M.M 縷々 -LuLu-


<パッケージから伝わる高貴な雰囲気そのままのテキストを味わうように読んで欲しいですね。>

 この「縷々 -LuLu-」は同人サークルである「mintista」で制作されたビジュアルノベルです。mintistaさんと初めて出会ったのはC87で島サークルを回っている時でして、その時に手にとったのが今回レビューしている「縷々 -LuLu-」です。まずパッケージに驚きました。トールケースに加えてそれを包む紙のパッケージがありましたからね。まるで辞書を手に取っているかのようでした。相当の拘りを感じ、その時はもう反射的に何も考えずに購入しておりました。内容もパッケージの通り本を巡った内容のようで、大変興味を持ちました。

 主人公である悠人は中学二年生です。大人しい性格で感情に身を任せることもなく、日々勉強しているだけの学生です。そんな悠人のささやかな趣味は近所にある「紅林堂書店」に足を運ぶことと家に遊びに来る猫にエサを与えること位でした。ちなみに悠人は秀才でした。学校での成績はなんと学年一位。本人はそれについて鼻にもかけずマイペースな生活を送っております。ある日いつもの通り紅林堂書店に足を運ぶととある大学生に声をかけられます。大学生は探し物をしていて、それについて悠人に相談しました。交換条件として悠人もある本の行方を捜すよう相談します。この二人が出会ったことで、物語が動き出しました。

 公式HPでも書かれておりますが、この作品は小説パートと会話パートを交互に読み進めていきます。パートを分けていると書いておりますが実際はパートの違いを感じることはありません。小説パートでは画面の下半分を使いテキストが表示されます。会話パートでは登場人物の立ち絵とともに語り手が誰か表示されテキストが表示されます。違いは立ち絵と表示されるテキストの量だけです。そういう意味で、小説パートと会話パートのテキスト量の差に始めは慣れないかも知れません。言ってしまえば小説パートで一度に表示されるテキストが多い気がしました。1クリックで1つの文であれば良いのですが場合によっては1クリックで200文字程度一気に表示されますのでテンポ感を掴むまで時間はかかると思います。それもまあ慣れれば気にはなりませんが、最近のビジュアルノベルの中では珍しかったのでメモしておきます。

 合わせて場面転換が割と頻繁に起きます。そしてその場面において誰の視点で語られているのかを速く掴む必要があります。この作品、割と多めの伏線が張られますのでその場その場の状況を把握することが鍵となります。そういう意味で敢えて場面転換を多めにしてプレイヤーを惑わす目的があるのかも知れません。そうであるのならかなり有効に働いていると思います。逆にそういった穿った読み方をしない人にとっては割と戸惑うかも知れません。このあたりは読み手の相性もあるのだと思います。気になればメモを取りながらプレイするのも良いかもしれません。伏線を張っているだけ、プレイ後に得るものは大きかったです。

 プレイ時間は私で4時間30分掛かりました。割と淡々とした日常のテキストが続きますので、体感的にはもっと長いかも知れません。もしかしたら途中で飽きる人がいるかも知れません。それでも後半に向けて徐々にシナリオは確認に迫っていき、今度は逆に真実を求めて時間を気にせずに読むことが出来ると思います。ちなみに淡々とした日常とは言っておりますがそのテキストには大変なセンスを感じます。シナリオライターの語彙の豊富さを伺うことが出来、純文学を読んでいるような感覚です。パッケージから伝わる高貴な雰囲気そのままのテキストですので、是非時間を気にせず味わうように読んでみることをオススメします。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間の幸福を願う強い心、例え縷縷綿綿でも伝わればそれで良いのだと思いました。>

 まさか3つの時代を行き来する物語だとは思いませんでした。公式HPでも微妙に苗字を伏せていたのはその為だったのですね。どうも物語が噛み合わないなと思っていたのですが、最後の最後で繋がる事ができました。紅林堂書店の謎、探していた本の真実、そしてそれらから伝わる人間の幸福を願う強い心を感じました。

 縷縷綿綿(るるめんめん)とは「細く永くもう終わるのかと思うとまだ終わらない様子」を意味する四字熟語です。一般的にはあまり良い意味として使われることはなく、話がクドいとかまとまらなくてダラダラと続く状態で使われます。しかしこの物語の中ではそうした否定的な意味では使われておりませんでした。過去に白神省吾が決意した心の病を治そうという意思、そして紅林希久と紅林巽が始めた紅林堂書店を存続させたいという意思、これらが一旦途絶えようとはしましたけれど細々と受け継がれ現代の白神悠人のところまで伝わりました。最後の最後で物語の真実が分かったとき、何とも言えない温かさが私の心を包みました。人の想いって、信じることで後世に残すことが出来るんだなと改めて実感しました。

 そして彼ら彼女らの想いを直接悠人に伝えたのは、ある1体の人形でした。人形は物を言いません。ですが持ち主の想いをずっと聞いておりました。だからなのかも知れません、多少強引でも持ち主の想いを実現したいと思ったのは。名前のなかったその人形は人形師の手によって作られ、その後祓魔術師、医師と手渡され日本の白神省吾の下へとやってきました。そして人形に与喜という名前が与えられた切っ掛けとなった紅林与喜に手渡され、与喜、ヨキ、古都と共に今は亡き紅林謄写堂で彼らの子孫を見守ってました。今思えはあの世界はなんだったのでしょうか。私が思うに、あの世界はきっと子孫たちが道に迷った時だけ開かれるのだと思います。奇跡のような出来事です。奇跡的で確証のない細く永い道のりでした。それでも縷縷綿綿と伝わりました。

 そして彼ら彼女らの想いが白神悠人の下へ受け継がれたとき、それが彼らの終わりの時でした。作中でも「あるべきものが正しく戻っていく」と言ってましたが、縷縷綿綿と受け継がれてきた想いが伝わっただけで相当な奇跡でした。そしてそんな奇跡は彼の傍にいた一匹の黒猫にまで及んでました。今思えはマナの存在は何だったのでしょうか。マナは悠人の前には綾辻の傍にもおりました。もしかしたらマナはご飯をくれた二人に感謝したかったのかも知れません。マナも与喜も元は言葉を持たない存在です。それでも人に最も近い位置で人の想いを受け取ってました。彼ら彼女らが言葉を取得し人と話が出来ただけでも奇跡。ああ、振り返ればどれだけの奇跡に囲まれているのでしょうね。

 悠人は間違いなく医者を目指すのだと思います。それは決して与喜に言われたからでもご先祖様の想いを聞いたからでもありません。それは縷縷綿綿と受け継がれた意思による物、それ程までに人の想いというものは他者に影響を与えるのですね。人間の幸福を願う強い心、例え縷縷綿綿でも伝わればそれで良いのだと思いました。多くの人の気持ちが入り混じった本作、すべて整理した改めて一から読んでみたいと思いました。ありがとうございました。


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