M.M キョンシー×タオシー


<とにかく「動く」人物と背景に目を見張りますが、それ以上にセンスのある演出が光ります>

 この「キョンシー×タオシー」という作品は同人サークルである「電動伝奇堂」で制作されたビジュアルノベルです。私が「電動伝奇堂」さんの作品に初めて触れたのはCOMITIA108でノベルゲーム部のサークルを回っているときでして、パッケージに強調されていた「動く!!走る!!飛び廻る!!」の宣伝文句が大変印象に残っておりました。何よりもそれだけ手の込んだ作品が無料で配布されており、加えてその時に巨大タペストリーの抽選を行っていたのですが運良く私が貰う事が出来まして、これは何が何でもプレイしなければと思い今回のレビューに至っております。感想ですが、宣伝文句の通りでとにかくありとあらゆるものが動き廻り動的伝奇ビジュアルノベルに相応しい作品でした。

 主人公であるルアンは元は殺し屋の少年でした。生まれた時から殺人技を仕込まれ、人と人と思わないような生活をしておりました。そんなルアンですがとある切っ掛けて自分の人生に疑問を持つようになり、所属していた組織から抜け出します。その後1人で生活していた時に妖怪に襲われてしまうのですが、それを助けてくれたのがヒロインであるリンリンです。リンリンは500年生きた道士です。道士とは道術と呼ばれる術を使う人のことを指し、その後ルアンとリンリンは過去に所属していた組織や他の道士達と関わりながら仙丹を求める旅に出ます。お互いが複雑な事情を持っていながらお気楽に旅をする様子は大変心が和み、プレイヤーも一緒に旅をしている気持ちになる事ができます。

 この作品の最大の魅力は何と言っても「動く」事です。とにかく動きます。それも立ち絵が動くだけではなく背景も動きますしアニメーションも登場します。そしてそんなに動く当作品ですがその動きが最大限に発揮されるのは戦闘描写です。ルアンは元殺し屋でありリンリンは道士という事で様々な戦闘に巻き込まれます。そして2人とも人間離れした動きを見せてくれます。そんな動きを言葉だけではなくビジュアルで表現しており、そのビジュアルがとにかくカッコイイんですよね。動きが激しいのでとても臨場感があり、テキストを細かく読まなくても場面が分かります。ここまで動く同人ビジュアルノベルは初めてかも知れません。言葉は陳腐ですが誰もが「凄い」と思うと思います。

 そしてそんな動き以上に私が惹かれたのがセンスのある演出です。シャフトのアニメを見ているかのようなカットインが入ったりデフォルメされた立ち絵に変わったりと場面の雰囲気に合わせてガラリと色を変えてきます。もちろんその演出も動くのですが、雰囲気に合ってますのでわざとらしくなく大変自然に感じました。センスの良さがあるのだと思いますが相当練り直したのではないかと推測できます。他にも有名なパロディネタを入れたり他の同人サークルさんの宣伝もしたりとやりたい放題、まさに同人だからこそ出来る演出だとも思いました。

 現在このキョンシー×タオシーは未完でして、このネタバレ無しのレビューはCOMITIA107版での内容になっております。今後公式HPで最新話を加えた体験版が随時リリースされていくようですので、その都度レビューを更新していきます(ネタバレ無しのレビューはこのままで、新たな更新についてはネタバレ有りの方で書いていく予定です)。ルアンとリンリンの物語はまだ始まったばかりです。この偶然出会った2人に待ち受ける刺客に勝てるのか、そして2人の運命はどうなるのか、続きが大変気になりますね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<(表題は完成版リリース後に記載します)>

(COMITIA107版 2014/8/9)

 とても楽しかったです。ルアンの圧倒的戦闘力に痺れました。そしてそれ以上にリンリンの素直さに心が癒されました。殺し屋生活の為に人の心を持つことが許されなかったルアン、加えてキョンシーになってしまいましたがそんなルアンに人の心を戻せるのは間違いなくリンリンしかいないと思っております。仙丹を見つける度は始まったばかりですし困難が待ち受けているのは間違いありませんが、2人が協力すればきっとどんな試練でも突破できると思いますね。

 私が一番心に残ったセリフはイェンの「お人好しは写る」でした。本当にリンリンは人を疑うことのない素直な性格で、事実その素直さを逆手に取りイェンはリンリンを殺そうとしました。そしてイェンは自分が肋骨をおられ死を確信した時にリンリンに助けられても、リンリンに感謝せず馬鹿と思い殺そうとします。ですがそんなイェンは無意識にリンリンを助けてました。そしてリンリンを助けたイェン自身が驚いてました。この時私は「ああ、人を想う気持ちって完全に無視する事はできないんだな」って思いました。

 どんなに辛い経験をしても、耐え難い屈辱を味わって誰も信じられなくなっても、心が死ぬということは決して無いんだと思います。恐らくルアンもイェンも優しさを失ったと思い込んでいるだけで、本当は人に対する優しさを取り戻せるのだと思います。それがイェンの行動に現れてました。リンリンの真っ直ぐな想いが響いたのだと思います。「もう……人を殺してはならぬ」「必ず来年も桃の花を見ようぞ」と真っ直ぐに言葉を紡ぐリンリン、そんな気持ちをルアンが無視できるはずがありません。今はまだ変化の過程であり過酷な生活をしてきたルアンですので本当の意味で心が癒されるのは当分先だと思います。それでもリンリンといる時は過去の殺し屋としての自分を忘れる事が出来ると思います。まずはルアンの気持ちの変化を中止しながら、その後の物語を読み進めていこうと思います。

(C86版 2014/8/25)

 太極に通じたリンリンの力は流石でした。そしてそれでも人としての心を失わなかったのはリンリンの道士としての力もそうですが、彼女の純粋な気持ちが偽丹に負けなかった理由だと思いました。ジャオ姉妹のジンファと対峙した時、明らかに2人の思想は違ってました。ジンファは「命があるから殺す」、そしてリンリンは「命があるから救う」でした。これ程までに分かりやすい対峙はありませんね。それと同時にこれ程までに分かりやすい気持ちの表現もありませんね。今後道士達との対立が激化していくと思いますが、是非リンリンにはこの純粋な想いを持ち続けて欲しいと思いました。そしていよいよ登場した桃蜜娘々、今までの道士の中で一番凶悪な印象ですね。今後どのように対峙していくの楽しみです。


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