M.M Sessions!! ―――――真実嫌いの探偵は、


<登場人物のパーソナリティに対して徹底的に想像されたテキストは必見>

 この「Sessions!! ―――――真実嫌いの探偵は、」という作品は同人サークル「Loser/s」で制作されたサウンドノベルです。「Loser/s」さんを初めて知ったのはCOMITIA105に参加した時でした。COMITIAは創作オンリーの即売会という事でコミケと比較して参加サークルの数に対して来場者が少なく、また同人ゲームのサークルさんが数多く参加されるという事でお気に入りの即売会です。今回感想を書いている「Sessions!! ―――――真実嫌いの探偵は、」もそのCOMITIAの中で入手したビジュアルノベルでして、シンプルなジャケット表紙に加えてどこか影を背負っている主人公のパーソナリティに興味を持ちプレイするに至りました。感想ですが、癖のあるキャラクターが織り成す会話のテンポが心地よい読んでいて飽きのこないテキストが印象的でした。

 主人公の職業は探偵です。探偵という職業はドラマやアニメの世界ではよく見かけるものではありますが、現実の探偵となりますと日常世界ではまずお目に掛かれない存在だと思います。それは探偵の仕事内容が他人の秘密を密かに暴いたり、事件の犯人を突き止めたりするという、いわゆる日陰の仕事だからです。その仕事の中には必ず人間の心の闇が関係しており、どのような形で仕事が完遂されたとしても誰かが不幸になることは必至だと思います。主人公もそのような仕事を行っているだけに非常に屈折したパーソナリティとなっており、プレイヤーの方にはまずこの主人公の人相に慣れる事から始めて頂きたいですね。

 そしてそんな主人公ですので周りに集まってくる人間達も一癖も二癖もある人物ばかりです。メインヒロインは3人いるのですが1人は主人公の元助手、1人は家出娘ですからね。他にも別れさせ屋や海外を放浪している弟、弁護士やヒモなど人の心の深い部分に関わっているような人物ばかりです。そのような人間模様ですので会話の中でもどこか価値観がずれているような場面が多々あり、日常では中々聞くことができないテキストが流れていきます。この非日常感もこの作品の魅力であり堪能して欲しい点ですね。

 ですが、非日常でありながらそのテキストには正直目を見張るものがありました。基本的に変人でありフィクションの人物ばかりなのですが、会話のテンポが大変心地良いんです。この作品、全テキストのうち半分以上は物語の進行には関係ない意味のない会話で構成されております。ですがそんな意味のない会話のハズなのに読んでいて全く飽きることがありませんでした。それは恐らく確立された登場人物のパーソナリティに対して徹底的に想像されたリアルさにあるのだと思いました。全ての人物が架空のものである以上こいつはこういう性格だからこんな事を喋るんだろうな〜と考えながらテキストを作っていくと思いますが、その考えが大変綿密に掘り下げられてました。本当に現実にいたらこんな会話が繰り広げられるのだろうとリアルに想像でき、フィクションとは思えないテキストに正直感動すら覚えました。製作者の想像力の豊かさを感じる事ができるテキストは必読ですね。

 という訳で読んでで引き込まれるビジュアルノベルに出会えました。やっぱりビジュアルノベルはテキストが命だなと再認識する事が出来ました。プレイ時間は私で3〜4時間でしたが実際はもっと短く感じるかと思います。ちなみにこの作品はセーブすると現在の総プレイ時間が表示されます。今までありそうでなかったシステムですが私のようにプレイ時間を公開している人にとっては大変ありがたいですね。後は文章を見返した時に直前の文章が表示されないのが玉に瑕ですが、そこまで気になるポイントではありませんね。まずは登場人物のパーソナリティを理解し、そして現実感のあるテキストを堪能して頂ければこの作品の魅力の8割は味わえると思います。おススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<他人を不幸にしてきた主人公だからこそ持てた優しさを感じることができました>

 ネタバレ無しでも書きましたが大変読み応えのあるテキストでした。各キャラクター同士の掛け合いが現実感のあるものでありましたし、セリフの1つ1つのパーソナリティが現れておりましたので重みを感じました。そういう意味でどのキャラクターにもそれなりの愛着を感じることが出来、また主人公の過去について徹底的に知りたくなりましたね。

 自分の周りにいる人が死んでしまう特異体質、探偵という職業で表向きには隠されておりましたがそもそもそれぞれの事件の発端が自分にあるという心理とはどういうものなのでしょうね。私だったら人の命を軽く思ってしまい感覚がマヒしてしまいますね。「ああまた人が死んだのか。犯人を見つけないとな〜。」みたいな感じですかね。ですが主人公は決してそのような気持ちにはならず、出した結論が探偵の得意能力を捨て去り事件とは無縁の生活に戻ることでした。そして現在は小金を稼いで過去の罪を生産しながら、自分の気持ちに整理できていない日常を送っております。

 この作品の特徴としては女性キャラクターの芯の強さも上げることができると思いますね。元助手である篝火祈は過去の主人公を知っておりながら自分が主人公を慕っている気持ちがせめぎ合い、それでも自分の立ち位置を見失わない強さを持っております。愛人である一二三一二三も主人公を不幸にしたくはない気持ちを持ちながら主人公の気持ちも察することができる優しさを持っており、真っ直ぐに自分の気持ちを主人公にぶつけてきます。新助手である中原踊は天真爛漫でありバカではありますが自分の気持ちに嘘をつかず真っ直ぐに主人公についてくる一途さを持っております。どのキャラクターにも自分の信じるものがありそれが主人公だけではなくプレイヤーにも痛いほど伝わってきました。

 主人公が自分の想いにケリをつけられない理由、それは恐らくこれまで多くの人の不幸や憎しみを見てきたのでせめて自分の手では決して人を方向にしないと誓っているからだと思いました。結婚詐欺師を追跡する依頼でも犯人とは無関係の娘は不幸にしたくなかった主人公はその部分だけは隠して報告します。本来探偵であればこのような仕事は中途半端であり優秀とは言えないのですが、これは決して甘さではなく優しさだと思っております。そういう意味で、主人公には篝火祈と一二三一二三のどちらかを選べなかったのではないでしょうか。本人達がどれだけ納得していても主人公はきっと自分を責めるでしょう。傍から見たら情けない男に見えるでしょうが、内情を知っている女性陣にしてみればそれは決してマイナスポイントにはなりませんね。特異な環境で生活せざるを得なかった主人公だからこそ持てた優しさだと思っております。

 ですがそんな主人公に再び過去の悪夢が蘇ろうとしております。自分の周りでまた人が死にだしたのです。それも不気味なくらいに事件性のない死に方です。再び自分のせいで他人が不幸になってしまう事実に耐え切れなくなった主人公は過去に同様の境遇に合わせてしまった一二三一二三に縋ろうとします。ですが一二三一二三は主人公から独立し家はもの気の空。その先の選択肢はプレイヤーに委ねられました。果たして物語の真相はどこにあるのか、そしてSessions!!の世界はどこに執着するのか、次回作を楽しみにしましょう。


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