M.M 僕と、僕らの夏


<どこか幻想的な雰囲気の夏で描かれる爽やかなボーイ・ミーツ・ガール>

 この「僕と、僕らの夏」という作品は今や知らない人はいない程の人気ブランドになった「light」が2002年に発売したサウンドノベルです。lightの作品はその本数の多さが特徴的ですがそれ以上に多彩なジャンルの作品を作っておりそのどれもが高評価を得ていることがポイントです。lightのゲームをプレイするならまずはどれを選ぶか悩むところですが、私はもう何年も前からこの「僕と、僕らの夏」という作品が気になっておりましてlightの作品をプレイするなら絶対これと決めていました。感想ですが、どこか幻想的な雰囲気の夏の中での非常に後味の良いボーイ・ミーツ・ガールな話でした。

 OHPを見ていただければどんな雰囲気の作品か分かるかと思いますが、まずは「夏」を設定に選んでいる事、そして「田舎」を舞台にしている事が特徴です。もうね、正直なところこの設定だけで絶対プレイしようと思っていました。「夏の田舎」という設定はもはやサウンドノベルの業界では王道ですね。世間的に人気の起爆剤になった「AIR」に始まり、当HPでも紹介していますが私の一番大好きなサウンドノベルである「水夏〜suika〜」もこれです。そしてこのジャンルが王道の1つとしての地位を獲得したのは、どの作品も夏の表現がとてもリアルだったからだと思っています。蝉の鳴き声、ラムネ、花火、スイカ、風鈴、夏祭り、海、こういった夏を代表するキーワードを作品中で良く再現しているからこそプレイヤーの中にもその光景がリアルに思い描かれ感情移入しやすいのではないかと思います。ですが、この「僕と、僕らの夏」の中で描かれている夏は、正直なところリアルというよりは幻想的という言葉の方がしっくりきました。

 この作品は非日常を扱っているわけではありません。あくまで思春期の男女のボーイ・ミーツ・ガールです。そういう意味でこれまでプレイしてきた作品同様夏の描写はリアルなものになると思っていました。それが幻想的に思えた理由は幾つかあります。まずは原画家である「笛」のキャラクターです。私が先に「カタハネ」という作品をプレイしてしまった事が原因かもしれませんが、どうしてもこの「笛」の描く女の子がどうも日本人離れして見えるんですよね。髪の色も様々ですし、どこか西洋人形を髣髴させる顔です。まあこれは多分に私の偏見が入っているのでさほど大事ではありませんけどね。後はBGMです。この作品、BGMがまるでオーケストラの様に豪華です。単体で聞いても惚れ惚れするような荘厳なものが多いのですが、バイオリンをメインとしたサウンドはどうにも田舎という雰囲気を感じず違和感を覚えてしまいました。爽やかな雰囲気はマッチしているんですけど、田舎をイメージさせるような素朴な曲も欲しかったですね。そしてSEの少なさですかね。蝉の鳴き声や祭囃子など夏を象徴する音を是非作中に入れてほしかったです。もちろん0ではなかったんですけど、主要な部分でSEがあればもっとイメージが湧いたかもしれません。

 まあ、そういった要素がリアルというよりはどこか幻想的な雰囲気の夏に感じてしまった理由なんですけど、この事は決してマイナスポイントになるわけではありません。何故なら、この作品で描かれている田舎はずっとこのまま残り続ける田舎ではないからです。OHPのあらすじを読まれた方ならわかるかと思いますが、この作品で描かれている田舎は近い将来無くなってしまう田舎です。ずっと人々が生活し続ける田舎ではないのです。もしかしたら、そんな約束された儚さを表現する為にどこか幻想的な雰囲気の夏にしたのかも知れません。何よりもこの作品はボーイ・ミーツ・ガールでありその部分は丁寧に描いていましたので、一度この幻想的な雰囲気の夏に慣れてしまえば全然気になる要素ではありません。結局何が言いたいのかと言いますと、「僕と、僕らの夏」らしい夏の雰囲気を楽しもうという事です。

 それでは他の要素についてです。2002年と多少昔の作品という事もありシステム周りはちょっと今のゲームと比較して劣る部分はあるかも知れません。それでも文章を読んでいくという点についてはストレスは感じませんので問題ではありません。後は選択肢が結構多いですね。まあ狙いを定めれば間違えない選択肢ですのでルートミスで大きく時間ロスする事は無いと思いますし、むしろ「サウンドノベルしてるな〜」って気にさせてくれました。

