M.M キミのための唄


<是非自身の高校生活と照らし合わせながら主人公の気持ちに寄り添ってプレイして欲しいですね>

 この「キミのための唄」という作品は同人サークルである「silvervine」で制作されたビジュアルノベルです。C83で同人ゲームの島サークルを巡っている時に手に入れた「ボクの唄」という作品に同梱されておりまして、silvervineさんの作品としてはこちらが処女作となっております。私は最初に「ボクの唄」の方からプレイしたのですが、生々しい登場人物の心理描写に心を打たれ直ぐにこちらもプレイしなければと思い今回のレビューに至っております。感想ですが、容赦のない人間の感情の流れの中で自分の本当の目的を見つける物語に深く感動しました。

 上でも書きましたが、silvervineさんの処女作か今回レビューを公開している「キミのための唄」です。ここで是非注意して頂きたいのは、プレイする順番は絶対「キミのための唄 → ボクの唄」でお願いします。この2作品は内容が繋がっておりまして、簡単に言えば「キミのための唄」の続編が「ボクの唄」となっております。私は先に「ボクの唄」をプレイしてしまいまして結構後悔してますので、是非私と同じ蹉跌を踏まないで下さい。パッケージ版のボクの唄を購入されれば同時にキミのための唄も付いてきますので、片方しか持っていないという事態にはならないと思います。

 それでは「キミのための唄」の内容ですが、公式HPでも書かれております通り主人公である柊ハルは他人と交じることが出来ず日々孤独に過ごす高校生活を送っております。気持ちの中では今の生活に変化をつけたいと思っているのですけどその一歩が踏み出せずにいました。そんな中で柊ハルが密かに恋し憧れているクラスメイトの朝雲雪と運命的な出会いを果たし、物語が動いていきます。プレイヤーの方には是非人付き合いの苦手な柊ハルが朝雲雪との出会いを通じてどのように自分の気持ちを変化させていくか注目して欲しいですね。元々が人付き合い苦手な主人公であり加えてかなりリアルな心理描写が飛び交うシナリオですので、人によってはかなりの劇薬になる内容かも知れません。

 最大の魅力は主人公の人付き合いが苦手な心理を見事に表現したテキストだと思っております。自身の高校生活がどのようなものであるかは人それぞれだとは思いますが、必ずしも全員が順風満帆で楽しい青春を過ごした訳ではないと思います。私もそうだったのですが時には人と衝突して気まずい思いをしたり好きな女の子に思いを告げられなかったりと苦い思い出ばかりの人もいるかと思います。今回の主人公も後者のネガティブな思考を持っているのですが、本当にネガティブな高校生活ってこういう感じだったな〜と改めて自分の過去を振り返ってしまいました。ビジュアルノベルですのでドラマ性やシナリオの起伏は勿論あるのですが、日常の描写はとことん暗い雰囲気です。ですがその暗い雰囲気を作り出しているのは他ならぬ主人公の性格です。まあシナリオの最後まで暗い性格で終わる訳では勿論ありませんが、是非プレイヤーの方には出来るだけ主人公の気持ちに寄り添って頂ければと思います。

 プレイ時間的には私で3時間半掛かりました。選択肢の無い1本道のシナリオですが、伏線有り感情の起伏ありでマウスをクリックする手は中々止まらないと思います。そしてエンディングを迎えてどのような気持ちになるか、これはプレイヤーによってかなり差が出るのではないかと思っておりますね。必ずやプレイヤーの心に1本の楔が埋め込まれる事と思っております。その楔の正体は何なのか、その答えが分かった時が本当の意味でこの作品をプレイし終えた時になるかも知れません。誰もが一度は経験した苦い思い出、そしてその時自分はどのように克服したのかあるいは克服出来なかったのか、そんな事を感じて頂ければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<手に入れる事、それは自分の中に確固たる意志を持ち頭で考えて行動を起こす事>

 相変わらず容赦のないシナリオでした。元々ハルは暗い正確でしたのでこうしたいじめの描写があるのは想像できましたが、そのやり方がかなりリアルで私も若干目を背けたくなりました。そして勿論そんないじめに耐性がなく加えてまともに人間関係を築いてこなかったハルですので一気に負のスパイラルに流れて行きました。この辺の心理描写が本当にリアルで少なくとも私は100%ハルに共感出来ましたね。ですがそこから生きようと這い上がるところがハルの凄いところですね。ここからハルの本当の人間関係は始まったのかも知れません。

 私がこの作品をプレイして一番心に残った言葉は「手に入れる事と与えられる事は似ているようで違う」でした。元々友達のいないハルですので、クラスの中心的存在である雪と敏哉が友達になってくれて戸惑いながらも失いたくないと思いました。同時にそれをクラスメイトから妬まれるのは筋違いだと思ってました。ですがそれは決してハルの方から友達になって下さいと声を出したわけではなく、たまたま雪から友達になろうと声が掛かったからでした。私もクラスメイトがハルを妬むのは間違っていると思ってますが、妬まれる自分は被害者だと泣き寝入りするハルもちょっと違うのではないかと思いました。この微妙な勘違いがその後ハルの心に深くのし掛かり、後に自分の足で前に進む必要性に気付く切欠になりました。

 結局のところハルはどこかに言い訳を用意し続けてきた人生を歩んでました。母親が自分を父親と錯覚したのは母親が悪い、自分がコミュニケーションを取れないのは自分に愛情を注がなかった母親が悪い、自分が貧乏なのは父親が死んだのが悪い、自分がいじめられるのは敏哉が助けなかったのが悪い、これは確かに事実なのかも知れませんが、それでも現実に泣き寝入りするのではなく自分で考えて動こうとする事はありませんでした。被害者振るのは本当に楽ですからね。責任は加害者にあり自分はただ相手を批判していれば良いだけですからね。ですがそれでは本質的に自分の心が満たされる事はないと思います。それに気がつけなかったからこそ雪の言葉を盲信して取り返しのつかない失敗をしてしまうところでした。

 ですが全てを失ったと思っていたハルですが最後に残った気持ちが「生きたい」でした。そして生きる為にどうすればいいかをこの時から初めて本気で考え始めました。この時からようやくハルの人生は前に進んだのかも知れませんね。自分で考えて周りを見れば案外簡単に道は開けていました。雪のハルに対する行動の真実、母親の気持ち、敏哉の気持ち、クラスメイトの気持ち、それらに対して正面から触れる事が出来ました。この気持ちを忘れない限り、ハルはもう友達のいない生活に戻ることは無かったのではないかと思いました。

 ですがハルには残酷な未来が待ってました。交通事故という不慮の出来事で呆気なく死んでしまいました。ですが一度「生きたい」と願ったハルは死してなお雪の事を思い言葉をかけ続けました。その後雪は自分の死神としての能力がハルを殺してしまったと思ってしまうのですが、最後まで「生きたい」と願ったハルの心は残り続けました。その後魂の存在となってしまったハルの物語は続編である「ボクの唄」に繋がるのですが、一度「生きたい」という気持ちを手に入れたハルですので自堕落的な生活ではなく自分で考えて意志を持った生活を送ることになります。これについては是非「ボクの唄」をプレイして頂きたいですね。生きている時よりもなお辛い死者としての生活がハルを待っております。という訳でまとまりませんが感想でした。私も是非生きる意味を見つけて少しでも活力のある生活を送りたいと強く思いました。


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