M.M 続・日本神話−ねのかみ−


<日本神話の世界観の中で描かれる登場神物達の心を繋がりを描いた物語>

 この「続・日本神話−ねのかみ−」というタイトルは同人サークルである「黒彩黄泉路(くろいろどるよみじ)」から発売された作品です。私が初めてこのサークルを知ったのはC82の時でしてその時はまだ「先行版」という事でしたので他に購入した同人ゲームと比較してプレイする順番としては保留だったのですが、私好みの伝奇物であるという事と一緒に配られたブックレットの雰囲気が良かったので非常に印象に残っていました。そしてC83で完全版が委託されている事を発見できましたので迷わず購入し、ようやくプレイする事が出来ました。感想ですが、日本神話の世界観の中で描かれる登場神物達の想いの交差が非常に印象的な内容でした。

 OHPを見ればわかりますが、この作品の舞台は私たち人間が住む「顕世(うつしよ)」と邪悪な神々が住む「幽世(かくりよ)」の狭間にある「黄泉路(よみじ)」に古くから住んでいる「ねのか」と「シシ」の2つの神様の視点で描かれます。そしてもうこのプロットの段階でこの作品の世界観が圧倒的な日本神話に基づいていることが分かります。こういった世界観について詳しい方であればすんなりと作品の中に入り込めるのでしょうけど、詳しくない方であれば最初は戸惑うかも知れませんね。それでも日本神話に登場する神様や剣などが登場するわけですのでどこかで聞いたことがある言葉は多いと思います。

 そんな日本神話に基づいた世界観という事で、この作品には「用語集」というものが存在しております。これはテキストの中で出てくる専門用語について解説したものであり、日本神話について詳しくない方でも概要について知る事が出来ます。それでも基本的に専門性の高い内容ですので用語集を読んだだけでもすんなりと理解する事は難しいかも知れません。まあ、実際のところこの用語集の内容は簡単に流し読む程度でもシナリオの理解に影響はありませんし、むしろシナリオを読み進めていって作品の雰囲気に慣れる方が理解が早いかも知れません。何が言いたいのかと言いますと、この作品は日本神話という専門性の高い世界観でありながら誰でも理解できるよう工夫されているという事です。

 そしてこのゲームのジャンルは「神世の時代と現代を紡ぐ非日常系百合ADV」となっております。ここで百合という点を強調しておりますが、基本的にこの作品に登場する神様は女の子が多いですね。百合と聞いてそういったシーンを期待される方も多いと思いますし私もそうでしたが、実際そこまで想像以上の数の百合シーンがある訳ではありません。むしろこの作品は登場神物達の心の繋がりを描いたシナリオになっておりますので、どちらかと言えば体の繋がりよりも心の繋がりの方が見所だと思います。個人的に、百合の魅力って精神的な繋がりがあってそこから肉欲に発展するものだと思っております。そういう意味でこの百合を強調している事は全く持って正しいと思いますし、絵と合わせて是非テキストで萌えて頂ければと思いますね。

 後はシステム周りやBGMもテキストを読むという事を阻害することなく作品を盛り立てる事に一役買っております。特にBGMは全部ではありませんがオリジナル楽曲も存在し、ここぞというシーンでもBGMのマッチ具合は流石ですね。1つ残念だったのが、バックログを読むときに誰のセリフなのかまで表示して頂ければなお良かったのかなと思います。それでも普通にテキストを読み進める上では何も支障はありません。そしてこのゲームには一部戦闘描写があるのですが、数は少ないですがCGが用意されております。これが非常に格好よく仕上がっておりまして、私もプレイ中に思わず「おお・・・」と呟いてましたね。という訳でテキスト以外の要素でも十分に作品を盛り上げてくれております。

 とにかく日本神話の世界観と登場神物達の心の繋がりを堪能すれば良いのではないかと思いました。日本神話を全面に取り扱った作品という事だけでも珍しいですし、その日本神話について出来るだけプレイヤーが取っつきにくくない様工夫されております。プレイ時間としては私で5時間程度でした。長さもそれ程長いわけではありませんので是非気軽にプレイして頂きたい作品ですね。是非ジャケット正面に描かれている切なそうな表情をした主人公の最後を見届けてあげて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<やはりシシの心情の変化がこの物語のテーマなのではないかと思いました>