 あと個人的に感慨深かったのは登場する声優陣ですね。2002年周辺は私がサウンドノベルをプレイし始めた時期でもあり、当時の作品で割と有名な物に共通の名前をよく見ます。今回で言えば「長崎みなみ」「歌織」「草柳順子」などの面々でして、私の一番大好きな「水夏〜suika〜」や初めてプレイした「D.C.〜ダ・カーポ〜」とも共通していて懐かしくなりました。やっぱりこの時期の作品はブランドという枠を超えて色々な意味で感慨深いですね。

 という訳で爽やかな気分にさせてくれる作品でした。派手な作品ではないかも知れませんが、独自の夏の雰囲気を持っておりどっぷりと浸かる事が出来ました。長さも長すぎず短すぎず、ノスタルジィな雰囲気になりたい人にお勧めです。2003年には「完全版」も発売されていますのでこちらでも良いと思いますね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人は恋をしてそれと本気で向き合うことで成長できる>

 エピローグまで読んでここまで爽やかになれるボーイ・ミーツ・ガールも珍しいと思いました。この作品で描かれている恋は決してハッピーエンドな恋だけではありません。むしろハッピーエンドな終わり方の恋のほうがマイノリティです。でもどうしてそんな恋の物語なのに爽やかになれるのか。その理由はおそらく「そんな恋もある」とプレイヤーを納得させたシナリオの構成にあると思います。

 恋というのは本当に自分勝手な感情だと思います。自分勝手だからこそ、周りの人を巻き込み衝突するので痛い思いをしないで終わる恋なんてまずありえません。当然綺麗なものなんかでもありませんし、むしろ自分勝手である分どちらかと言えば汚い感情かも知れませんね。ですが、そんな汚い感情であるからこそそれをぶつけ合う事で本当の意味でお互いの心が通じ合うのだと思います。結果としてそれが報われないものになったとしても、本音でぶつかり合った結果に後味の悪いものはありませんでした。そういう意味でそんな様々な形の恋を「そんな恋もある」と全て許すエンディングだったからこそ私はこの作品を爽やかだと思えたのかもしれません。

 という訳でこの物語は「恋」を題材にしていますが、テーマ的にはやはり「成長」なのでしょうね。もっと言えば「人は恋をしてそれと本気で向き合うことで成長できる」といった感じでしょうか。恋をしてもそれを成就させるためには人と心をぶつけるしかありません。ましてやその恋をぶつける相手が他の人と重なってしまったら、もう両方が納得するまでぶつかるしかないのです。ですが、ただぶつかるだけでは納得はしても理解は出来ないと思います。例え報われない恋だったとしてもそれを理解するためには、相手の気持ちを考える必要があるんですね。その上でぶつかって、納得して認めてそれで初めて1つの恋を理解し乗り越える事が出来るんだと思うんです。そういう意味でどのシナリオでも登場人物の成長をテーマにしていたと思います。

 特にこの作品の特徴として主人公が限定されていないという事もあげられると思います。前半は「古積恭生」ですが後半は間違いなく「小川冬子」でしたしね。しかも前半は直接的な恋と向かい合った成長物語でしたが、後半は失って取り戻せないと思っていた恋を取り戻す成長物語でしたからね。同じ恋を題材にした成長物語でしたけどその中身は全然違いました。そして全然違う中身なのに時間軸も舞台も同じというのが凄かったですね。このあたりシナリオライターはさぞ苦労して構成を考えたのではないかと思います。

 あとは、OHPのあらすじでもあった「埋めたはずの宝物」についてもちゃんとシナリオ回収していたのも良かったです。途中まで読んで、きっとこの物語は「過去に埋めた宝物という思い出を振り切る物語」なんだろうなと思ってましたが、逆に「過去に埋めた宝物を取り戻すことで成長する物語」というシナリオは見事でしたね。同時に埋めた宝物の正体は何かという疑問も解決できましたからね。後はちゃんと一番最後でダム完成後の後日談も語ってましたね。正直ダムは設定だけで大した意味はないと思ってましたが、ちゃんとダム完成後の後日談を書きボーイ・ミーツ・ガールとしての綺麗な終わり方になってました。そんな、一切の設定上の疑問を解決した事も爽やかな終わり方につながったのだと思います。

 という訳でまとまらない文章になってしまいましたが全体としてテーマを明確にした良くまとまった作品だと思いました。思春期の男女のボーイ・ミーツ・ガールとしてのある意味お手本のような作品だと思います。恋することの大切さ、そしてどんな恋でも悪い恋はないと思わせてくれる内容で非常に心に残りました。楽しかったです。


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