M.M アトラク=ナクア


<古き良き名作>

 今や誰でも知っているであろう老舗のメーカーである「アリスソフト」さんのゲームの中で、かなり異彩を放っているのがこの「アトラク=ナクア」です。そもそもこのゲームはそれ単品で発表されたわけではありません。「アリスの館」というソフトのおまけとして入っているものです。なので、アリスソフトとしてはそれ程強い思い入れがあって制作したのではないのかもしれませんが、1997年に作られた物とは思えない程のクオリティでした。

 正直に言って、ほとんど古さを感じませんでした。多少背景の色彩の荒さはありましたが、テキストを読み進める上でのシステム全般、各CGの仕上がり具合、BGMの音質、どれをとってもさほど気に触る事はありませんでした。むしろ、これが1997年に作られたという事が私の中での評価を上げたのかもしれません。そして、それぞれの要素がこれがまた見事に調和されていました。ギャルゲーとして最低限必要な要素のみでのこの統一感は、おそらくその後多くのメーカーの手本となったことだろうと思います。

 そしてシナリオです。後に分かった事なのですが、アリスソフトがこういった一般的なノベルを出すのは非常に稀な事なのだそうです。だからといって決して見劣りするわけではなく、むしろ作品中に漂う独特の空気にすっかりやられてしまいました。このゲーム、主人公は一般的なノベルのような男性キャラではありません。ホームページでも公開していますが、主人公は「初音」と言う名前の「女蜘蛛」です。この時点で、既に一般的なノベルとしての雰囲気は持っておりません。まさにこのアトラク=ナクアという作品だからこそなせる雰囲気だと思います。ちなみに、主人公の性質上陵辱系Hシーンが多いです。過度に陵辱を嫌う人以外は普通に問題なくプレイ出来ると思いますし、シナリオ全体を見返すとそういったHシーンを気にしなくさせるような物なのですが、陵辱そのものはなかなか厳しい物になっていますので、その点だけはご了承下さい。

 そして、もう一つの特徴としてBGMがあります。アトラク=ナクアを始めるだいぶ前から、このゲームのBGMのアレンジが多く出回っていることを知っていました。それだけでなく、普通にBGMが良いというレビューも多く見てきました。なので、私自身プレイする前からBGMについては大きな期待を寄せていました。正直に言って、BGM単体としては案外普通と言った印象でした。しかし、この曲がゲームと組み合わさると見事なほどに化けてくれるのです。特にシナリオ終盤のとあるシーン、多くのプレイヤーも評価している有名な1曲が流れるシーンの勢いは本当にすばらしい物でした。簡単に言いますと、かっこよかったです。確かにこれなら多くのプレイヤーが認めるというのも分かりました。

 ただ、そんな「アトラク=ナクア」ですがやはり気になった点がありました。前に私は陵辱を気にしなくさせるほどのシナリオというという表現をしました。それは間違いではないのですが、正直言ってシナリオの半分近くは陵辱シーンです。私も陵辱系のゲームはかなり好きではないので、途中で投げ出したくなりました。なんとかそこを越えればそれなりの感動が待っているのですが、かなり辛かったです。これからプレイなされようとする方は、とりあえずその点だけは注意して下さい。

 しかし、結局のところ私はこの作品は人に薦められる物だと思っております。確かに古い作品ですが、これこそまさに古き良き名作という言葉がピッタリくる物だと思います。時間に余裕があって気になっているという方なら、是非一度やってみてください。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<もう一つの「アトラク=ナクア」>

 この「アトラク=ナクア」というゲームを終えて、しばらくはこのゲームがテーマとしていることが分かりませんでした。初音は首尾よく自分の能力を取り戻していき、いよいよ銀との最終決戦に臨むところまで来ました。しかし、そこで燐という少女が現れてから事態はそう簡単に進まなくなりました。それでも持ち前の強い意思によって銀を倒し、自分の分身をかなこにあずけて初音は息絶えます。

 これは、一見すれば初音という女蜘蛛の一生を描いただけの物かもしれません。事実そうなのですが、このゲームの視点を「かなこ」に変えてみると、今まで見てきた「アトラク=ナクア」という世界が一変するかと思います。

 「かなこ」の視点からこのゲームを見直したとき、このゲームのテーマが分かった気がしました。それはおそらく「家族愛」なのではないかと思います。かなこの境遇はとても悲惨な物でした。母親は既にいなく、束縛力の強い父親がいて、学校では男子学生に陵辱される毎日です。そんなかなこの前に現れた初音は、かなこにとって最も信頼できる強い存在だったのだろうと思います。いつも強い言葉でかなこを制御しつつも、温かい抱擁で包んでくれる初音、もしかしたらかなこは初音に母親のような物を感じたのかもしれません。

 なので、かなこにとって初音の正体が何だろうとどうでも良かったのです。ただ、初音の傍にいたいという思いのみがかなこを突き動かしていました。だからこそ、エンディングで初音がかなこの記憶を消してあげるといったときもかなこは拒んだのだろうと思います。自分の中で初音が全てだったかなこは、初音の分身を受け入れる決心をしました。今後かなこにどんな辛い人生が待っているかは分かりませんが、決して後悔しないものになると思います。

 もしかしたら、序盤中盤までかなこ以外との陵辱シーンが多かったのも、かなこの思いを増大させるためのアクセントだったのかもしれません。そう考えてみると、自分の中で嫌悪感しか持たなかった陵辱シーンが意味のあるものに思えてくる物です。ひさびさに熱い気分にさせてくれるゲームでした。


→Game Review
→Main

inserted by FC2 system