M.M アリカタ


<短いながらもしっかりとしたプロットとシナリオで後味の良い作品>

 この「アリカタ」は、同人サークル「ペコペコチャンス」で制作されたサウンドノベルです。COMITIA103で初めて知ったサークルでしたが、無料配布という事とプレイ時間が1時間未満であるという事でお手軽感を感じましたので手に取ってみました。感想ですが、短いながらも作者が伝えたかった事が伝わり後味の良いシナリオでした。

 公式HPでも書いておりますが、タイトルにある「アリカタ」とは人間離れした超能力の事で例えばとてつもない怪力で物を運んだり不思議な力で物体を中に浮かせたり出来る能力などです。舞台は現代の日本ですが、そんなアリカタを持つ人間が僅かに存在し世界を裏で動かしているような世界観です。やや難しいようなプロットですが、超能力を持った人間がいてそれらの人達とのエピソードを描いたような物語という事です。

 主人公もアリカタを持っていて、物語は無職である主人公が求人広告を見て電話をするところから始まります。ですが主人公はこの求人広告について注目したのは自宅から近いかどうかの立地のみでして、仕事内容については全くチェックしてませんでした。常識はあるものの基本的に脱力系な主人公です。そしてそんなアリカタという設定が大事になってくる世界観ですので、この仕事がアリカタに関係していない筈がありません。何となく目に入った求人広告からアリカタを持つ人間と関わりを持つことになる主人公、作品の世界観に入り込むには十分なプロローグでした。

 やはりプレイ時間が1時間未満という事でシナリオはどんどん進んでいきます。それでも登場人物については主人公視点でパーソナリティが話されていて、キャラクターを疎かにしているという事はありませんでした。テンポの良いシナリオ展開でありながら必要最低限のキャラクター描写は書かれておりますので、ストレスを感じる事無く読み進める事が出来ると思います。何よりもアリカタというものについて作中でちゃんと話されていますので、プレイヤーは疑問点を残すことなくシナリオを読み進める事が出来ます。

 なかなか言葉で表現するのは難しいですが、無料配布で1時間未満のプレイ時間でありながらしっかりとしたプロットとシナリオでしたので非常にお得感はありますね。私で30分ですべて終了する事が出来ましたが、ちょっとした気分転換のつもりでありながら満足度の高い30分を過ごす事が出来たと思っております。1時間未満でも納得できるシナリオを読む事が出来る、そんな事を教えてくれた作品でした。結構オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<主人公はプレイヤーそのものであり、唯々主人公の行動を追うことでしか物語を理解出来ない。>

 正直なところ、あのオチには驚きました。主人公はそれこそ命を懸けてトランプゲームに挑みクラッシャーと戦ったのに、クライアントの勝手で再び無職になってしまいました。所詮は契約のみで成り立っていた関係ですので、末端である主人公にどうこう出来るものではなかった訳ですね。あとがきでも「自分の知らないところで物語は動いていて、自分の知らないところで全てが決まっているそういった不条理を表現したかった」とありますが、非常によく伝わりました。作者がテーマを伝えられたかどうかという意味では大成功だと思いました。

 アリカタによる世界の情勢や現状についても多少触れていましたが、全部は話さずあくまで主人公の周辺に関係するところのみの説明でした。これも1時間未満という時間の為という事もあるかも知れませんが、それ以上に必要ないものをそぎ落とし出来るだけ頭を悩ますことなくシナリオを進める工夫だと思いましたね。きっともっと色々なアリカタがあるのだと思います。クラッシャーにも仲間がいるのかも知れませんし、主人公に対する依頼には1つ1つ意味があるはずです。ですがそんな情報は主人公にとって何も意味を持たないので必要ないわけですね。同時に今回のクライアントである鈴についてもパーソナリティについては一切語られませんでした。これも結局はそんな情報は主人公にとって不用でしたので作中でも語らなかった訳です。

 改めて見返してみますと、何も知らない主人公というのはプレイヤーにも通じる事であり非常に主人公とプレイヤーの立場が近い作品であると思いました。そんな主人公が依頼を受けてその依頼についても最低限の説明しかない状況で行動するわけです。プレイヤーももう余計な事を考えずに主人公の行動の行く末を見守るしかない訳ですね。プレイヤーとしては色々と妄想は出来るかも知れませんが考察は出来ませんので、唯々物語を読み進めるしかできない訳です。これこそがストレスなく最後まで一気に読む事が出来た理由なのかも知れませんね。

 アリカタという面白そうな設定でありながら非常にシンプルな物語でしたので、人にとってはもっとアリカタやクライアントについて説明が欲しいと思ったかもしれませんね。ですがそんな必要は無かったわけです。何故なら、この物語のテーマは自分の知らないところで物語は動き自分の知らないところで全てが決まってしまう事の不条理さなのですから。主人公と同様にプレイヤーもこの展開に怒る事が出来れば、それで恐らく作者の意図通りなのだと思います。ストイックでありながら主人公と一体になる事が出来るシナリオ展開、唯一無二の物だと思いました。楽しかったです。


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