M.M サクラ*アンサーズ


<誰かが誰かを想う気持ちはここまで心をホンワカさせてくれるんですね>

 この「サクラ*アンサーズ」という作品は同人サークルである「ぱとろーね」で制作されたビジュアルノベルです。ぱとろーねさんの作品は処女作である「黄昏コントラスト」からプレイさせて頂いておりまして、短めながらも登場人物全員の気持ちの揺れ動きが見えてテーマがはっきりと伝わるシナリオに毎作楽しく読ませて頂いております。現在ぱとろーねさんの中で「project Flower」という連作企画が進んでおりまして、今回プレイした「サクラ*アンサーズ」はその第2弾となります。感想ですが、誰かが誰かを想う気持ちというものの大切さが伝わる心温まるシナリオでした。

 恋愛支援アプリケーションである「アンサーズ」が普及している世界。このアプリを使えば自分が気になっている異性の気持ちや行動が分かり、間違えることなくアプローチする事ができます。ですがとある事情によりアンサーズの使用を拒否している人物がいました。それが今作の主人公である代祢倉英次であり、人付き合いというものに壁を作っている男子学生です。それでもいつの間にか目で追っている女の子がいました。それが今作のヒロインである神林美奈であり、英次自身この気持ちの正体に気がついてませんでした。そんな煮え切らない日々を送っていたところに突然次世代型のアンサーズとして試験運用になったインターフェイスであるサクラが登場する事で物語が動くことになります。

 相手の気持ちが知りたい、これは世の中の人の誰もが抱いている想いなのではないでしょうか。相手の気持ちが分かればそれに対して適切な行動を選ぶことが出来ます。そして相手が自分の事を嫌っていたり無関心でいたら、潔く諦めることが出来るかも知れません。ですが現実にはそんな事は出来ず、多くの男女が悩みながら相手との気持ちを近づけようと努力していきます。この不器用で正解がなくモヤモヤして悩みながらそれでも相手の気持ちを想い一緒にいたいと想う気持ち、それが恋であり恋の素晴らしさだと思っております。アンサーズがもしこの世に存在したら間違いなく大普及すると思いますが、果たしてそうなった時に恋の大切さとは何かという事を改めて考えさせられるのかも知れません。

 主人公である代祢倉英次は特に一際人とのコミュニケーションを苦手としていますので、神林美奈へのアプローチのやり方は本当にハラハラしました。そしてこの次世代型アンサーズであるサクラはもう完全に人間のような振る舞いなのですが、コメディタッチで進められる恋愛支援は英次を思わぬ方向へ持っていきそれがまたホンワカさせてくれます。それでもこの作品で伝えたい事である「誰かが誰かを想うことはそれだけで奇跡」という真っ直ぐな感情を精一杯大切にしたシナリオであり、このコメディ感なテイストと恋愛の真面目さを上手くミックスしたテキストは絶妙なバランスで読んでいてクリックが止まらなかったですね。そして最終的に神林美奈との恋愛が上手く成功することを誰もが望むと思います。

 プレイ時間的には私で1時間30分掛かりました。思いの他短かったですが、それ以上の長さに感じることができる密度だったと思います。この作品、実際はサクラがアンサーズとして2人の恋愛支援をしてそれで終わりという結末にはなりません。その後に待っている運命に翻弄されながらも、登場人物全員が誰かが誰かを想う気持ちと向き合うことになります。果たして結末はどうなるのか、代祢倉英次と神林美奈の関係はどうなるのか、そしてサクラという存在は最終的にどうなってしまうのか、色々と妄想して頂きながらプレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<誰かを愛おしいと想うことに、隔たりなんてあってはいけない>

 心がジンワリと暖かくなるようなシナリオでした。突然家族になってしまった代祢倉英次と神林美奈、それでも自分の気持ちに正直になり相手の気持ちを知るために一歩前に踏み出した英次、そしてサクラの正体と英次と乃杏の過去、次々に明らかになっていく真実とそれでも相手との気持ちを確認していくシナリオに大変勇気をもらいました。

 今回のシナリオの中で登場したフレーズで一番心に残っているのが「一緒に」というものでした。1人では出来なくても2人で一緒にやれば出来るかもしれない、この一緒という言葉にはただ単に数が2倍以上になる事以上の意味を持っていると思いました。一緒ということは隣に自分を信頼してくれている人がいるという事です。それだけでその人にとっては大きな勇気であり、一歩前に踏み出す力になってくれます。アンサーズは機械的なアプリではありますが、サクラはそんなアンサーズの無機質な部分を精一杯補ってくれるとても素敵な存在だと思います。

 そしてこの「一緒に」という言葉はその意味を変えてこの作品の中で存在感を強めていきます。初めは英次とサクラで「一緒に」美奈との恋愛を成就させる、次は英次と美奈で家族として「一緒に」自分たちの気持ちを確認し合う、そして英次と乃杏で兄弟として「一緒に」過去のぶつかり合いを克服する、最後に英次とサクラと美奈と乃杏の4人「一緒に」慌ただしくも楽しい日常に帰っていく、相手がいるということはそれだけで本当の大きな力になってくれるんだなと心から思うことが出来ました。

 そして英次の右手の正体には驚きました。相手の感情が読めるがゆえに自分を嫌いな気持ちをダイレクトに受け、精神的に参ってしまいます。そしてその憤りを最愛の姉である乃杏に向けてしまい、乃杏もまた英次と距離をとってしまいます。これだけ見れば英次の右手は無くなってしまえばいい代物のように思えるかもしれません。ですが元々桜の木であったサクラを人間として留めることが出来たのもこの右手のお陰でした。右手の正体が分かって乃杏とも確執も改善して、結局この右手の存在意義は何だったのかなとおぼろげながら思っていたのですが、まさかこんな素敵な使い方があるとは思いませんでしたね。何だ、サクラというかけがえのない存在を繋ぎ止めることが出来るのなら、これ程素晴らしい能力はないじゃないかと大変感動してしまいました。

 という訳で最初から最後まで相手の心に触れるシナリオでした。よくよく考えてみれば英次に対してサクラはインターフェイス、美奈は他人、乃杏は兄姉とそれぞれで関係は違ってましたね。それでも誰かが誰かを愛おしいと思うことに、そうした立場の違いによる隔たりなんてあってはいけないんですね。立場の違いなんて気にしないてみんな「一緒に」心を近づけていく、これが恋することであり愛しいと思う気持ちの本質だと思いました。この4人が自分の気持ちに正直になってしまったらもうドタバタな日常に一変してしまいそうですが、それはそれで実に楽しくなりそうで良いですね。これからも色々と気持ちがぶつかったりして悩む事があるのでしょうが、今までのように人と触れない方法ではなく一緒に向き合っていく方法で解決していくのだと思います。まとまりませんが今回はこの辺りで失礼します。ありがとうございました。


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