M.M 蝶々髑髏 -昿篇-


 この「蝶々髑髏 -昿篇-」は前作である「蝶々髑髏 -漸篇-」の続編となっております。その為レビューには「蝶々髑髏 -漸篇-」を含めたネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

・「蝶々髑髏 -漸篇-」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<狂気に駆られ人を人として思わなくなってしまった心、それが蝶々髑髏の正体でした。>

 人が人を殺すという事はそれ相当の理由と覚悟がなければ実行できないと思います。もちろんどんな理由があっても人殺しが許される訳ではありませんし相当の裁きを受けます。それでも人殺しがこの世から無くならないのは、例え裁きを受けてでも殺したいという強い理由と覚悟があるからなのだろうと思います。ましてや人を殺すのに何も躊躇しなくなったら、それはもはや人ではありません。人の形をした怪物の所業です。でもそんな怪物は圧倒的な狂気に駆られ憎しみが極限にまで高められれば、もしかしたらすぐ身近に生まれてしまうのかも知れません。

 まずもって今回も主人公である理穂子の天真爛漫さが作品全体を包んでおりました。彼女の真っ直ぐで正直な気持ちが全ての出発点です。余りの真っ直ぐさにもはや紫藤も遠野も諦めてましたね。結局のところ理穂子を縛り付ける事は出来ないと悟った遠野は、正直嫌だったのでしょうけど紫藤に理穂子を任せた方がまだ安全だと判断しました。理穂子の真っ直ぐさは遠野の嫉妬心すら貫いてしまったんですね。この真っ直ぐさは遠野にも読めてませんでした。途中ダガーを持った豆蔵に対して箒で対抗しようとした理穂子の行動には誰もがポカーンとしてました。この空気を読まず真っ直ぐに突き進む姿こそ理穂子の魅力ですね。一歩間違えば死んでしまう危うさの中で(実際選択肢を謝れば死にますが)、見事に事件を解決する糸口を手繰り寄せておりました。

 そしてそんな理穂子ですので周りの人間の信頼も高かったですね。ちなみに信頼が高いというのは、理穂子は放っておくと何するか分からないという認識において信頼されているという事です。誰も理穂子の言葉を鵜呑みにしてませんでした。言葉を聞きつつ最大限警戒して接してました。特に女中である八重はさぞ気苦労が絶えなかったろうと思います。私、個人的にこの作品の中で八重がかなりお気に入りだったりします。頭の回転が早く気の利く性格でありながら人を疑わず主の名に忠実に従う精神、その一方で人を思いやる気持ちが人一倍強く周りの人全員の安全を祈ってました。理穂子が生きていて涙を流す姿をみて、やっぱりこの人だけは泣かせてはいけないよなと思いました。恐らくこの作品の一番の権力者は八重ですね。あの怒ったときの冷たい視線に晒されれば、誰もが戦慄し言う事を聞くでしょう。

 そしてミステリーとしてですが伏線の貼り方といいますか情報の開示のしかたが絶妙だと思いました。始めは様々な要素が散らばっており何が何だか分かりませんでしたが、理穂子と紫藤を中心として少しずつ事実関係を洗い出していく中でいつの間にか事件を答えを導き出すパーツが出揃ってました。パーツが出揃えば後は組み立てるだけです。作中では紫藤が最後に組み立ててくれましたが、私もメモを取り頭の中で犯人の正体と横浜大幻惑座の真相について解き明かしてみました。大よそ予想通りで私も犯人を当てることが出来ましたが、時間に余裕をもって紙に図で書くなどして1つ1つのパーツを書いていけば完全に真実を曝け出せたかも知れません。

 そしてそんなパーツで組み立てられた絵に描かれていたのは人の狂気がたどり着く先の姿でした。愛しい人が手前勝手な理由で殺されて復讐を決意した鮎、そして幼い時から虐待され人として扱われなかった一郎、この2人の生い立ちは一見正反対のように見えますが狂気に晒されているという点で共通しておりました。そして愛が強い為に狂気に走った鮎と愛が無かった為に狂気に走った一郎の2人はガッチリとかみ合い、今回の一連の殺人事件を引き起こしてしまいました。もしかしたらこの2人が合わなければ今回の事件は怒らなかったかも知れません。作中でも一郎は自分のことを怪物だと言ってました。そして一郎を怪物にしたのは鮎だと紫藤は言ってました。私もそう思いました。2人がガッチリ噛み合ってしまったからこそ、この怪物は生まれてしまったのかも知れません。そしてこの2人の不幸な生い立ちのスタートとなったのは蝶々髑髏の枷が原因でした。蝶々髑髏の正体、それは狂気に駆られ人を人として思わなくなってしまった心だと思いました。

 最終的に一郎は逃亡してしまいましたのでまた何らかの形で再登場すると思います。そしてその時はきっと紫藤との再戦の時ですね。一郎が黒なら紫藤は白です。まさに碁石のようですね。果たして一郎の狂気が払拭される時が来るのか、払拭できずに紫藤が殺されてしまうのか。この2人の因縁は是非今後の作品の中で見たいと思います。そして理穂子は作品全体の緩衝材ですね。彼女がいるから深刻な内容でも落ち着いて読むことが出来ます。きっと次回作でも彼女の天真爛漫さが花を咲かせるのだろうと思います。願わくばこれ以上八重さんに気苦労を追わせないで欲しいと思い、今回のレビューに代えさせて頂きます。ありがとうございました。


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