M.M 初恋


<自身の初恋を思い起こす事が出来る淡い物語>

 この「初恋」というゲームは、2002年に「RUNE」から発売されたサウンドノベルです。タイトルの通り、このゲームはオーソドックスな学園物でして、主人公とヒロインの淡い恋物語を中心としています。そういう意味では真新しさはないのかも知れませんが、発売された当時である2002年前後はLeaf、Key時代の終了とともに様々なサウンドノベルが台等してきた時代でもあります。そんな中で現代の学園物の基礎を作った作品の1つと数えられており、非常に安定した内容ですので安心してプレイする事が出来ます。

 このゲームの特徴としては、やはりヒロインの容姿にあるのではないでしょうか。原画家である「野々原幹(ぢょんたいらん)」の描くキャラクターはどう見ても幼いと言わざるを得ません。設定的に高校生なのでしょうが、どう見ても中学生またはそれ以下の年齢のキャラクターしかいません。そういう意味ではロリに特化した特殊なゲームとしても捕らえられてしまいがちです。実際タイトルも「初恋」ですし、高校生の設定というのがあからざまな罠と言えるのかもしれません。

 そして、そんなロリ的なキャラクターですがそれは容姿だけでなくパーソナリティにも表れているようです。基本的に思考が10代のそれですね。まあ学園物という事で当たり前なのかもしれませんが、社会を知らない訳ですのでどうしても自分の感情に真っすぐなキャラクターばかりです。ですが、思考が幼いとは言いましたが決してこういったゲームにありがちな頭の悪い人物は登場してきません。具体的に言えば、変な口癖を語尾に付けるヒロイン、不自然なまでに言動や行動が遅いor速いキャラクター、主人公にありえないくらい無茶な要求をするクラスメイト、現代社会ではありえないような無謀な要求でも二つ返事で了承する親、そんなギャルゲーで登場しがちな頭の悪いおバカなキャラクターは登場してきません。これも初恋というゲームの特徴になるのかもしれません。

 良くも悪くも「普通」のゲームという事です。ヒロインも妹・先輩・後輩・お嬢様と現代の王道ですし(外人はちょっと特殊か)、プレイ時間的には1ヒロインで約3時間とやや短めですがフルコンプを目指すと20時間弱と極端なものではありません。選択肢の中から自然と個別のシナリオに分岐する様も一般的です。そんな普通のゲームです。

 ではこのゲームの魅力は何なのか、それはやはりリアルな学生生活を彷彿とさせる事で自分の初恋を思い起こさせることだと思っています。登場人物のロリ加減は傍から見たら極端ですが、実際自分達が初恋をした年代を考えると実は妥当だったりしませんか。初恋がいつだったかは人それぞれですが、おおよそ小学生・中学生くらいの人が多いと思います。そういう意味で、このロリな容姿のキャラクターは理にかなっていると言えます。さらに、パーソナリティがリアルでありおバカなキャラクターが居ませんので、自分の学生生活を思い起こしやすいとも言えます。そういう意味で、このゲームの真の狙いは単純な抜きとしてではなく自分の中の淡い思い出を呼び起こす事なのかもしれません。

 という訳で一見すれば特別面白味がある訳でもないレビューになってしまった感はありますが、そういったゲームばかりプレイされているかたはちょっと肩の荷を下ろす感覚で是非プレイされる事をお勧めします。このゲームは深く考察するゲームでも鬱になるゲームでもありません。最後はハッピーエンドで終わる淡い物語です。当時の制作陣が手探りで作り上げた学園物の基礎、是非味わってみてはいかがでしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<このゲームを18歳以上しかプレイできない事が最大の「罠」だと思うのですよ>

 上でも書きましたが、このゲームは基本的に学園物ですので登場人物はみな学生であります。その為その物の考え方もやはり学生ですので、なかなか自分の感情に真っすぐな様子でした。まあ、この初恋の場合はその事が確実にプラスに働いているのですが、全てをプレイし終わってとんでもない喪失感に襲われたのもまた事実であります。

 シナリオは自分の思いとは裏腹に意外とファンタジー要素が多かったです。自身の魂が過去に飛んで主人公を導いたり、自分の体は実は人形で魂を移し替えなければいけなかったり、自分と主人公は前世からのつながりがあって今世でも来世でも巡りあったり、ヒロインは実は外国の王女で身分を隠して転校してきたりと、とても楽しませてもらいました。こういう若干のファンタジー要素があるのも王道の学園物らしいですね。

 ですが、シナリオがこのようなファンタジー要素であるということはある意味日常社会の常識が通用しないという事を示しています。何が言いたいのかと言いますと、途中途中で出てくる選択肢を間違えずに選ぶ為の判断材料は、常識的な要素ではなくあくまで登場人物に気持ちに立つ事しかないという事です。そして、このゲームをプレイして思った事にプレイ時間に対して選択肢の数は非常に多いという事もあります。まあ、選択肢の難易度はそれ程高くはないのですが、この場面ではこっちだろうと自信を持って選んだのに間違ってしまった時は若干凹みましたね。ですがその後の展開で、なるほどやっぱりこっちが正解だったんだなと納得させられる訳です。

 つまり、それだけ今プレイしている自分の思考と学生の思考とで隔たりが出来てしまったのです。常識的や確率的な視点で物事を選択していくのが社会ですが、学生がそんな事を気にするはずがありません。そこに先立つのはやはり自分の気持ちであり、それこぞが初恋というゲームの魅力でもあります。だからなのでしょうね、プレイし終わった後に何故か喪失感に襲われたのは。

