M.M オフライン少女


<等身大の世界と等身大のキャラクターで描かれる現代のサウンドノベル>

 この「オフライン少女」というタイトルは同人サークルである「チェーン荘」から発売された作品です。私が初めてこのサークルを知ったのはC83の時でして、他のサークルと比較して結構高めな値段設定とそれに見合った完成度のパッケージが印象的でした。その後結構多くのサイトでプレイされている事を知り、等身大な世界で描かれるシナリオと何よりも「オフライン少女」というタイトルの意味が気になりプレイしてみました。感想ですが、壮大ではないものの日常にありがちな設定の中で描かれる男女の心の繋がりを描いたシナリオにのめり込む事が出来ました。

 OHPを見ればわかりますが、この作品の舞台は近未来の大阪の日本橋です。そして主人公はスマートフォンのアプリケーションを開発しながらシステムエンジニアを目指している青年で、この物語全般に置いてこの主人公が開発しているアプリケーションが意味を持つことになります。その他の登場人物は主人公の友人や行きつけの喫茶店でアルバイトをしている女の子、そして日本橋の地下アイドルをしている女の子など日常系非日常的なキャラクターが揃っております。是非プレイヤーの方にはこの主人公が開発しているアプリケーションとその他の登場人物との接点を意識しながら文章を読んで頂きたいですね。

 そして近未来の大阪日本橋でありスマートフォンが当たり前という世界観ですので、主人公が開発しているアプリケーションに限らずネットという環境が非常に身近になっております。一昔前の学園系サウンドノベルでは携帯電話すら普及していなかったものが当たり前であった事を考えますと、日常系サウンドノベルも時代に合わせてどんどん進化している様子を感じますね。私も現在スマートフォンは持っておりませんので、この作品の世界観には驚かされながらもこれが当たり前なのかなとも思い多少のギャップを感じております。

 そしてこの作品にはもう1つの特徴がありまして、ジャンルとして「超近未来型ザッピングADV」とあります。近未来なのは上でも書きましたがこの作品はザッピング形式を採用しております。簡単に言えば、主人公の視点だけでなく他のキャラクターの視点でも物語が語られるという事です。シナリオに伏線を張ってそれを他者の視点で見る事で解決するような手法でよく使われるザッピングですが、この作品の場合は比較的同じくらいの時系列を並行して複数の視点で描いておりますので、物語の深みの追及というよりはプレイヤーに世界観への愛着を沸かせるような意味合いが大きいのかも知れません。何れにしても明確に視点が変わるタイミングが分かりますので「今は誰の視点なんだろう?」と悩む心配はありません。

 後はシステム周りやBGM、キャラクターボイスなどは前評判通り非常に高レベルでまとまっておりまして、最近の商業ブランドと比較しても大差ない程です。特に同人ゲームでボイスがあるゲームは結構珍しく、成程これならば確かに多少金額が高いのも頷けますね。商業ブランドのフルプライスが¥8,800である事を考えれば全然安いですからね。ちなみにプレイ時間としては短めでした。私でCG100%まで5時間程度かかりました。まあちょっと長めの映画を見ている感覚でプレイして頂ければ良いのかなと思いますね。

 とにかく等身大の世界と等身大のキャラクターによって描かれる現代のサウンドノベルを是非堪能してください。そしてタイトルにある「オフライン少女」の意味を掴んでほしいですね。この作品で言うオフラインとはどういう意味なのか、オフラインがあるのであればオンラインもあるのか、そんな事を頭の隅に置きながら読み進めるとこの作品のテーマが伝わるのではないかと思います。全国の同人ショップで販売しておりますので気になった方は是非手に取ってみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<オンラインとオフラインのクロスオーバーがこの奇跡的な物語を実現させたんですね>

 良くまとまったシナリオだと思いました。よりネット社会が浸透している現代の世界らしい物語でした。そしてネット社会が浸透しているのであれば当然人との関わり方も昔と違ってくるのは当たり前ですが、フェイスtoフェイスでなくなれば人との関わりが希薄になるという意味では決してありませんでした。寧ろネットとリアルのクロスオーバーが現代においては非常に意味を持つコミュニケーションの手段なのかなと思いました。

 この作品に登場する人物達が出会った切っ掛けは基本的にネットの世界でした。ですがその時はまだお互いの顔も知らず、ネットを通じて繋がっているようで実は繋がっていないという事が当人たちの心の中に残っていました。その為がネットを通じて会話をしたり音楽を配信したりしても本当の意味で満たされることは無く、どこか空虚な日常になっていたのだろうと思います。そこで大事になってくるのが、ネットで繋がった関係をリアルの世界で再確認する事でした。

 主人公の開発したアプリケーションは実際に街を歩いている人たちがネットを通じてコミュニケーションを行う事が出来るものでした。自分はここにいるという事をネットで発信し、それを知った友人から声がかかる。またはネットに何かしらの情報を発信し、その情報を共有しようと人が集まる。主人公の開発したアプリケーションは決してネットでの繋がりだけを密にするものではなく最終的にリアルでの繋がりを密にする事が出来るものでした。この作品の登場人物たちにとってもこのアプリケーションの意味合いは非常に大きく、自分の存在を誰かに認識してもらえているという事は非常に大きな安心感を得る事が出来るものです。

 そしてリアルでの繋がりを密にすることでそれが更にネットでの繋がりも加速させる事が出来ます。そしてそれは更にリアルでの繋がりを加速し、最終的には街の人々皆と繋がる事が出来る可能性を持ってました。物語終盤でリッカを救出する一連の連携はまさにそんなネットとリアルの繋がりを深めお互いの信頼関係を築いたからこそ成功したのかなと思っております。あのリッカの救出はネットの繋がりだけでは恐らく周りとのタイミングが合わず失敗していたでしょうし、リアルの繋がりだけではあそこまで広く作戦を展開できずタイムオーバーになっていたと思います。何が言いたいのかと言いますと、ネットとリアルをクロスオーバーさせる事が現代でのコミュニケーション方法だという事です。

 リッカはネットを通じてチサトの音楽を聴き歌を作る事が出来ました。チサトはプログラムを通じて両親と仲良くなる事が出来ました。主人公とチサト達はネットとリアルの両方から捨て猫の引き取り手を探しました。地下アイドルもネット1つで情報が拡散し、実際にライブで歌を聴くことで感動を伝える事が出来ました。このようなネット(オンライン)とリアル(オフライン)のクロスオーバーがこの物語を実現させる上で欠かせなかったんですね。最終的なコミュニケーションはやはりフェイスtoフェイスであると思っております。ですがそのフェイスtoフェイスに至る過程やその後の繋がりの為にネットを欠かすことは出来ません。、フェイスtoフェイスという根本は一緒であっても、時代の経過や技術の進歩でコミュニケーションの手段は変わっていくという事を認識する事が出来た作品でした。


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