M.M リトルバスターズ!


<いつものKeyでありながら友情をテーマにしたやや毛色の違うシナリオ>

 恐らくこの「リトルバスターズ!」というタイトルは多くの方がご存じなのではないかと思っております。ギャルゲーの中でも絶対の人気を誇るブランドである「Key」が2007年に発表した作品であり、2012年にはアニメ化もされた非常に人気の高い作品です。過去に発表された「Kanon」「AIR」「CLANNAD」はどれも大ヒットしており、いわゆる「泣きゲー」と呼ばれるジャンルを確立した事でもKeyは有名だと思います。そんなKeyがCLANNADから3年の月日を経て発表された本作ですが、さすがKeyらしい笑いと感動に包まれた内容でした。

 OHPを見ればわかりますが、タイトルにある「リトルバスターズ!」とは主人公である直枝理樹を始めとした5人の友達の和の名前を差します。過去に心に傷を負った主人公がリトルバスターズのメンバーに誘われ、彼らと行動を共にすることで徐々にその痛みや悲しみを癒していきます。リトルバスターズを結成したのは小学生の時であり、5人の友情は高校2年生になっても続いています。そんな中でリトルバスターズのリーダーである棗恭介が「野球をやろう!」と提案するところから物語が始まります。これまでのKey作品と違い非常に楽しげで明るい印象のあらすじだと思いました。冒頭からKeyらしいコメディが連発であり、相変わらず個性的でいい意味でのアホなキャラクターばかりですのでkeyをよく知っている人はもちろんそうでない人でも安心して世界観に入っていけると思います。

 そしてこの点が「リトルバスターズ!」のこれまでのKey作品との大きな違いであると思っております。これまでのKey作品は主人公と同世代の男性キャラは友人1人(AIRについてはなし)でしたので、コメディの掛け合いは基本的に主人公とその友人とヒロインたちとで行われていました。もちろんそれはそれで楽しいのですし何も不満はないのですが、「リトルバスターズ!」は男性キャラの人数が多くこれまでのコメディとはまた毛色の違った内容となっております。そしてこの作品はリトルバスターズという5人の友情を中心として描いた物語ですのでそんなコメディ要素が非常に微笑ましく、これまでのKeyにあった「前半のコメディ、後半の感動」という図式に捕われないシナリオとなっております。

 もちろんKeyですのでコメディだけという事ではなくそれ以降のヒロインとの個別ルートも読みごたえのあるシナリオとなっております。ですが多くのサウンドノベルがヒロインとの個別ルートに入るとその他のキャラクターの登場頻度が激減するのに対し、この「リトルバスターズ!」は流石と言いますが友情をテーマにしている事もあり最後まで多くのキャラクターが色褪せません。感動させるシナリオでありながらエンディングを迎えて爽やかな気分になれるのはシナリオの良さもありますが、こうしたリトルバスターズという友情を大切にするという今作の根っこの部分を疎かにしないからからなのだと思いました。何が言いたいのかと言いますと、リトルバスターズを中心として全てのキャラクターに愛着の持てるシナリオばかりであるという事です。

 そしてこの作品のもう1つの特徴にミニゲームがあります。あらすじにもありましたがプロローグで「野球をやろう!」と声を挙げるところから物語が始まるのですが、この野球がミニゲームとして遊べます。主人公はバッターなのですが、実際にリトルバスターズのメンバーが守備について練習を行います。そして主人公がヒットを打ったり他のキャラクターがボールをキャッチすれば各キャラクターに設定してあるパラメータが上昇します。そしてミニゲームはこの野球以外にもあり、各キャラクターのパラメータは他のゲームにも関係しており全体として結構遊べる内容となっております。ゲームそのものもマウスと簡単なキーボードの操作のみでして扱いは簡単であり、仮にゲームで失敗してもシナリオに影響はありません。これだけでもかなり遊べる要素となっております。

 という訳でいつものKeyの完成度でありながらこれまでの作品とはやや毛色の違ったコメディ要素が楽しめる内容となっております。基本的に安心してプレイする事が出来ますし、プレイ前の期待を裏切らない内容であると思います。特に今作はこれまでにないミニゲームの要素が面白く、全てのシナリオを終えてからもずっと遊べる内容となっております。プレイ時間は私で約30時間程度で標準的な長さであり、エンディングに向けて盛り上がっていくシナリオですので気が付けば時間が経過している錯覚に陥るかと思います。いつものKeyでありながら友情をテーマにしたちょっと毛色の違うシナリオを楽しんでいただければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<奇跡というものは信じる事で起こる、そしてその信じる事は友情があるから続けられる>

