M.M 俺たちに翼はない 〜Prelude〜


<世界観とキャラクターを良い意味で「生々しく」伝える先行版>

 この「俺たちに翼はない 〜Prelude〜」は、Navelから発売される「俺たちに翼はない」の先行版として位置づけられたファンディスクです。私がこの作品に興味を持ったきっかけは、ズバり「それは舞い散る桜のように」をプレイしてそのシナリオライターである「王雀孫」に多大なる興味を持った事です。「それは舞い散る桜のように」をプレイした方なら分かるかと思いますが、この「王雀孫」独特の文章のセンスとテンポに腹を抱えて笑った事と思います。なによりもここまで変態で愛される主人公も珍しかったのではないかと思います。で、そんな王雀孫が実に6年ぶりにメインシナリオを手掛ける作品がこの「俺たちに翼はない」です。そしてその先行版である「俺たちに翼はない 〜Prelude〜」の内容ですが、その値段の高さに身合うだけの内容だったと思いました。

 内容は、約30〜40分程度のショートシナリオが3本と約1時間半〜2時間のプロローグシナリオが2本、そして他幾つかのコンテンツも含めて約7〜8時間でプレイできる内容でした。とりあえずこの分量は先行版の中では結構長い方だと思います。そして、他の先行版では中々見ることのない一体感見たいな物を感じました。全体の枠組みとして「Navel」のマスコットキャラクターである「ネーブルガールズ」がこの「俺たちに翼はない 〜Prelude〜」を紹介するという感じになっているのですが、ホント展開が旨いですね。上手くプレイヤーを誘導するようにショートシナリオとプロローグシナリオをプレイさせ、全てのシナリオの時系列を一つにまとめ上げるように締めくくります。これによって、個々のシナリオがまるで大きな一つの物語だったかのように思わせ、プレイヤーに大きな満足感を与えてくれます。この綺麗な一体感は間違いなく本作である「俺たちに翼はない」の成功を期待させるものでした。

 そしてシナリオですが、6年たっても王雀孫独特のセンスとテンポは健在でしたね。むしろ演出面がより滑らかになった分パワーアップしたかの様に感じました。十分に笑えます。これだけで十分であり満足です。ですが、それにプラスしてもう一つ感心した部分がありました。それは登場人物や世界観を良い意味で「生々しく」表現したところです。

 基本的にこのギャルゲーの世界観の中に登場するキャラクターは現実にいる筈のないパーソナリティを持った人ばかりです。そして、その点はこの「俺たちに翼はない 〜Prelude〜」も変わりません。ですが、ここが王雀孫の上手いところだと思うのですが、そんな世界観の中で本当に各キャラクターが現実世界で「生きている」かのように振舞うのです。具体的には、セリフの一言一言がリアリティに溢れ心情の一つ一つが嘘くさくないのです。当たり前の事を言っていると思うかもしれませんが、このある種の異常な空間であるギャルゲーの世界においてここまで丁寧にキャラクターを表現出来る文章を書ける人はそういないものです。それでも現実ではありえないシチュエーションばかりですので私はあえて「生々しい」という表現を使用していますが、決してマイナスの意味はありません。ここまで丁寧に描かれると、もう本編をプレイせざるを得なくなりますね。

 まとめますと、とりあえず王雀孫の笑いのセンスは健在です。そして、そんな独特のテンポのいつの間にか引き込まれ知らず知らずのうちに「生々しい」キャラクターの紹介の洗礼を受けます。そして全体で一つの物語と錯角させてしまうようなNavelの演出です。確かに先行版で6,500円は他に類を見ない値段ですし、やり方が汚いと買わないという気持ちも分かります。ですがこの先行版、決して高すぎる値段ではありません。むしろNavelは体を張って「俺たちに金はない」と訴えている事丸分かりなのですから、ここはNavelに投資する意気込みで是非買いましょう。少なくとも文章で不満になる事はありません。そして、合わせて本編である「俺たちに翼はない」も買いましょう。私はこれを予約して買う決心が付きました。

 最後に一番吹いた一文を紹介。



「違うの〜、エロゲーとギャルゲーは違うの〜。」



それではこの辺で。


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