M.M オルフェウスの銀琴


<テーマを綺麗にまとめ上げた秀作>

 この「オルフェウスの銀琴」という作品は私がC79で偶然見つけたサークルである「ふぉらん」から出されたサウンドノベルです。現在同人サークルのサウンドノベルも多く排出されており、心に響くサウンドノベルがどうしても埋もれがちになってしまうのが現状ですが、作品の雰囲気が琴線に触れたので買ってみました。また、サークルの方からも「5時間で出来る短めのサウンドノベルです」というアナウンスもあり、ちょっとおやつを食べる感覚でプレイしてみました。結果、テーマをしっかりと表現し綺麗にまとまった物語が待ってました。

 あらすじを簡単に話します。舞台はどこか西洋を思わせる雰囲気の片田舎で、オルフェウスと呼ばれるオルゴールの神々しい音色が多くの人の心を掴んでいました。ですが蓄音機やラジオの性能の向上でオルゴールの需要が激減し、音楽鑑賞としての役割に終わりを告げようとしていました。物語は、そんな時代に生きる2人の人物を中心として始まります。とりあえずこのあらすじだけで私を引き付けるには十分でした。私は欲しいCDでも特別そうでもないCDでも衝動買いしてしまうたちでして、こういった音楽をモチーフにした作品はそれだけで惹かれてしまいます。そしてOHPで感じ取る事の出来る柔らかな雰囲気は必ず私を満足させてくれるだろうと信じるに足るものでした。

 まずはそのメインの音楽ですが、オルゴールを中心としてピアノとバイオリンを中心とした柔らかい音色は作品の雰囲気と合っており、物語をうまく引き立ててくれています。こういった音楽をモチーフにした作品であればあるほど私の中で音楽に対する評価は厳しくなりがちなのですが、その不安は必要ありませんでしたね。ゲームを起動したタイトル画面で流れるこの作品のメインテーマ、これを聞いただけで不安が消し飛んだのです。とにかく柔らかく優しい、おとぎ話の世界にいるような音楽ばかりでした。

 そしてシナリオですが、短いながらもテーマをしっかりと表現しておりよくまとまった作品だと思いました。登場人物の心情、バックウラウンドなどもくどくなく的確に表現されており、サクサク読む事が出来ました。私のプレイ時間は2時間30分程度で、ちょうと長編アニメ一本見たな〜って感じの満足感です。大作ではありませんが、冒頭でも書いたとおりのちょうどおやつを食べる感覚でした。綺麗に作られたちょっと小さめのモンブランを口いっぱいに含んで一口で食べるような、そんなささやかな幸せを満喫できるようなシナリオでした。

 気になった点は立ち絵が無かった事ですかね。このゲームの登場人物はCGでのみ登場し、日常の会話パートでは立ち絵はありません。これは好き嫌い分かれると思いますが、小説を読んでいると思えば気になるところではありません。小説の挿絵のタイミングでCGがはいるイメージです。後は一応ボイスも入っていますが、これはありでも無しでもどっちでも良かったかな〜というのが正直な感想ですね。特別心にしみる演技はちょっと見当たらなかったので、お好みという感じですね。

 何れにしてもかねがね満足出来る作品でした。同人で1,500円でこのレベルのサウンドノベルに出会えるならいくらでも買います。休日の良い時間の使い方だと思いました。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<心を込める事で見える世界>

 全ては自分の心ひとつ、そしてそんな人の心にどれだけ気がつけるかという事が大事なのかなと思いました。

 ニコルもアルマも過去に自信を傷つける大きな事故を体験していました。それはこれからの自分の未来を大きく動かす事故であり、自分の心が壊れても仕方が無いようなものでした。ですがニコルとアルマの最大の違い、それは与えられた運命に対してどれだけ自分の心を持てるかという事にあると思います。

 アルマは強いですね。自分は音楽が好きで音楽で人生を歩んでいくと思っていたので、難聴ですからね。音楽家にとって耳が聞こえないというのはもう致命的と言わざるを得ません。それでもアルマは残された時間で、自分の音楽人生を込めたオルフェウスのオルゴールを求める旅に出る訳です。そこには後ろ向きな気持ちは感じられず人生を明るく過ごそうという気持ちが溢れています。

 ですがニコルは心を失ってしまいました。自分にとって絶対のピアノを右手の事故で失い、それに合わせて家族や周辺の人も離れてしまった以上何も信じる者が無くなるのも仕方がありません。そしてそんな心情だからこそ、その後ジョージのオルゴールづくりを見ていても心に響かなかったのでしょう。皮肉にも、ジョージを亡くしてオルフェウスのオルゴールを聞いて初めて心を込める事の大切さに触れる訳です。それでもまだ自分に自信が持てないでいましたが、心の底では前向きに人生を送りたいという想いがありました。

 そんな想いを開いてくれたのがアルマですね。彼女の性格と行動は誰の心にも響きますよ。彼女がヴァイオリンを響かせる天才少女なわけですが、同時に人の心を響かせる天才少女だったのかもしれません。そして、ニコルとアルマが同じような境遇だった事も関係しているかもしれません。ニコルはそんなアルマの心に触れ境遇に触れ、ジョージが話していた心を込めるという事の本当の意味を理解する事になります。技術的にはジョージに及ばないかも知れませんが、アルマに届けた最高のオルゴール、そしてその後ニコウの手で作られるオルゴールには心がこもってますからその人にとっては最高のオルゴールである事間違いなしです。そんな人の心というテーマを明確に、簡潔に、柔らかく表現したシナリオでした。

 あとは、他の登場人物も優しい方ばかりでしたね。リリィやベベル、そしてオルゴール職人達、みんな辛抱強くニコルが帰ってくるのを待ってました。ニコル自身も心を込める事の大切さを取り戻したからこそ、彼らのありがたみや優しさを理解できたのかなと思っています。やっぱり自分の心の持ちようで見える世界は変わりますね。最後のニコルにとって、世界は以前より輝いて見えている事でしょうね。

 という事で簡単ながら感想でした。こういった短めで深くプレイヤーに思わせ、それでいて矛盾点ゼロの完全なハッピーエンドな作品は最高です。こんな作品とはぜひまためぐり合いたいと思いました。


→Game Review
→Main

inserted by FC2 system