M.M 銀色


<テーマを表現するための鬱>

 さて、ここで「銀色」のレビューを書いていこうと思いますが、皆さんはこの銀色という作品についてどんな印象を持っているでしょうか。おそらく、大よその方が銀色を「鬱ゲー」として認識していると思います。実際プレイしてみた結果、確かに鬱ゲーとして噂されるだけあって決して楽しいものではありませんでした。しかし、この作品から得られるものは非常に大きいものがありました。

 このゲームのシナリオの設定として取り上げているのは、日本のさまざまな歴史の中で起きた負の部分です。全四章からなるオムニバス形式のシナリオですが、それぞれの時代で「銀色」をめぐった不幸が起こります。例えば、色街という人間の汚い部分を描いたしたシナリオ、古くから伝わる村の仕来りというものに振り回されたシナリオ、人間の欲と嫉妬を描いたシナリオなどです。しかし、このゲームのシナリオにおいてこういったものはあくまで設定であって、本質的に言いたいテーマがあります。どのシナリオも、このテーマに即したエピソードとなっております。

 そして、このゲームが憂鬱になるように描かれている理由はここにありました。全てシナリオを終えて思ったことですが、改めてこのテーマを思い返してみると、その重さがじわじわとのしかかって来ました。つまり、シナリオをあえて憂鬱なものにした原因は、このテーマをくっきりと表現するためだったのです。おそらくどのゲームでも、シナリオを通して何かしら言いたいことという物を持っています。そして、そのテーマをプレイヤーに伝えることが出来れば、ゲームを作った側としての成功なのではないかと思います。この「銀色」というゲーム、確かに憂鬱になり途中でプレイし続けることがイヤになるかもしれませんが、最後にプレイヤーに提示されたテーマを受け止めると、ただただ憂鬱だったシナリオが意味のあるものになって帰ってくるのではないかと思います。

 ちなみに、一つのシナリオの長さは大よそ2〜4時間といったところで、ちょうど良い長さなのではないかと思います。また、その他の要素、例えばBGMや背景などについてですが、全てこの憂鬱な雰囲気を演出するために上手く作られています。BGMは全体的に暗いものが多く、透き通った曲が多いです。背景は時代と場面を表現するためにしっかりと書かれています。多少荒さが残りますが、問題なくプレイできます。そして、最大の特徴としては「英語モード」があります。これは、全てのテキストが英語で話されるものです。正直、あまり意味のないシステムなのではないかと思いましたが、改めてプレイしますとなかなか趣があって悪くはないと思います。まあ、初回プレイでは日本語をオススメします。

 本当に鬱ゲーが嫌いな方を除けば、かなり味のあり感動出来るゲームだと思います。2000年を代表するゲームとして、一度プレイしてみては如何でしょうか。ちなみに、後に発売された「銀色 完全版」は、「銀色」に追加シナリオが加わった物なので、こちらをプレイしても良いかもしれません。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<奇跡は必ずしも人を幸せにはしない>

 一通りエンディングを見て、このシナリオにおいてのテーマは確かに、「奇跡を起こすには、それなりの代償が必要である」です。しかしこのシナリオにおいて、奇跡が叶っても誰一人として幸せになれなかったと思います。例えば、第四章において「銀糸」を作るためには、自分自身の命が引き換えでしたが、自分の愛する最愛の人の命も奪ってしまいました。また第二章では、「銀糸」に里の幸せを祈りましたが、結果人々の心には悲しみだけが残ってしまいました。結局、目の前に迫る不幸を奇跡の力で解決しても、その代償のために不幸は残ってしまいます。たとえ奇跡の力で幸せが訪れても、それは一時のもので永遠に続くものではありません。なので、私の中でのこの「銀色」というゲームのテーマは、「奇跡は必ずしも人を幸せにはしない」であると考えました。

 そして、このゲームの最後のエンディングではそれぞれの時代の「銀糸」に関わった人達の幸せな情景が出来ました。しかし、やはりこれは本人たちの願いが一瞬だけ叶った姿であり、実際に彼らが幸せになったということではないと思います。私の解釈ですがこれはおそらく、過去に「銀糸」願いをこめながらも不幸になってしまったヒロイン達の「代償」が、現代の「あやめと三井」に「奇跡」をもたらしたのではないかと思います。そう解釈すれば、まさに「奇跡を起こすには、それなりの代償が必要である」のテーマにしっくり来ると思います(おそらく反対論の方が多い気がしますが…)。

 ちなみに、「銀糸」が誕生してからどういう流れ現代のあやめにたどり着いたのは、「銀色」の後に発売した「銀色 完全版」と「ねこねこファンディスク」の二つをプレイすると分かるようになってますので、気になる方は是非プレイすることをオススメします。


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