M.M ひまわり


<タイトルやOHPで嫌煙したら実にもったいない>

 この「ひまわり」というゲームは、同人サークルである「ぶらんくのーと」が2007の冬コミで発表した作品です。副題が「ロリっ娘宇宙人同棲ADV」という事で「なんだそんなゲームか」と思って嫌煙されがちなゲームですが、実際プレイしてみると久しぶりに戦慄を感じる作品でした。

 別にこの副題が嘘を言っている訳ではありません。実際OHPを見れば分かる通り登場するキャラクターはロリっ娘ばかりですし、そのロリっ娘が突然空からやってきて主人公と同棲するのも事実です。ですが、このゲームのテーマはそんなロリっ娘との同棲を楽しむ事ではありません。実際に手に取って見てプレイすれば分かりますが、見事に伏線を張り巡らせたシナリオ、そしてその最後に待っている作品のテーマ性、登場人物の心理描写、どれをとっても一級品でした。

 ホント、どうして作者がこのような紛らわしい副題をつけたのかがいまだに分かりません。副題に対して実に良い作品だったと意表を突くつもりなら大成功でしょう。ですが同人業界においてそれだけの博打を打つのは危険な気がしました。まあ何が言いたいかと言いますと、この作品は間違いなく2007年に出されたどのサウンドノベルにも負けず劣らずのクオリティを持っているという事です。

 もう少し具体的に紹介していきます。まずはシナリオですが、結構長いです。最終的にエンディングに向かうまでに私は約20時間かかりました。ですが、完全に攻略しようと思うとバッドエンドも含めて全て見る必要があります。そして、グッドエンドとバッドエンド全てを見る事で明かされる内容もあります。物語の本質としてそこまでやる必要があるかと言われれば疑問ですが、完全攻略しようと思うとかなりの時間はかかるでしょう。

 そして絵ですが、もうOHPの通りです。全ての登場人物がロリっ娘という訳ではありませんが、メインヒロインがロリっ娘である以上その印象が最後まで抜ける事はないでしょうね。まあ、よほどロリっ娘を嫌煙している人なら仕方がないかもしれませんが。そうでもない人はとりあえずこの点には目をつぶって是非シナリオを楽しんで下さい。

 あと注目したのがBGMです。この作品のBGMの多くはフリー素材から構成されています。一部そうでもない楽曲もありそうですが、同じコンポーザーではないことは明らかでした。ですがそのことはこの作品において全くマイナス要素にはなりません。むしろ同人の強みを生かした戦略と言えると思います。とにかく雰囲気に合います。特に最初のシナリオを終えた後の演出では鳥肌が止まらなくて風邪引くかと思いました。間違いなく一級品です。

 ネタバレになるので内容を紹介できないのが痛いですが、とにかく私が言いたいのはタイトルやOHPの情報だけを鵜呑みにして嫌煙するのは実にもったいないと言う事です。泣きゲーが好きな方、謎解きが好きな方、ロリっ娘が好きな人は勿論、是非私を信じて見てプレイしてみてください。予想外の感動があなたを待っています。約束します。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<夢や希望には必ず代償が生まれる>

 この物語を動かしているのは、単純に人の思いです。それも、夢や希望に向かって突き進もうとするポジティブな思いです。結果、全ての人が幸せになった訳ではありません。幸せどころか、多くの不幸と犠牲を生み出してしまいました。それでも人の思いは未来に突き進んでいくんです。本人が、それを諦めぬ限り。

 結局のところ全ては西園寺明、雨宮大吾、星乃明香里が宇宙の果てを目指した事が始まりでした。彼らには夢とそれを実現できるだけの財力、能力がありました。ですが、それでも宇宙の果てを目指すには絶対的に時間が足りません。何しろ宇宙に浮かぶ星達は何光年離れているか分かりません。たどり着く前に誰もが死んでしまいます。そこで考え出されたのが記憶の引継ぎでした。単純な発想です。肉体が寿命を迎えるなら、その肉体を新しいものにとり変えればいいのです。そうすれば半永久的に星を目指す事が出来ます。それがルナ理論の原点、言いかえれば西園寺グループが基礎研究を行っている理由です。

 そして、その実験のために多くの不幸を生んでしまう訳です。まずは全ての始まりである西園寺明、雨宮大吾、星乃明香里の別離、日向宗一郎の葛藤、アオイ、アクア、アリエスの存在と副作用、そして518人の犠牲者と日向陽一です。倫理的には間違いなく許されない事なのでしょう。記憶というものは人格を形成し、その人の生きる道しるべになるからです。ましてやこの理論の証明の為に多くの犠牲が生まれてしまいました。それでも、この理論を推し進める事が、最終的に西園寺明、雨宮大吾、星乃明香里の望みを実現する事になるのです。

 実に残酷な話ですよね。自分たちの望みを実現するために大切な人がいなくなったのです。星乃明香里はもともと体が弱い上に実験中死亡、雨宮大吾はルナウィルスによる記憶錯誤の中月面で死亡、最大の協力者であった日向宗一郎ルナウィルスのキャリアと共に自ら自決、結局のところ西園寺明に残ったのは何だったのでしょうね。もしかしたら、いやもしかしなくても一番悩み苦しんだのは他ならぬ西園寺明かもしれませんね。

 そんな西園寺明ですが、シナリオ上では徹底的に悪役として描かれていました。まあそうでしょうね。西園寺明の夢の為にアオイ、アクア、アリエスは作られ使われた訳ですからね。特にアクア、彼女は第二章の主人公でもあることからその無念さはいつまでも胸に残りました(久しぶりに泣きました)。これだけの悲しいエピソードを生んでまで自分の望みを推し進める理由はない筈です。

 ですが、この物語のテーマは夢を持って未来へ進んでいく事です。多くの犠牲を生みながらも、最終章のエンディングでは誰もが自分の夢に向かって悲観する事なく進んでいく様子が描かれていました。確かに犠牲は出ました、心にずっと傷を抱える事になると思います。それでも失ったものは帰ってこないので、自分に折り合いを付けて前に進むしかありません。未来へ進んでいくことで希望を持てるということ、そしてそれには必ず代償が付きものであるという事、それを隠すことなくSFの世界の中でハッキリと表現していたと思います。

 ちなみに個人的に一番好きなキャラクターは西園寺明です。異論は認めますがこの物語は彼の望みから全て生まれたのです。彼の思想と無念はゲーム中では殆ど語られませんでしたが、それに思いを馳せるとさみしくもあり温かい気持ちになります。最も考察のしがいがある人物であり、最も重要な人物でした。そしてヒロインでは私も例にもれずアクアです。特に第二章最後の「センパイ」にはもう涙なしには見れませんでした。最後の月面でのCGを見るだけでお腹いっぱいです。もっとも報われなかったヒロイン、そして西園寺明の最大の被害者とも言えるかも知れません。そんなアクアだからこそ、2050でのアクアエンドはよかったよかったと素直に喜ぶことが出来ました。

 最後に。シナリオが進むにつれて徐々に明らかになる内容と伏線の張り方、魅力ある登場人物、場の雰囲気に合ったBGM(特に第二章予告ムービー)、どれをとっても名作です。感動しました。このようなゲームが、今後も出てくれることを期待するばかりです。


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