M.M レウキア滞在記 -前編-


<宗教観や文化の違いについて良く練られておりながら、その実は純粋なボーイ・ミーツ・ガールを描いた物語>

 この「レウキア滞在記 -前編-」という作品は同人サークル「レウキアの館」で制作されたサウンドノベルです。「レウキアの館」さんを知った切っ掛けは私的には結構特殊でして、初めてお会いしたのは「同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2012」に参加した時でした。初めての参加であった私はJR水道橋駅で主催のみなみ氏と待ち合わせをしたのですが、その時一緒に集合した人の中に「レウキアの館」さんがいらっしゃいました。名前や作品よりも先にお顔の方を拝見した形でして、会場設営などを通じて簡単に会話をした事を覚えております。その後C84やCOMITIA105に出られると聴き何としても作品を入手しなければという事で訪問させて頂き、その時に購入したのがこの「レウキア滞在記 -前編-」でした。感想ですが、異国文化と宗教観が交錯する世界観でありながら純粋なボーイ・ミーツ・ガールを描いた作品でした。

 公式HPでも紹介されておりますが、この作品はかつて戦争を行った西の大国であるオクスと東の連合国であるレウキアの人物と文化が交錯する物語となっております。戦争はオクスの勝利と言う形で幕を閉じ、7年の時が経過した現在でも当然のごとくオクスの人はレウキアにとって忌み嫌われる存在です。ですが歴史も文化も違うオクスとレウキアですのでオクスの人々にとってレウキアの工芸品や文章などの文化財は学術的に大変魅力的であり、調査団という形で多くのオクス人がレウキアを訪れております。主人公であるクルもそんなレウキアの文化に憧れを抱いている人物であり、そんなクルに新たな調査団の募集の話が来たところから物語が始まります。

 この作品の魅力は何といっても詳細まで綿密に練られたオクスとレウキアの文化や言語などの世界観があると思います。架空の世界であるオクスとレウキアですが、雰囲気的には日本と西アジアのように考えれば良いのかなと思っております。作中にはアラビア文字と思われる表現と漢字が頻繁に登場し、架空でありながらプレイヤーがイメージしやすい配慮がなされていると思いました。加えて言語だけでなく宗教観についても丁寧に触れております。主人公はレウキアの地で多くの人々と触れ合うことになるのですが、自分が持っている価値観では当然推し量れない様なシチュエーションに幾つも遭遇します。それは仕方の無いことです。宗教観の違いはそのまま文化の違いに直結し、文化の違いはそのまま自分自身の価値観の違いになるからです。そんな当たり前の設定を当たり前に表現することは想像以上に大変だと思いますが、作中では矛盾無くそんな難しい世界観を表現しており作者の拘りを感じました。

 そんな世界観が魅力な本作ではありますが、その実はあくまでボーイ・ミーツ・ガールであります。4人のヒロインが主人公の前に登場し、性格も外見も異なるヒロインがそれぞれのアプローチで主人公と関係を持ってきます。この作品、思ったよりも選択肢の数が多くヒロインを狙うのであればそれなりに標的を絞らないといけません。それでも1つ1つの選択肢は難しくありませんので容易に個別ルートに入ることが出来ると思います。そしてプレイすれば分かりますが、この作品は世界観に注目するのはもちろんですが物語的にはそれ以上に主人公やヒロイン達の心理を想像する事の方が重要になってきます。年齢的に20〜30前後の人物が多く登場し、決して大人になりきれていない人物達が織り成す素直な心の表現に時にはドキドキし時にはハラハラする事かと思います。何よりも主人公が良くも悪くも素直な人物ですのでどこまで主人公の行動をプレイヤーが許容できるかもこの作品を楽しめる要素になるかも知れませんね。

