M.M Campus Notes vol.1 Re:Birth


<ありえないことが起きる大学、それが筑波大学なんですね。>

 この「Campus Notes vol.1 Re:Birth」は同人サークルである「4th cluster」で制作されたビジュアルノベルです。4th clusterさんの作品はこれまでプレイした事が無かったのですが、今回プレイした「Campus Notesシリーズ」は私の周りでも多くの方がプレイしており存在は知っておりました。その中でも一部の方にとってはかなりのイチ押し作品ということで気にはなっていたのですが、プレイ時間がかなり長いという話がありちょっと手が出ずにいました。そんな中COMITIA112に参加するノベルゲーム部というサークル部活動でソムリエ役を承る事になり、いよいよ足踏みしていられないという事でプレイさせて頂きました。

 主人公である桐葉悠太はこの春に筑波大学へと編入してきた3年生です。主人公にとって筑波大学に編入することはスタートではなくゴールでした。彼にとって編入を果たして入学式に出席できた事で目的を達成してしまったのです。ですがちょうど入学式で隣の席に座った風馬と出会い、その後同大学の大学院1年生である姉の理奈に説得され筑波大学に編入した目的を見つけなければいけなくなりました。ですがそれは思いもよらない形で見つかることとなりました。ひょんな切掛で入部した近未来視聴覚研究会(きんしけん)、そこで出会う非常に個性的な人物。彼らと関わる中で主人公は自分の存在や目的を考えていく事になります。

 この作品の最大の魅力ですが、やはり筑波大学という舞台設定ですね。公式HPをご覧になれば分かりますが、Campus Notesを制作された4th clusterさんは全員が筑波大学の出身です。筑波大学を愛し、筑波大学の魅力を発信したいということで本作が作られました。作中で使用されている背景は全て筑波大学キャンパスの写真を加工したもののようです。他にも中央図書館や松見池、春日キャンパスなど数多くのスポットが出てきます。登場人物も全ての学群(この学制も筑波大学独自のもの)をモチーフにしているみたいですので、Campus Notesシリーズをプレイすることで本当に筑波大学で過ごしたような気になる事ができます。

 個人的に気に入ったのが略称ですね。例えば保健管理センターは「ホケカン」ですとか、建物の名前が全て略称なのです。これは本当に筑波大学生でないと通じませんね。他にも「芝充」「粉クリ」「シンデレラ階段」など様々な言葉が出てきます。本当に筑波大学を愛しているんだなという事が伝わり気が付けば自然と自分の中で言葉を咀嚼しておりました。こういう自然な言葉使いこそが学生らしさでありリアルさだと思います。シナリオは非日常的日常でまあ現実ではいないであろうキャラクターが多かったですが、そんなキャラクターが本当にいるんではないかと錯覚するほどでした。これこそがCampus Notesシリーズを作った4th clusterさんの狙いなのかも知れません。ありえないことが起きる大学、それが筑波大学なんですね。

 プレイ時間ですが私で6時間45分掛かりました。この作品、前情報通りテキスト量もなかなかものです。元々ヒロインが4人おりますのでその段階でそれなりのプレイ時間は予測できますが、プレイ開始早々に分岐しますので思ったよりも長く感じるかもしれません。それでも決して退屈する事はありませんでした。場面転換は速いですが主人公とヒロインの関係の変化を非常に丁寧に書いておりますのでダレる事はないと思います。同じ2時間電車に乗るとしても、各駅停車で乗るよりも新幹線で乗ったほうが疾走感があって風景に飽きがこないような感じです。是非登場人物達の気持ちに寄り添い、自分自身が筑波大学生になった気持ちで読んでみてください。忘れられない作品になると思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この作品、頭で考えて理詰めで読んでも心で感じて雰囲気を味わって読んでもそれぞれで楽しめますね。>

 上でも書きましたが本当に楽しい作品でした。筑波大学を駆け回ってヒロインとの関係を確かめようとする悠太の苦労、十二分に伝わりました。入学当時は空っぽの自分だと言ってましたが、決してそんな事はありませんでしたね。周りの人の為に本気になれる気持ち、これだけでもう十分悠太は魅力的な人物だと思います。

 プレイ時間を重ね一人ずつヒロインを攻略していく中で思ったのですが、この作品のシナリオライターの方はよく計算してテキストを書いておりますね。それぞれのヒロインの悩みはかなり重いものであったにも関わらず、作品全体の雰囲気がその重さを緩和しておりました。ですがそれ以上に登場人物達の自然体なキャラクターがメインヒロインを不安にさせず、最後はコメディ調のハッピーエンドで気持ちよく占めてくれました。まさに終わり良ければ全てよしですね。そして途中の主人公とヒロインの掛け合いも自然体でありながらかなり緻密な駆け引きを繰り広げており、考えれば考えるほど味わい深いテキストだと思いました。

 ですが、上でも書きましたが基本はコメディ調のノリですし最終的にはハッピーエンドですので、セリフの一つ一つに注目せずサラッと読み進めても満足感は得ることができます。加えて主人公とヒロインの悩みの大半は恋愛ですので、最後にハッピーエンドであればそれだけで十分でもあります。細かいことは気にすんなという事です。この作品、頭で考えて理詰めで読んでも心で感じて雰囲気を味わって読んでも両方で楽しめますね。こんな作品、これまで味わったことがないかも知れません。私はレビューを書く関係から気になったセリフはメモを取り考えながら読む癖があるのですが、もう一度記憶をリセットしてメモなんか取らず雰囲気だけを感じて読んでみたいとも思いました。

 後はやはりどの登場人物も魅力があり可愛いですね。ここで言う魅力や可愛いというのは、美人や萌えという意味ではなく等身大だということです。基本的にヒロイン達のスペックは高く本当に大学生かと思うほどでしたが、表情はコロコロと変わり感情豊かであり、自分の得意分野以外では年相応であり嫉妬したり悩んだりしました。このあたりのキャラクターの書き方が等身大であり、大変愛着が湧きました。個人的には小川心が一番気に入りました。揚げアイスを頬張ってホッペを膨らませてもっさもっさもっさもっさ食べる姿なんて、もう死ぬかと思いましたからね。

 そしてそんな等身大のヒロイン達の中でやはり異質であったのが追加ヒロインである思案橋瑞季でした。魔女であり他人の誕生日を奪い知識として蓄える事が出来る彼女(男ですけど心は女ですので彼女で通しますよ?)、その振る舞いはまるで機械のようで作られた表情からは真意が全く読めませんでした。ですが知識がなくまるで無鉄砲のように突っ走る悠太をみて衝撃を受け、彼であればかつての瑞季の苦悩を取り除けるかも知れないと思うところからもう彼女は恋していたんですね。それでも思い出を捨てた彼女はなかなか思うように悠太に心を近づける事は出来ませんでしたが、それについては悠太の奇跡的なダイスの目が可能にしてくれました。きっと365人目が悠太だったのも偶然ではありませんね。全てを曝け出し手を引いた瑞季は唯の恋する乙女です。さぞ末永く幸せに過ごす事だと思います。

 という訳で筑波大学という舞台の中で駆け回る主人公悠太の活躍を見ることが出来ました。個性的なヒロイン達でしたが悩みは普通の女の子と何も変わることはなく、等身大でリアルな人物描写に惹かれました。一語一語を考察しながら読むのもよし、何も考えずに雰囲気を感じて読むのもの良し、自分だけのCampus Notesが見つけられればそれで良いのかなと思いました。楽しかったです。ありがとうございました。


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