M.M 女装お嬢様への異常な愛情


<主人公とメイドがどのように相手を思いやり結果どのような結末になるのかを見届けて欲しいですね>

 この「女装お嬢様への異常な愛情」という作品は同人サークル「夜のひつじ」で制作されたビジュアルノベルです。夜のひつじさんの作品は過去に「純情セックスフレンド」をプレイした事があり、夜のひつじさんお得意の「絡め取るような偏愛」を堪能する事が出来ました。今回プレイした「女装お嬢様への異常な愛情」はC84の時に入手した作品で、タイトルとパッケージの雰囲気から普通のエロゲーではない雰囲気を感じてましたがやはり夜のひつじさんらしい心を絡め取るようなシナリオとHシーンは流石と思いました。

 公式サイトをご覧になればわかりますしもうタイトルからそのままなのですが、この作品のジャンルは「身代わり女装人質ADV」となっております。舞台は今よりやや昔の架空の異国で、主人公はとある貴族の策略で人質として別の領主の館に潜伏します。潜伏先の領主と主人公の父親は相対する関係であり、主人公の目的は領主が今後どのような動きを行うのか察知し報告するというものでした。主人公の傍には1人のメイドが付くことになりました。このメイドが本作のヒロインであり、その後主人公とメイドはこの領主の館で過酷な現実と戦うことになります。

 最大の魅力はやはり男でありながら余りにも可愛い女の子として精一杯振舞う主人公の様子だと思います。主人公は生い立ちの関係で比較的線の細い体型でして、それが故に家族に認められないコンプレックスを抱えております。ですが逆にその線の細さが今回の潜伏に繋がり、主人公は心の内は不本意ながらもようやく家の為に役に立つことが出来ると張り切ることになります。実際は社会経験の浅い主人公ですので領主に丸め込まれたり今まで知らなかった現実と遭遇して自身を失うこともありますが、それでも与えられた任務を確実にこなそうとする健気な様子は主人公として最大限の魅力を発揮してくれます。何よりも女装ですので常に男としてバレてはいけないハラハラ感が付いてまわり、それが尚の事主人公の魅力を後押ししてくれます。

 そしてヒロインであるメイドの存在も欠かすことは出来ません。彼女も唯のメイドではなく何らかの過去を持っております。それが故に本当の意味で主人公と心を通わすことが出来ずどこか一線を引いた態度で接してきます。それでも主人公の持ち前の明るさと優しさが次第に彼女の心の壁を溶かし、いつしか自然と2人は良きパートナーとしての関係を作っていきます。この作品、主人公もメイドも両方欠かすことは出来ません。主人公とメイドの2人がどのような形で領主という強大な権力と向き合っていくか、是非プレイヤーの皆さんも一緒に彼らの活躍を見守って欲しいですね。

 ちなみに夜のひつじですのでやはりHシーンは欠かせません。ですが過去にプレイした「純情セックスフレンド」と同様今作もただ視覚・聴覚に訴えるだけのHシーンではありませんでした。ちゃんとシナリオのバックグラウンドがありお互いの心を絡ませあうシーンが魅力です。逆に選択肢を謝れば主人公が男に陵辱されるシーンになってしまいます。それもただ男に体を犯されるだけではなく心まで犯すような結構心にズンとくる内容でした。ですがそんなEDもこの作品の魅力です。是非全てのEDを見て相手を思いやる為の信念と覚悟というものを感じて頂きたいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分に自信を持ち覚悟を持ってフェルを守る信念を持てた時、それが抑圧からの開放の時でした>

 結局のところこの2人は国王達の駒として動かされるだけの存在から逃れられずまた領主の手からも逃れられず、絶対的な権力からは逃れられない運命でした。どうしようもなく周りの環境に流され、それぞれが望むようなささやかな幸せも権力1つでどうにでも転がってしまうような環境でした。そんな2人でも唯一守れる存在がありました。それがお互いそれぞれの事であり、お互いを守るためには絶対に揺るがない信念と覚悟が必要でした。

 作中パエスがレナートに言った言葉の中に「お前の言葉は上滑りだな」という物がありました。これはレナートがパエスに説得している言葉は全て父親譲りの言葉であり自分の気持ちが入っていないという物でした。やはりこれが今回レナートが乗り越えなければいけない部分であり、最も苦手としている部分だったのではないかと思います。レナートは基本的に自分に自信がありませんので、マヌエラから初めて自分にしかできない命令を貰ったときようやく自分の居場所が見つかったと思った事と思います。ですがそれはある意味レナートの思考停止であり、ただ彼は父親やマヌエラの言葉を反芻するだけの存在でした。そこにきっとレナートの覚悟も信念も無かったのだろうと思います。

 だからこそパエスからレナートに「フェルナンダかマヌエラか選べ」と言われた選択肢、これが全ての決めてなんだなと思いました。ここでレナートが自分に自信を持ち覚悟を持ってフェルを守る信念を持てた時、初めてレナートとフェルは本当の意味で心が通じあえたのだと思います。逆にこの瀬戸際の場面でもレナートが覚悟を持てなかったとき、それがそれぞれの破滅の時でもありました。EDは2つでしたがその様相は余りにも対照的でした。一方は信念を持つことで父親やマヌエラと仲違いただ隣の人だけを思う純愛ED、もう一方は自分の存在価値すら見失いただ権力に流されて尊厳も何もかも捨て去ってただ空想の想い人を追いかける陵辱ED。どちらも結局はレナートが選択した結末であり、形は全然違いますが本人の中では幸せなEDだったのかなと思っております。

 それにしてもやっぱり夜のひつじさんの作品の真骨頂は主人公が体も心もプライドも何もかも捨て去るEDがある事だと思いますね。陵辱EDの後半でウィルソンに犯されるレナートの何と哀れな事でしょうか。気持ちいいと思うことすら認められず「わたしはきもちわるいきもちわるい」とつぶやく姿、そこにもう王家の血を感じる事は出来ませんね。そんな情けない姿になってもまだレナートを慕うフェルナンダの姿、余りにも痛々しすぎます。そしてそんな痛々しいフェルナンダを一生縛る言葉をレナートは発してしまいました。それが「恋していた」という物でした。言葉は呪い、事実レナートとフェルナンダはその後空想のお互いの姿を思い浮かべながらただ快楽に溺れるだけの生活を送る事になります。それでもきっと幸せなんです。そこに自分の意思は無いにしてもようやくたどり着けた境地でした。

 という訳で流石は夜のひつじさんのシナリオだと思いました。初めは媚薬の影響でただお互いを貪り合うシーンが入るのかと思いましたが、そこは丁寧に2人の心情を描きあくまでシナリオ有りきのスタンスでした。この丁寧な描写があってこそどのHシーンも映えるのだと思いますね。最終的にプレイヤーの心も骨抜きにするシナリオとHシーン、今回も十分堪能させて頂きました。ありがとうございました。


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