M.M Re;world episode1


<壮大なスケール感で書かれる人間の意志というものを獲得する為の物語>

 この「Re;world episode1」は、同人サークル「US8(ユーエスエイト)」で制作されたサウンドノベルです。C83で同人ゲームサークルを回っている時に初めて知ったサークルでして、人間と天使の闘いというプロットが斬新で興味を持った事が印象に残っておりました。その後COMITIA104でも話をする事ができ、更にとらのあなで委託販売されている様子を見ていい加減プレイしてしまおうと思い今回のレビューに至っております。感想ですが、壮大なスケール感を持った設定でありながら人間が人間らしく意志を持つ事の大切さをうたったシナリオに感動しました。

 OHPをご覧になれば分かりますが、この作品の世界では人間は神によってその運命が既に決められております。自分の意志ではなく神によって決められた運命を歩むだけの人間、ですがその運命から外れた主人公はこのような不条理な世界の仕組みを知りそんな世界は間違っていると思う訳です。そして同じく神に反抗している堕天使ベヌスと協力し自分の意志で歩むための闘いを始めていきます。非常に壮大なスケールの設定だと思いました。何しろ人間と天使の闘いですからね。始めはこの世界観を受け入れるまでに多少時間が掛かるかも知れませんが、世界観を理解し目標が定まってからは先が気になるシナリオにグイグイ押されるのではないかと思います。

 何よりも天使が人間を管理しており人間の敵であるという設定が魅力的だと思いました。天使と言えばキリスト教やイスラム教などで代表される神の使いの事であり、本来であれば宗教上敬うべき存在であります。その天使が完全に人類の敵ですからね。まずはこのギャップを楽しんで頂ければ良いのではないかと思います。当然主人公達もこの事実に戸惑います。慈愛に満ちた天使が笑顔で人間を殺そうとする様子はそうそう慣れるものではありませんでしたね。ちなみにこのような世界観ですので天使といえども全員が一般的なイメージ通りのキャラクターばかりではありません。慈愛に満ちている天使もいれば人間を完全に見下している天使もいます。その辺りのキャラクターの違いも楽しめるポイントです。

 そして私が個人的にこの作品で一番注目したところはやはり主人公側が苦労しながらも生き抜こうとする意志の表れでした。具体的なエピソードは書けませんが、そもそも人間と天使の間には圧倒的な戦力差がありますので闘いが容易には進まない事は想像できると思います。ですがそれでも生きていかなければいけないのが主人公たちであり、死んでしまえばそれまでの世界です。そしてこれは神によって運命が決められている世界を人間1人1人の意志で過ごせる世界へと変える物語です。闘いの場面だけでなく同じ志を持った仲間との掛け合いにもそのような意志というものを考えさせられる要素が盛り込まれております。そういう意味で世界設定の謎や各登場人物の思惑など注目するべきポイントは多いですが、まずは主人公たちの自由を勝ち取ろうとする意志に注目して読んでいくのが良いかと思います。

 この作品はタイトルを見ればわかります通り「episode1」ですのでまだ途中です。全体で三部構成になっているようで、とりあえず物語のターニングポイントまでは進みますがepisode1だけでは物語の深い部分ついてはまだ語られておりません。これについてはepisode2以降で語られると思いますが、上手い演出で引いておりますので先が気になって仕方がないですね。ちなみにepisode1の内容全てを終えるまで私で5時間程度かかりました。本編以外にもおまけシナリオも豊富にありますので思ったよりもボリューム感を感じるかも知れませんが、そんなサブエピソードも交えて是非この作品に対する愛着を深めていって頂ければ良いのかなと思っております。人間が天使に闘いを挑むというありそうでなかった設定は読みごたえ抜群です。同人ショップでもネット通販でも購入できますので、是非手に取ってみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<何が正しくて何が間違っているのか、それを決定するのも結局は自分自身の意志>

