M.M キラークィーン


<推理物と思わせながらその実態は特殊な環境を背景にした人間ドラマ>

 この「キラークィーン」という作品は同人サークル「FLAT」で制作されたサウンドノベルです。2006年に発売という事ですが既にその時から何かと話題性があり、同人ゲームの中では結構な知名度を持っていると思います。現在は「シークレットゲーム」という名前に変えてPSに移植されてますし、それだけでこの作品の評価の高さを窺い知る事が出来ます。私も発売当時から名前は知っていましたしパッケージ版を買ってはいたのですが、ずっと棚に積みっぱなしでしたのでようやく今回プレイするに至りました。

 この作品、OHPを見るだけでもの凄く面白そうだと思いました。突然どことも分からない場所に集められた13人のプレイヤー、その13人のプレイヤーが生き残るために3日間のサバイバルゲームを行うんです。しかもそれぞれの生き残る条件はバラバラで、頭を使わないと殺されてしまうかもしれません。サスペンスホラーという事ですが、それ以上に謎解き要素や推理物としての期待感も高めてくれます。ですが、この作品の真の魅力はそういった謎解き要素ももちろんですがそれ以上にこの過酷な状況に身を置かれた人間の心理描写にあると思います。

 こんな特殊な環境ですので当然これまで生きてきた平和な社会の常識が通用しません。殺さなければ殺される、こんなありえないことがまさに目の前で現実に起こっている訳です。そんな状況に置かれたとき、人はどのような行動をとるのでしょうか。全員が生き残るために協力しようとするでしょうか。それとも自分さえ生きていればいいと思い簡単に他の人を殺すでしょうか。何も考えられずただ周りに流されるだけでしょうか。そんな人間の心の闇のようなものを上手く表現していました。

 そして実はこの作品、選択肢がないんです。つまり、推理物と思わせておきながらやはりこれは人間ドラマなんです。もちろん読み進めていく中で自分で推理して誰がどの条件なのか、こいつは嘘をついているのではないか、そんな事を考えながらプレイするのも醍醐味だと思います。ですが根底にあるのは人間ドラマであり、この特殊な環境はあくまでそんな人間ドラマを演出する設定でしかありません。

 そういう意味で、プレイされる方にとっては多少のもどかしさはあるかも知れません。何しろ選択肢がないという事はプレイヤーの意志で行動できないという事です。あくまで各キャラクターの性格や行動は決まっていて、ある意味プレイヤーはこのサバイバルゲームをしている人たちを主人公の視点で第三者的に観察していると言えます。まあ、逆に言えば自分で推理して行動して生き残るという手間は省けますので、私の様に頭を使うのが苦手な人でも普通にエンディングまでたどり着ける事でもあります。基本的に人間ドラマであること、それを確認しつつ推理物としても楽しむことが一番このゲームを堪能する方法かも知れません。

 その他の要素についてですが、基本的なシステム周りは十分です。BGMもこの特殊世界観を表現するための一役を買っています。1つ気になったのは文章文章でコロコロと主語が変わるという事ですね。主人公の心情を話しているのかと思いきや唐突に他の人に変わったりするという事がしょっちゅうありますので、流し読みしていると途端に状況が分からなくなるかもしれません。

 とまあとにかく人間ドラマであるという事を強調しましたが、この特殊な環境を十分活用したシナリオはかなり読みごたえがあります。人間の行動心理をよくわかっていると思いました。プレイ時間も長すぎず短すぎず、最終的に全ての謎を解決しエンディングへと導いてくれます。のめり込んでプレイ時間を忘れそうになるくらいですので、久しぶりに頭を使った読み物を読みたいという方にはおススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<いつの間にか我々プレイヤーすらショーの傍観者と同じになっていたんですね>

 いやはや、プレイしていく中でどんどん明らかになっていくルールの裏設定、そして各キャラクターの生い立ちや心の奥底の正体、そして最終的に最愛の人を守ってこのショーから脱出できた主人公たち、ここまで飽きさせずに最後まで読ませてくれるシナリオとテキストは見事でした。時にはプレイヤーすら騙した設定にはもう脱帽ですね。かねがね満足できる内容でした。

 シナリオ的にはある意味いつもの健速といったところでしょうか。健速のシナリオはこれまでは「遥かに仰ぎ、麗しの」しか読んだことがありましたが、それだけでも確かにこのキラークィーンのシナリオライターは健速であると気が付きました。まずは視点がコロコロ変わること、次に直接的な伏線を張ること(例えば「〜〜〜だったとはこの時は思いもしなかった・・・。」的な表現)、そして最初は主人公がヒロインをリードしていたのにいつも間にかヒロインが主人公をリードしているというシナリオ展開、そのどれもが「遥かに仰ぎ。麗しの」に共通していましたね。そういう意味で健速が好きな人には堪らないんじゃないでしょうか。私も「遥かに仰ぎ。麗しの」は好きでしたし、そういう意味でこのキラークィーンのシナリオも相性が良かったと思います。

 そしてルールの裏設定にはさすがに気が付かなかったですね正直最初に開示された9つのルールと13の条件で全ての材料は揃っていると思ってましたからね。そしたらその後からどんどん裏設定が増えていくから面白いです。レベルアップしていく武器、罠の数々、PDAのアップロード、ゲームマスターの存在、首輪の真相、これには登場人物だけでなくプレイヤーも頭を悩ませながら読み進めたのでしょうか。

 そしてそんな裏設定がどんどん明らかになっていくシナリオにしたからこそ、この物語のドラマ性も良かったのだと思っています。何だかんだ言って登場人物は頭の回転が速い人が多かったので最初に開示されたルールについて既に自分の中で消化し、対策をとっていました。もしこれで裏設定が無ければ、登場人物たちはその後動揺することなく無難な3日間を終えたのかもしれません。ここに知らされていなかった裏設定を取り込むことで登場人物たちは動揺し、それがドラマ性を高めているのだと思いました。

 そしてこの感想を書いている私自身も、実はこのショーを傍観している1人だった訳ですね。事実どのような結末になるか予想できませんでしたし、どんな結末になるか自分で想像しながらテキストを読み進めるのは完全にショーを傍観している奴らと同じです。要は楽しめればいいんです。変化があれば良いんです。登場人物たちが悩み葛藤し信じ裏切ればそうする程、我々は楽しいんです。そうだとすれば皮肉な話ですね。第一章の最後は完全に主人公たちとショーを傍観している奴らとの戦いでした。つまりこれは言い換えれば主人公たちと私たちプレイヤーとの戦いともいえるかも知れません。

 ちなみにこのシナリオ全部を通して一番驚いたのは第二章の始まりすぐでしたね。何しろ第一章のメインヒロインがいきなり死んでるんですから。もうこの瞬間第一章の感動が全部ぶっ潰されたと思ってしまいましたよ。そしてずっとそばにいて健気で無垢だと思っていた第二章のメインヒロインがあの性格ですよ。もしかしたらそんな展開もあったら凄いな〜って思っていたことの斜め上を行ってましたね。まあ、最後にはハッピーエンドだったのでホッとしました。

 とりあえず楽しませていただきました。ルールの裏設定を活用して巧みに登場人物の心理をかき乱すシナリオは見事でした。そしてまさかの二章構成で出だしからあの衝撃、この段階でもう左クリックを止めることは出来ませんでした。それだけ面白いシナリオでした。楽しかったです。


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