 流石のKeyでした。Keyが友情を描くとこのようになるんだなという事が良く分かりました。本当に直枝理樹は素敵な友達に出会えたと思います。自分の命を犠牲にしてまで直枝理樹と棗鈴の為に終わりのない世界を作り上げるなんて、一生離れる事が出来ない友情だなと素直に感動しました。EDもOP曲である「Little Busters!」の明るい曲で締めましたし、これまでのKeyと違いただ感動するのではなく爽やかな気分にさせてくれる内容でした。

 各ヒロインを攻略していく中で確かにどこかリトルバスターズのメンバーの言動や行動に違和感を持ってました。まるで直枝理樹の保護者の様に慕っている様子や全てを見通しているような態度をとる3人、1人目の小毬や2人目の葉留佳をクリアした時はそこまで気づきませんでしたが3人目4人目と攻略していく中でただの友情ではない何か裏がありそうな雰囲気に気が付きました。そして所々で語られる世界の不思議、始めはたとえ話なのかと思いましたがまさか本当に世界が現実のものではなく3人が作った終わりのない世界だとは思いませんでした。そこまでしてリトルバスターズの友情は強いものであり、本当に直枝理樹と棗鈴は愛されていると感じました。

 それにしても、実際のところ3人はどれだけ終わらない世界をループしたのでしょうか。そしてそのループの中で3人はそれぞれどんな葛藤があったのでしょうか。3人とも直枝理樹と棗鈴を大切に思っていることは同じでした。ですが3人がそれぞれ目指したいものは微妙に違いました。この終わりのない世界とはいつか決別するべきでありその為に2人には強くなってもらわないといけない、いっそのことこの終わりのない世界の中でずっと楽しく過ごせればいい、それぞれの思いはどれも間違いではなく、そんな心のズレもまた終わらない世界から先に進めない理由の1つだったのではないかと思います。

 それでもループを重ねていく中で確実に直枝理樹と棗鈴は精神的に強くなっていきました。それは会話の中での微妙なニュアンスの違いにも表れてましたし、何よりもヒロインを攻略していく事に2人のパラメータが上昇していましたからね。これはまあミニゲーム上の仕様なのでしょうが実は2人が精神的に強くなっている事の隠れた伏線だと思っております。そして2人が徐々に強くなっていく中でなお3人はこれからどうすればいいのか葛藤していく訳です。そういう意味でRefrainで恭介が失意に堕ちたのは演出ではなく本当に疲れたからなのでしょうね。直枝理樹がもう一度リトルバスターズを結成して恭介に手を差し伸べるのがもう少し遅かったら、もしかしたら終わらない世界が崩壊して現実に戻っても皆を助けるどころか生き残った2人も死んでいたかも知れませんね。

 いずれにしてもリトルバスターズの友情は非常に強いものでしたし、それだからこそ最後に10人でもう一度修学旅行に向かうシーンは素直に良かったと思えました。この10人の友情は高校を卒業してもなお続き、それこそ終わりのないものになると思っております。傍から見れば楽しい事を精一杯やるだけの集団ではありますが、ある意味楽しい事すら全力で出来なければ本当の友情というものは生まれないのかも知れません。そんな単純なことが出来たのがこのリトルバスターズという友達の和だと思います。

 見る人が見れば直枝理樹と棗鈴は結局3人に支えられなければ成長できなかった唯のヘタレだと思うかも知れません。事実その要素はあると思いますが、いつも恭介の後ろについていた直枝理樹と棗鈴、あんな事故さえなければずっとそのままの関係だったと思いますしそれはそれで幸せなんだろうと思います。あの事故は正直運が悪かったんだと思うんです。成長する事を強いられるというのはそれなりの理由が必要ですからね。それでもそんな理不尽に負けず皆との友情を信じ最後友達を救った2人の成長は素直に嬉しいと感じました。これから社会に出て自立していくのでしょうけど、このリトルバスターズの友情はかけがえのない思い出として一生心に残り続けるのだと思います。奇跡というものは信じる事で起こる、そしてその信じる事は友情があるから続けられる。そんな事をkeyは言いたかったのかも知れません。ありがとうございました。


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