 素直に物語に引き込まれました。何も疑問に思うことなく当たり前の日常を歩んでいた主人公。そんな主人公がとある切っ掛けで運命の輪から外れ、やがて人間としての意志を取り戻すために奮闘する様子は心惹かれるものがありました。たとえ人間の力が天使に及ばなくても諦めずに考える事で生き抜く事が出来る、それを毎回ギリギリのところで体現していく様子は始めこそ不安がありましたけど後半では結構安心してみる事が出来てました。

 この物語で上手いなと思った点は、人間には人間の常識があり天使には天使の常識があるという事を全面に出している点だと思いました。天使の人間を虫けらのように捉えて扱う様子は人間側にしてみれは怒るのは至極当然の話であり、たとえ力で敵わなくても何としても抗いたいと思うのは当たり前だと思います。ですが天使側にしてみればずっと本によって人間を管理してきた歴史がありますので人間が自分達よりも下の立場であるという前提はある意味当たり前であります。ましてやそんな自分達が管理している物達が反抗してくるわけですから天使側としても怒るのはある意味納得できます。そんな決して交じり合う事のない両者の対立という構造が上手く活かされた設定であると思いました。

 それにしても作中でも何度か問われてましたが、天使に管理される世界が幸せなのか自分の意志で生きる世界が幸せなのか果たして人間にとってどちらが正しいのでしょうね。主人公も今回たまたま運命の輪から外れる事で世界の真実を知り、真実を知ったが故に人間の意志を取り戻そうという気持ちになったのではないかと思います。ですが運命の輪から外れなければそんな事には気づかず、最後まで自分の意志で自分の人生を歩んでいると思いこみながらもある程度幸せに生きていけた訳です。これは第二章で猪里を運命の輪から外さないという選択をした主人公たちの葛藤そのものですね。正直答えなんてないのでしょうね。真実を知った側の人間としては助けたいと思うかも知れませんけど、現に真実を知ったが故に天使に殺されまいと闘う日常に変化してしまったわけですからね。その辛さを知っているから、第二章では猪里を運命の輪から外さなかったのではないかと思います。何が正しくて何が間違っているかというのは、結局最後に決めるのは自分の意志という事なのでしょうね。

 そしてそれは運命の輪から外れたレジスタンスの仲間の中でも意見の食い違いとして現れました。典型的なのはニートの野茂瀬ですね。こんないつ終わるかも分からない生と死の隣り合わせの生活を続けるくらいなら死んだ方がマシだ、実に真っ当な意見だと思います。全員が主人公のように強い意志を持っている訳ではありませんからね。そんな主人公も自分の意志に対して実力が追い付かない葛藤で苦しんでました。だからこそ仲間と衝突しケンカになるんだと思いますね。でもまあそれはそれで良いのではないかと思っていました。生きるか死ぬかを他人に強制される事はないですので、本音でぶつかって衝突する位でないとレジスタンスとしてまとまれないと思うのです。相手の考えを理解しつつも自分の信念は覚えている、そんな心の持ち方がメンバー全員の生き残りに繋がっているのではないかと思います。

 さて、そんな感じで何とか生き延びてきた主人公たちですがアークの余りにも圧倒的な力の前に実質堕天使ベヌスは敗北し未来を失ってしまいました。しかもただ失うだけではなく自分達の意志では如何ともしがたい圧倒的な力を見せつけられたわけです。今まではメンバーみんなの知恵と工夫、そしてベヌスの力で耐え忍んできましたがアークの力を見せつけられては空中分解もあり得ると思いました。この調度良いタイミングでの幕引きですので、果たしてepisode2ではどのように物語が進んでいくのか楽しみですね。そして天使側での陰謀の影も少しずつ見えてきました。何よりも気になるのがセラの思惑ですね。あの慈愛に満ちた表情の裏にどんな策略を忍ばせているのか。そしてそもそもこの神であるユピテルが作ったルールを変える事が出来るのか。その当たりが少しでも明らかになれば良いと思っております。今から楽しみです。


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