 そしてこの作品はまだ前編です。そして前編でありながらしっかりと個別ルートに分かれており、図らずも物語が佳境に入ろうという所で終わってしまいます。全ての個別ルートが惜しいところで終わっておりますが、それぞれのルートでそれぞれのアプローチで物語の解決に向かっている様子がまた良く練られていると思いました。ちなみに4人のヒロイン全てのルートを終えるまでに掛かった時間は私で約11時間でした。共通ルートが約3時間でそれぞれのルートが約2時間と言うところですかね。同人ゲームの中では標準的な長さだと思いますので前半でありながらボリューム十分ですのでやり応えはあると思います。どこかの即売会で入手する機会がありましたら是非プレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<不器用でありながらもブレない部分を持っている主人公であるからこそヒロインに好かれるんでしょうね>

 思ったよりもドロドロした内容だったと思いました。ここでいうドロドロというのはオクスとレウキアの文化の違いではなく主人公とヒロインの関係についてです。まあそれもひとえに主人公が行っている独自の調査が非常に危ない橋を渡っている内容であるからなのでしょうね。下手をすれば命を失い、そうでなくても調査団が解散になる恐れのある行動です。そんな危険な調査なので出来るだけヒロインにはかかわって欲しくないと思う一方で本当の意味でヒロインに全てを話せないジレンマが交錯し、問題を余計ややこしくしてしまっているんだなと思いました。まあそうであるからこそプレイヤーとしましては心を揺さぶられますので逆に楽しいんですけどね。

 この作品は主人公とヒロインだけの物語ではありません。調査団全ての人物に加えて大学の人物や露店の商人達などの関わりがあって初めて物語が進行していきます。そしてそれぞれがそれぞれの立場と価値観を持っておりますので意見がぶつかる事はしょっちゅうです。ましてやかつての敵国であるレウキアに飛び込む形でやってきた主人公達ですので尚の事状況は複雑になっております。そんな中でレウキアの貴重な文献が一部無くなってしまったという事で問題が想定以上に大事として取り上げられている状況です。

 そのような状況ですので誰にでも優しい主人公は中々自分の思うように前に進めませんでした。それは調査の方もそうですがヒロインに対して向き合っているか否かについてもです。ルートによってはヒロインとの問題はもう実質解決しており後は双方の誤解を解くだけで解決する物もありますが、特にリザやイオナについてはそれすらも解決しておりませんからね。それもひとえに状況の複雑さ故に迂闊な行動が即効死に繋がる為慎重に振舞おうとする主人公の行動に誤解している為だと思っております。この主人公、素直ではありますが微妙に空気が読めないところがありそれが誤解に拍車をかけている気がします。まあ敢えてこのような性格に設定したのかも知れませんね。ドロドロの状況でそれが解決した時の清々しさはこれ以上ない快感ですからね。

 それでも主人公は決してぶれない気持ちを持っておりました。それが「最後は自分の良心に従う」という事です。時には状況に流され言葉で押し切られる所もありますが自分の中で絶対に許してはいけない部分については頑なであり、その芯の強い部分がヒロインを引き付けているのではないかと思いました。主人公は傍から見れば図体が大きいだけでどこか男気に欠ける性格に見えてしまうので、私も始めはどうしてあそこまでモテるのかと疑問に思いもしました。ですが問題が深刻になっていく中でもぶれない主人公の思いに気づいた時、確かにモテても不思議ではないと思いましたね。不器用ではありますが最終的には問題を解決しヒロインと本当の意味で幸せになれるEDを信じております。

 ちなみにマキルートの中で文献を持っていったのは大学の男子学生である事が分かりましたが、これはどのルートでも恐らく共通なのであろうと思います。人によっては「先にマキルートやった人にとってはネタバレじゃね?」と思うかも知れませんが、そんなことはありません。何故ならこの物語は事件の解答よりも事件解決の為にどのように主人公が行動しヒロインと向き合うかを描いた物語だからです。何よりもあの男子学生が何故文献を持っていったかは描かれてませんので本質的な解決にはまだまだ時間が掛かりますね。時にはイライラさせられる事もありましたし後半でもそのような描写は続くのだと思いますが、ブレない部分を持っている主人公ですのでHappyEndingを信じて後半を待つ事にしましょう。


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