M.M サクラメントの十二宮 乱れる仔ひつじと手懐く狼


<視点変更システムで2人の気持ちを丸裸にしながら物語を読み進めましょう>

 この「サクラメントの十二宮 乱れる仔ひつじと手懐く狼」という作品は同人サークルである「黒彩黄泉路」で制作されたビジュアルノベルです。黒彩黄泉路さんの作品ではこれまでも「続・日本神話−ねのかみ−」をプレイさせて頂き、女の子同士の心の掛け合いを表現したテキストがお気に入りでした。「続・日本神話−ねのかみ−」は古事記をモチーフにした世界観でその雰囲気も楽しかったのですが、今作は現代を舞台としたガチ百合という事で黒彩黄泉路さんが本気を出すとどんな作品になるのか楽しみにしておりました。感想ですが、百合の醍醐味と言いますかヒロイン2人が不器用に心を通わせていく様子に悶えました。

 公式HPをご覧になれば分かりますが、舞台はサイン(占星術)に根ざした聖リアンヌ女学院という小学部から高等部まで一貫の学園です。サイン(占星術)に根ざしているということで高等部に進学した時にはサクラメントと呼ばれる洗礼を受ける儀式があります。その儀式において十二宮の微(スティグマ)が現れた者は人々に幸せを与えるという慣わしがあり、十二宮の微の1つである白羊宮(はくようきゅう)の微が浮かび上がった母古瀬アリッサ(もこせありっさ)が本作のヒロインの1人です。そんな伝統のある聖リアンヌ女学院に4月中旬1人の転校生がやってきます。それがもう1人のヒロインである周防ひつじ(すおうひつじ)であり、物語はこの2人が聖堂で出会いキスをするところから始まります。

 最大の魅力は、と言いますか唯一の魅力と言っていいと思いますがとにかく百合です。インストールして起動時にアップロードしてタイトル画面が開いて「はじめから」をクリックしたらいきなりキスシーンですよ。思わず吹いてしまいましたが、その後キスに至る経緯もちゃんと話してくれます。まあそれも本当「出会って5分でキス」という触れ込みの通りでして、ああ百合って凄いんだなと思ってしまいました。ちなみにアリッサは天然系のふわふわな性格でひつじは人見知りで警戒心が強い正確です。時には相手が何を考えているのか・本当に自分のことを愛しているのか不安に思う場面もありますが、不器用ながらも相手のことを理解しHを重ねていく中で確実に気持ちを摺り寄せていきます。

 そしてそんな2人の心の揺れ動きを見る方法がこの作品には備わっております。それが「視点変更」システムです。これは会話の中で2人の視点を自由に変更でき、同じタイミングでそれぞれが何を考えているのか見ることが出来ます。これは本当に新しいと思いました、物語のつくり方として視点を主人公に固定して相手の気持ちを主人公視点で推し量り、結果として誤解があったというトリックはよく見かけると思いますが、この作品にそんなトリックは必要ありません。始めからお互いの気持ちをプレイヤーは把握し、その中で不器用に気持ちを摺り寄せていく様子を微笑ましく見届ける事ができます。これも2人が基本は素直で嘘をつけない性格だからこそ実現したシステムなんだと思っております。

 プレイ時間としましては私で1時間30分掛かりました。2人の心の変化を見ているうちにいつの間にかEDにたどり着いていました。ちなみに実質のプレイ時間は1時間30分でしたが、ゲームの起動時間は6時間くらいでした。これは途中休憩をとっている時にBGMとして使用していたからです。この作品、ピアノを中心としたサウンドが大変心地よくそのまま眠ってしまいそうになります(実際眠ってしまいました)。気持ちを落ち着ける効果でも仕込まれているのかと思う程穏やかで素敵なBGMですので、サウンドモードが欲しかったですね。そうでなくても是非サントラの発売を強く希望します。作品全体で百合を表現している事が伝わりましたので、是非百合好きの方は勿論そうでない方にも大変オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<お互いがお互いを信頼し理解すること、それが幸せなキスに繋がったのですね>

 凄く幸せな気持ちになる事が出来ました。相手を疑うことを知らない無垢なアリッサが依存性の強いひつじに染められていく様子はそれだけで興奮しましたが、元々身分も立場も生活感も違う2人がお互いの事を理解し寄り添っていく様子に一番心が惹かれました。百合って、やっぱり直接的に触れ合う描写ではなく心が触れ合う描写こそが本質なんだなと思いました。

 人見知りの激しいひつじが家の都合でこんなお嬢様学校に転入してきてさぞ不安だったと思います。唯でさえ住んでいる世界が違う人達に加え人見知りの性格です。もしかしたらずっと1人で過ごす学園生活が待っているかもしれないと思っていたかもしれません。そんなひつじの学園生活はアリッサの登場で一瞬で想像とは違うものに変わってしまいました。友達すらできないと思っていたのに、たった1日で恋人まで出来てしまったからです。

 だからこそひつじはこの愛しい恋人を絶対に離したくないと思ったのでしょうね。他の人がアリッサに話しかけるたびに噛み付くような姿勢をしたのはその表れだったのだと思います。ですがその行動はひつじが自分の気持ちを押し付けるばかりでアリッサの気持ちを理解していないという事の表れでもありました。いくらアリッサが言葉や行動でひつじに愛している事を伝えても、ひつじ自身がそれを聞き入れる耳を持たないと意味がありませんからね。まあある意味ひつじも必死だったんだと思います。ここでアリッサを失ったらきっと自分は友達すら作れない、こんな奇跡的な出会いは二度とやってこないと思っていたのだと思いますね。

 そんなひつじですが支えてくれる人は結構いましたね。鷺宮さんは「アリッサの事、理解してあげて」と言ってましたが、これはアリッサの事を心配したのではなくひつじを心配してのセリフでした。アリッサの事を理解しようとする事がひつじの不安を取り除く事だと見抜いていたんですね。本当素敵な先輩方だと思いました。何よりもアリッサの天然な優しさと真っ直ぐな気持ちが一番ひつじに響いてました。いつもひつじにされてばかりだから今度は私がひつじにしてあげる、こんな気持ちお互いを思ってなければ絶対に生まれませんね。ちなみにHシーン中で一番好きな言葉は「唾液ロープウェイ」です。と言うよりも「唾液でロープウェイが出来たね…」とウフフしている様子が好きです。この時ようやく本当の意味で2人は恋人になれたのかもしれません。

 初めてキスしたときはひつじの一方的な必死のキスでした。ですが2ヶ月後のキスはお互いがお互いを信頼し愛し合うキスでした。もしかしたら2人の事について心無いことを言う人が出るかも知れません。ライバルも出現するかもしれません。それでも今の2人であれば不安になる事もなく、ただお互いの繋がりを信頼出来ると思っております。子ひつじに見えたアリッサですが本当の子ひつじは名前のとおりひつじでした。狼は、きっと両方なのでしょうね。そんな幸せになれる素敵な百合ゲーでした。ありがとうございました。


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