M.M fault -milestone one-


<ファンタジーという世界観を丁寧に表現しているプロット・背景・演出、そして一番はBGMに惹かれました>

 この「fault -milestone one-」という作品は同人サークル「ALICE IN DISSONANCE」で制作されたサウンドノベルです。「ALICE IN DISSONANCE」さんを初めて知ったのはC84に参加した時でした。コミケという事ですので当然同人サークルの参加数も非常に多く、限られた時間の中で出来るだけ多くのサークルさんと話をする為に急ぎ足で回っていたことを覚えております。今回感想を書いている「fault -milestone one-」もそのような中で入手したビジュアルノベルでして、正直C84の中では数ある同人サークルの中の1つ程度の認識でした。ですが繊細に練られた世界観とキャラクター、何よりも久しぶりのファンタジーという事でプレイするに至りました。感想ですが、小説ではないビジュアルノベルであるからこそ体現できた読み応えのある作品だと思いました。

 公式HPでも書かれておりますが、この作品は純粋なファンタジーであり「マナ」と呼ばれる生命の源を用いて文明を築いてきた世界です。マナの力を火・水・地・風に応用しさらにそれらを組み合わせて発達させた技術である「マナクラフト」を利用している世界、現代の科学とは全く違う原点で生まれているエネルギーがこの世界の主役です。そしてそんなマナクラフトの内記憶や経験の引継ぎが出来る「パスダウン」を使用できるものがやがて国の王となり、この世界を統率してきました。主人公であるセルフィーネはそんな世界の一国であるルゼンハイドのパスダウン継承者であり、付き人のリトナと共にこれから訪れる運命の流れに身を投じていく事になります。

 ファンタジーという作品はその世界観をどこまで精密に練って表現するかにその面白さがあると思っているのですが、マナとそれを用いたマナクラフトによる世界観はとても丁寧で理解しようとすればする程その世界観に取り込まれていくものでした。マナの力をどのように日々の生活に応用していくのか、マナによる記憶や経験の引継ぎによってどういった倫理観や政治の体系が生まれているのか、そしてマナの密度が薄いアウターポールではどのような技術と経済が成り立っているのか、プレイヤーの皆さんにはまずはそういったこの作品の雰囲気の部分を感じて頂きたいですね。

 そしてこの作品はそういったプロットの部分だけではなく背景やBGMや演出についても大変拘っており、独自の世界観を盛り上げまた壊さないように配慮されております。個人的に気に入っているのはBGMでして、日常の場面や緊迫する場面で曲の雰囲気を変えているのはもちろんなのですが、ピアノを中心とした旋律がとにかく耳に残りましていつまでも聴いていたくなる思いになりました。エレキベースに代表される電気的な楽器ではなく弦楽器やピアノやパーカッションなど電気を使わない楽器で曲を作っているあたりもファンタジーというジャンルを考慮しての事であると思っております。今もサウンドモードで曲を聴きながら感想を書いております。

 という訳で久しぶりに読んでで引き込まれるビジュアルノベルに出会えました。ちなみにプレイ時間的には思ったよりも短く、私で3時間程度でした。世界観に引き込まれて一気に最後までプレイしてしまったという感じですね。ちなみにこの作品はまだfaultの中の第一章です。今後第二章・第三章と続いていくことが予想されますが、もう直ぐにでも第二章に進んで物語の続きを読みたいですね。それだけ人を引き付けるだけの魅力がある作品だと思います。現在公式HPで体験版を配布中で、ダウンロードサイトで本編を購入できますので、興味のある方は是非プレイしてみては如何でしょうか。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<誰もが周りの人を想っていた。その想いが相手に伝わった時、それが物語の終焉の時でした>

 とても心が温まるシナリオでした。お互いがお互いの事を思いやっての行動をとってきたのに中々上手く事が運ばない、そんな状態に風穴を開けたのがセルフィーネの天真爛漫さであり、最後にはわだかまりなく過去に犯した罪に決着をつける事が出来ました。

 真実を見ることは時として残酷な現実を突きつけることになる事があります。そしてそんな現実を突きつけられるくらいならいっそのこと目を瞑って幸せな状況に身を置いた方が遥かに楽であり心の平穏になるのはよくある話です。ですがそれはあくまで幻想であり、最後には必ず現実と向き合わなければいけない時が来ます。ルーンによる犯行にはその予兆は確かにあったのですが、それと向き合いたくないという気持ちが1つの悲劇を生んでしまいました。ですがそれによって家族がバラバラになってしまったかと言えば実はそれも幻想でして、現実は家族皆がそれぞれを思いやっていました。

 この物語で一番苦しんだのはやはりルドなのでしょうね。幼い時から父親であるシドや妹のルーンと比べられ、そんな中でルーンの凶悪さを真に受けて二度とこのような悲劇を繰り返さないと決めました。ですがその気持ちはあまりにも機械的過ぎていつしかルドは人間らしさを表に出さない性格になってしまいます。そんなルドですから会社経営は順調に進むのですが、父親であるシドや過去を知っているアルバスにとって視るに耐えなかったのでしょうね。そんなルドを昔のような思いやりのある人間的な性格に戻したい、そんな願いで生まれたのがサラでした。

 サラは正真正銘のルーンでした。ですがオリジナルのルーンと違う点は感情があることです。シドは幼い時に最悪の形でルーンと母親を失ったルドの心を取り戻したいと考えこの研究に人生を捧げました。ですがその姿は周りから見れば狂気以外の何者でもなく、そんな状態のシドだった事もありルド達はシドの思惑が分からないままサラを観察するようになります。ですがルドはもう最初からサラは解体すると決めていたのですね。シドの思惑を知らないルドにとってルーンは危険な存在そのものです。観察すればする程ルーンを取り戻してくサラを見て、二度と同じ悲劇を繰り返したくないという思いをルドは持ってました。これはルドはルドで周りの人を思いやる気持ちを忘れていなかった事になります。

 ルドは昔のように父親がいて母親がいて、そして兄を慕ってくれる妹が欲しかったんですね。誰も不幸になどしたくない、それはたとえ人間ではなくサラでも同じ想いを持ってました。それでも色々な社会のしがらみと自分自身の過去の経験がそれを許しませんでした。そんなルドの心を解き放ったのは他でもないサラであり、そのきっかけを与えてくれたのはセルフィーネでした。最後の最後で父親と母親の本当の気持ちを理解し、生まれ変わったルーンとも気持ちを取り交わした事で本当の意味でルドは救われたのだと思います。「お兄ちゃんと呼んでいい?」これはルーンの想いであると同時にルドの願いでもあったんですね。

 という訳で物語は終焉しようやく故郷に戻れる事になりました。ですがそこはそう簡単に事は運びませんね。冒頭登場したルゼンハイドを襲撃したメラノが姿を現し、あろう事か父親を殺したと宣言してきました。ですがそれ以上に驚かせたのはセルフィーネの覚醒です。リトナはその風貌を知っているようでしたので、恐らくはパスダウンで引き継がれた記憶や経験が眠りから覚めたのだと思います。果たして物語はどのように動くのかも気になりますが、私個人的には天真爛漫だったセルフィーネを二度と見る事が出来なくなるかどうかの方が心配ですね。記憶は人の人格そのものですのでどうも嫌な予感しかしないのですが、それは次回作を楽しみにしましょう。


→Game Review
→Main

inserted by FC2 system