 ですが、こんな直情的なゲームはやはり学生時代にプレイする訳にはいかないと思うのですよ。学生時代にプレイしてしまったら自分もこんな学校生活を送りたいと思ってしまい、未来が分からない今の学生時代をどう手探りで生きていくかという自分だけの面白さを失う事になるからです。このゲームを素晴らしいと感じるのは、その自分自身が学生時代に出来た事出来なかった事を振り返る事が出来るからだと思っております。ですが、それはつまりもう自分は学生時代には戻れないという事も意味しており、その事も喪失感に拍車をかけているのかもしれません。

 まさに、このゲームは学園物として完成しすぎているからこそ評価され、逆に喪失感を味わってしまうのかもしれません。そういう意味で、このゲームが18禁である事こそが最大のミソであり罠であると思います。喪失感を味わえば味わうほど、このゲームは光輝くのでしょうね。

 まとめます。ロリなキャラクターとパーソナリティは自分の初恋時代を思い出させるのに威力十分であり、また学園物としての王道を味わう事が出来ました。今でこそ真新しさはありませんが、決して外れる事の無いシナリオは誰がプレイしても満足できるものであると信じております。大作ではありませんが小さな傑作だったと思います。楽しかったです。


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以下は更なるネタバレです。
「みずいろ」「D.C.〜ダ・カーポ〜」をプレイし終え、私のネタバレレビューを読んだ方のみサポートしています。
それ以外の方には「みずいろ」「D.C.〜ダ・カーポ〜」のネタバレになりますので、見たくない方は避難して下さい。








































<「初島杏」から見る理想的な二次元妹のキャラクター像>

 さて、これまでこのゲームは学園物としてのリアルが魅力であると書いてきましたが、もう1つ書かなくてはいけない要素があります。それは妹キャラである「初島杏」についてです。2002年当時からエロゲーにおいて「属性」という要素が固まってきました。例えば、委員長・幼なじみ・クラスメイト・先輩・後輩といったもので、おおよそこういう属性はこういうキャラクターであるというふるいが出来つつありました。妹もそんな属性の1つであり、2004年に「妹ゲーム大全 」という本が出るほどオーソドックスになっています。

 そんな妹属性ですが、決まって代表キャラクターの1人に挙げられるのがこの「初島杏」でした。他にも多くの妹キャラクターが存在していますし、そういった人気キャラには必ずと言っていいほどアンチが存在し人気の後押しをしている訳です。ですが、この「初島杏」も含め自分がプレイした中では「みずいろ」の「片瀬雪希」と「D.C.〜ダ・カーポ〜」の「朝倉音夢」には殆どアンチが見られません。そして、今初恋をクリアしてみてこの3人には幾つかの共通点がある事に気がつきました。

 「初島杏」は主人公と年の差が無い妹であり、基本的に生意気であります。生意気なのですが、ウザいと思った事はありませんでした。それは、基本的に「素直」な性格であり、自分の思った事を湾曲せず言葉や態度に示してくれます。そんな性格だからこそ、生意気な口調も素直に兄への行為だと気づけますし、そんな様子は微笑ましくさえ思えます。

 これは「片瀬雪希」や「朝倉音夢」にも共通です。「片瀬雪希」はかたや完全無欠の素直さで、兄をいじる事も困らせる事も無い理想的な妹です。ですがそんな「片瀬雪希」をつまらないキャラクターだと批判する声は今のところ聞く事はありません。「朝倉音夢」も兄への世話を焼きながら途中不満を言ったりとある意味普通の妹ですが、意地の悪い点は1つも無く基本的に素直に兄が好きな妹です。

 そうです、この3人に共通なのは「素直さ」です。性格は各人バラバラではありますが、その根底には「素直さ」という共通点がありました。これは昨今マンネリ化しつつある「ツンデレ」とは真逆に位置しており、ある意味今の時代には遅れているのかもしれません。

 ですが、妹という立ち位置は主人公にとってやはり身近すぎます。第一に同じ屋根の下で過ごしています。そして年代も近いです。そんな主人公の立場に非常に近く、主人公の性格や振る舞いを誰よりも理解しているのが妹なのです。さらには年下でありますので、兄には妹を守るという意識も当然ありますし妹も兄に甘えたいという意識があります。そんな属性が妹なのです。そんな妹に、ツンデレなんていう自分の気持ちを誤魔化した要素は不要なのです。ツンデレというのはある意味主人公との心の壁がまだあるという事でもあります。そんな心の壁、元々近しい立場である妹という属性には相性が悪いのはよくよく考えれば気づくのではないでしょうか。ツンデレは身内キャラクターにはあってはならないと思っております。好きか嫌いか、この両極端であるべきだと思うのです。

 そういう意味で、このツンデレのような「素直になれない要素」を如何に排除するか、これが理想的な二次元妹のキャラクター像への必要不可欠な要素だと思います。おしとやかでも快活でも、引っ込み思案でも小悪魔でも、ビッチでもエッチが嫌いでも、基本的に素直である事が大事になってくるのではないかと思うのです。素直でさえあれば、それ以外の要素は自ずとついてきます。そしてそれ以外の要素がどんなものでも、素直であれば笑って許せるのではないでしょうか。

 という訳で、私の中で「初島杏」は最強クラスの妹になりました。そういえば上で書いた「片瀬雪希」は2001年、「朝倉音夢」は2002年のゲームです。やはりこの時代は各属性キャラクターの王道が完成しつつある時代だったのですね。やはりこの時代のゲームにはバイブルにするべきものが多いですね。


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