M.M 俺たちに翼はない


<キャラクターの魅力で押し切った渾身の名作>

 この「俺たちに翼はない」は、2003年位から発表され非常に長い間ファンを待たせた王雀孫渾身の一作です。2002年にBasiLから発売された「それは舞い散る桜のように(以下それ散る)」をプレイされてすっかり王雀孫のファンになった方も多いのではないでしょうか。それ散るで魅力的だった魅力ある主人公・キャラクターに期待している人が多数でしょうが、感想としましては長い間待っただけの事はある非常に魅力あるキャラクターで構成された物語でした。

 この俺たちに翼はない(以下俺つば)の特徴として、とにかく登場するキャラクターが多いことが挙げられます。そして、それら一人一人が非常に強力な個性を持ち、だれ一人として色あせる事がありません。これは実によく考えられた事だと思います。だれ一人です。本当にだれ一人として欠ける事が許されないんです。中には笑えるキャラクター、痛いキャラクター、ツンデレ(古典ツンデレ)からヤンデレまで多くの属性がありますが、それぞれがそれぞれで一人の人間としてこの俺つばの世界の中で生きています。

 そして、この点がこの俺つばの中で最も特徴的だと思います。とにかく個性的でぶっ飛んでいるキャラクターばかりです。ですが、どのキャラクターもどこか現実にいそうな雰囲気を持っているんです。分かりやすくまとめますと「ぶっ飛んでるが現実的なキャラクター」ばかりなのです。この辺も流石は王雀孫だと思います。何か、典型的なギャルゲーの痛々しいキャラクターが誰もいないんです(上で痛いキャラクターと書きましたが、これは現実でもいそうな痛いキャラクターという意味です)。よくここまで会話の流れとか個性とか考えてきたと感服しました。

 そして、そういう意味で典型的なギャルゲーとはどこか違う雰囲気を持ったゲームです。さらに、このゲームは非常に長いです。私は決して読むスピードが遅いとは思ってません(ボイスもよく飛ばすし)。それでも一人当たり15時間かかりました。簡単に言いますと、どこか普通にある学園萌えゲーのつもりでプレイすると痛い目に会うという事です。このゲームのテーマは表の雰囲気以上に重いものです。

 そういう意味でこのゲームはある意味鬱ゲーの要素も入っているかも知れません。このゲームのテーマはまさに現代生活に潜む問題です。このゲームでニヤニヤしようと思うだけだと若干後悔するかも知れません。それでも前に言いました通りキャラクターの魅力はとにかく強大です。あまり深く考えずに軽くプレイするだけなら十分キャラ萌ゲーとしても成立するでしょう。

 とにかくありとあらゆる面において非常に高レベルにまとまった作品です。間違いなくNavelを代表する作品であり、2009年の中でもトップクラスの作品と呼べるでしょう。今までの普通の作品に飽きた方、どこかギャルゲーにリアリズムを求めたい方、ただキャラ萌えしたい方、ひたすら笑いたい方、などどんな方でもまず満足してくれると思います。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<世界が平和でありますように>

 「世界が平和でありますように」、実にいい言葉ですね。当然です。誰もが悲しまない世界が一番良いに決まっているんです。そして、それを強く願ったのは何を隠そうこの物語に登場する全てのキャラクターでした。

 この作品のテーマは「翼が無くても羽ばたとう思えば羽ばたてる」だと思います。そしてこれは全てのキャラクターに当てはまる事だと思います。確かにメインは過去のトラウマが原因で多重人格になってしまった主人公ですが、その他のどのキャラクターこのテーマにそったエピソードを持っていました。

 代表的なところで言ったら柳木原で成田隼人が出会う人物たちです。マルチネス、アリス、プラチナ、メンマ、フレイムバーズ、誰もが今の現状に満足しておらず、いつかは今の生活から一皮むけて一つ大きな世界へ旅立ちたいと思っていました。そして、最終的にではありますが間接的に成田隼人のおかげで彼らは今の現状から羽ばたいて新しい世界へ飛び出していきました。といった通り、この世界の登場人物はすべて羽ばたこうともがいている人たちばかりなんです。

 そういう意味では、確かにメインヒロインに費やした時間が長かったですが誰もが同じとして見ていいかもしれませんね。明日香の幻の弟からの脱却、日和子の自分の限界への挑戦、鳴の人と接することへの努力、とりあえずこれらが光る訳ですがサブキャラクターに焦点を当てればそれだけでメインヒロイン級のシナリオが描けそうです。

 そんな中で唯一終始一貫していたのが、本作のダークホースと言いますか、最終ヒロインの小鳩でしたね。全てを知っている義妹、そして幼いながらもずっと兄の事を信じて待ち続けた義妹、このゲームで一番強かったキャラクターだと思いました。まあ、彼女にはもはや兄しかいなかったので本当はこのゲームで一番不幸な少女だったのかも知れませんね。過去の事件を考えるとよくぞあそこで壊れなかったと思います。主人公が全ての真実を受け入れ、最後に二人一緒になった時には本当に良かったと思いました。

 さて、テーマについてはこの位にして、やはりこのゲームの魅力は散々書いてきたキャラクターの魅力でしょう。そして、それが他のギャルゲーよりもはるかに素晴らしいと思った点があります。最終章とその他の章で主人公の人格が変わる訳ですが、それによって実に多彩な表情を見せてくれる点だと思うんです。例えば明日香、終始落ち着いて自分のペースを崩さないキャラクターである点は変わりませんが、タカシとヨージでもちろん態度は違う訳です。さらに最終章では各章のキャラクターがクロスオーバーするので、それでまた面白い一面を見る事が出来ました。この辺りの妙も流石は王雀孫だと思います。

 まとめます。様々な心の悩みをもった個性光るキャラクター達、そしてそれでも自分の今の現状からの脱却と世界の平和を願ったシナリオ、素晴らしいの一言です。ギャルゲーでありながらリアリズムに拘り、決してシナリオと雰囲気に妥協しない姿勢は昨今のギャルゲーにはない魅力を持っていました。見事でした、楽しかったです。


→Game Review
→Main

inserted by FC2 system