M.M 姫君は優雅に推理する 第1話 『アイドル声優殺人事件』


<王道を大切にしながらもその中で姫君という個性を十分に発揮した演出が素敵でした>

 この「姫君は優雅に推理する」は同人サークルである「YOX-Project」で制作されたビジュアルノベルです。YOX-Projectさんとは実はこれまでイベント等ではお会いしたことがありませんでした。それでもこの作品をプレイした理由ですが、COMITIA112にサークル部活動として参加する「ノベルゲーム部」のメンバーにYOX-Projectさんがいたことでした。今回ノベルゲーム部の中で私も紹介役として参加する事になりまして、参加されるサークルさんの作品をプレイしない訳にはいかないという事で今回のレビューに至っております。

 内容はもうタイトルの通りなのですが、主人公はなんとお嬢様です。ラタニーア王国と呼ばれる人口500万人程度の国の第一王女であるセイラ・ライムハルトは日本の文化を愛しておりました。ラタニーア王国の王族は代々海外で数年間生活することで見識を広げる伝統がありまして、そんなセイラが選んだのは勿論日本です。とりわけ日本のサブカルチャに大変興味を持っており、秋葉原で生活する事を決めておりました。そしてそんなセイラが秋葉原で行う事、それはまさかの探偵事務所。ここから彼女の探偵としての生活が幕を切って落とされます。

 最大の魅力はもう言わずもがな、主人公であるセイラ・ライムハルトのキャラクターそのものです。王国の王女らしく常に高貴な雰囲気を醸し出しており決して俗にまみれておりません。そしてお嬢様らしく一般社会の常識には疎く、時に考えもしないような行動に出て周りの人を驚かされます。しかし彼女を突き動かしているのは純粋な好奇心です。全ての行動原理がこの好奇心であり、だからこそ一見全ての行動に不安を感じますがそれでも見守りたいと思わせてくれます。ドレスを身にまといながらも探偵としてプライドを持って発言するその様子は王女の証、是非彼女のオーラに気後れすることなく事件を解決して欲しいですね。

 そしてこの作品はシステム周りも大変手をかけております。まずは人物と背景がヌルヌル動きます。その様子はまるで絵本を読んでいるかのようです。終始動的な演出が施されている事で全く間延びすることがなく、どんどん文章を読みたくなってしまいます。そして探偵ものということで導入から事件の始まり、推理や解決編などの場面での音と絵の演出も派手に作られております。例えば「犯人はこの中にいる!」→「ドンッ!」といったお決まりのパターンが登場するのですが、効果音と人物の動きが本当に大げさです。分かりきっている展開なのに否応なくテンションが上がってしまいます。王道を大切にしながらもその中で姫君という個性を十分に発揮した演出、それこそがこの作品をより良いものにしていると思いました。

 プレイ時間は私で1時間20分掛かりました。この作品は探偵ものということで犯人はプレイヤーが探します。選択肢も数多く登場しますし、途中マップで気になるところを選ぶパートも存在します。間違えば勿論犯人を捕まえることは出来ません。是非ところどころメモを取りながら進めて頂ければと思います。ボリュームも一般的なホームドラマ1話分ですので、そこまで大きな伏線が張られている訳ではありません。落ち着いて考えればそれ程迷うことなく犯人にたどり着けると思います。是非プレイヤーの皆さんもセイラ王女になりきって、日本の文化に触れながら立派に探偵を勤めて頂きたいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<彼女が今回の事件で学んだ事、それは人間の多様性だったのではないでしょうか>

 大変楽しい時間を過ごすことが出来ました。セイラ王女の魅力が十二分に発揮され、素直な彼女だからこそ全ての方が耳を傾けてくれたのかなと思っております。唯の破天荒な正確ではない、気品とプライドをもったお嬢様だからこそ今回の事件の解決に繋がったのかのかなと確信しております。

 とりあえず私は何とか犯人を一発で当てることが出来ました。正直決め手はなかったのですが、第一発見者が名村英子だったところが一番怪しいと思いました。何となく全員に最もらしい理由付けがされていたので、唯一の違いを突いてみたら正解でした。私もあまり推理ものは得意ではありませんので当たるか不安でしたが、この位のボリュームでしたのでなんとか把握する事が出来て安心しました。本当に1時間のホームドラマを見ているかのようなまとまり具合で、最後まで手が止まることなく楽しむ事が出来ました。

 ネタバレ無しでも書きましたが、この作品を動かしているのは全てセイラ王女の魅力です。彼女の発言が周りの人を動かし彼女の行動が事件を動かしました。そしてこれが出来たのは彼女が気品とプライドを持ち合わせていたからでした。途中湯川警部から「外野はお断りだ」「お前の行動がラタニーア王国の信頼に繋がる」と言われたとき、彼女はしっかりと「全ての責任は自分自身のもの」「必ず事件を解決してみせる」と言い切りました。この時おそらく湯川警部も唯のハッタリではない自信を感じ取ったのだと思います。湯川警部は結局最後までいい顔をしませんでしたが、心のどこかでは彼女に期待していたのかも知れません。それも全て彼女の気品をプライドの成せる技のおかげです。今回事件を解決した事でやや湯川警部からの信頼も得られたかと思います。

 ですがそんなセイラ王女ですが決定的に欠けているものがありました。それは人間の持つ心の深さを知らないという事です。名村英子が最後「あなたと一般市民の間には壁がある、見識を広げるならそこを学びなさい」と言いました。この言葉はセイラ王女の胸に強く突き刺さりました。人間の行動心理は確かに勉強することでも知ることが出来ます。ですがそれだけでは机上の空論、やはり現場に立ち現地の人と話をすることでしか得られないものがあります。彼女が今回の事件で学んだ事は探偵のスキルでもサブカル文化でもなく、そうした人間の多様性だったのだと思います。

 今回の事件で一つ経験を積みました。そして次回また新たな事件が彼女を待っております。その時彼女はどう動くのか、そしてその動きに対して周りの人はどう反応するのか。アニメや漫画だけで知ってきた日本と現実の日本のギャップが埋まる日は、決して遠くはなさそうです。第二話も楽しみにしております。


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