 ネタバレ無しでも書きましたが、やはり登場神物達の心の繋がりがストレートで否応なしにプレイヤーの涙腺を叩いてきますね。自分の意志ではないのに大切な姉妹たちを殺してしまったねのかの苦悩、そしてようやく再開し一緒に暮らしていこうと決意したねのかとすずねにやってくる今生の別れ、そしてそんなねのかを本当の意味で助ける事が出来なかったシシ、1週目はとにかく悲劇の連続で特に後半はテキストを読み進めていくのが辛かったですね。それだけに2週目で最終的に8姉妹全員が再会できてイザナミも復活出来た事は素直に喜びでした。

 この作品は章を進めていくごとにねのかの記憶、もっと言えばイザナギがやってくる前の8姉妹の過去が順に明らかになっていきます。ですが明らかになっていく過去は全て仲睦まじい8姉妹の日常ばかりで、その過去と現代とのギャップが大きいぶん切なさも大きかったです。初めは何も分からずサクを殺め、その後ナルとフスを殺めた時に事の重大さに気づき自分の行動に苦悩する事になりました。そしてその後はクロとホノの事を思い出しておきながら2人を殺めてまったねのかの傷は非常に大きく、一番親しかったワカは一緒に暮らそうと決意しておきながらねのかを守りながら死んでしまったわけですからね。その後の精神を病んでしまったねのかは見るに堪えませんでした。過去の平穏な生活が幸せなばかりに、この現代での悲劇は幾らなんでも可哀想と思いました。

 ですが第三者であるプレイヤーですらここまで心を痛めている訳ですから、そんなねのかの一番そばにいたシシが一番心中辛かったのだろうと思いますね。初めはただ利用する事しか考えてなかったイザナギことシシ、ですがその後黄泉路で一緒に生活していく中でそのねのかの純粋な気持ちに触れていき、次第に心を開いて2人はかけがえのないパートナーになってました。そんなシシの目の前でねのかが苦しい悲しんでいるのです。イザナギはイザナミの夫ですが、そのイザナミ以上にねのかを大切にしたい気持ちは痛いほど伝わってきました。

 この作品で中心になるのは間違いなくねのかとすずねです。ですが心情的に一番スポットを当てたいのはやはりシシですね。もっと言えばこの物語はシシの心情の変化を描いたものだったのではないかと思う程です。ずっと素直になれずどこか一線を引いていたシシが最後には自分の言葉で「ねのかと一緒に居たい」と話したわけですからね。ねのかの素直な気持ちが人の心を動かす。もしかしたらそんな事がこの作品の中で言いたかった事なのかも知れません。そんなシシの想いもきっとプラスされて、最終的に8姉妹全員が揃う事が出来たのではないかと思っております。

 さて、そんな大団円で終わるのかと思いきや最後の最後でどんでん返しが待ってました。顕世と黄泉路の結界を担うバランスの崩壊、そして幽世から迫ってくる無数の悪鬼達。これまでの物語は序章でここからが本番なのではないかと思う程ですね。ですがここから先は次回作にバトンタッチです。この後顕世で物語が展開されるようですがどのようなものになるのか。そしてそこに8姉妹及びイザナギとイザナミはどのように関係してくるのか。非常に楽しみですね。そしてもう1つの物語も告知されてました。8姉妹の長女である大雷の秘密です。全ての真相を1人で抱え込んでいた大雷ですが、具体的な内容についてはほとんど語られることはありませんでした。大雷はどのような想いを抱えていたのか、是非プレイしたいと思っております。という訳で日本神話を題材にした世界観の中で描かれる登場神物達の心の繋がりを堪能する事が出来ました。まだまだこの世界観に触れていたいと思っておりますが、まずは次回作に期待して楽しみにしようと思います。ありがとうございました。


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