたおかげで飲みこむ事が出来ました。そして、ダイバージェンスを上げ最終的にSteins;Gateにたどり着く倫太郎の努力には心を打たれるものがありました、ダイバージェンスを下げていた前半の倫太郎とダイバージェンスを上げていた後半の倫太郎では全く印象が違いました。厨二病は相変わらずでしたが後半の倫太郎の方が周囲に気を配り物事をよく考えている印象を受けました。これも物語の最後に行っていた倫太郎自身の「過去の自分を無かった事にするな」という事なのでしょうね。私達の生活で例えるなら、さしずめ「過去の失敗を忘れず次に活かせ」と言ったところでしょうか。私も日常生活の中で出来るだけダイバージェンスを上げる行動に努め、私だけのSteins;Gateにたどり着きたいものですね。

 まとめます。とにかく壮大で綿密なシナリオには圧巻でした。一般人には分かりにくい素粒子物理学や宇宙物理学を扱っておきながらここまで理解できたのはひとえにシナリオ展開によるものだと思っております。そしてそんなシナリオの中で努力し成長していく主人公の姿は心打たれるものがありました。この物語を通して、私も自分自身のダイバージェンスを上げ自分だけのSteins;Gateにたどり着きたいと思いました。素晴らしかったです。ありがとうございました。


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