M.M 花一華−はないちげ−


<是非日本に生まれて良かったと思える至高の雰囲気を思う存分味わって頂きたいですね。>

 この「花一華−はないちげ−」という作品は、同人ゲームサークルである「弐秒殺法☆盛っちゃっ隊」で制作されたビジュアルノベルです。弐秒殺法☆盛っちゃっ隊さんと初めてお会いしたのはCOMITIA112で同人ゲームサークルを回っている時でした。COMITIA112では調度私はノベルゲーム部のソムリエ役として参加していた事もあり、他の同人ゲームサークルは正直サラっとしか回りませんでした。ですが、そんな中で偶然目に留まったのがこの「花一華−はないちげ−」という作品でした。とにかく柔らかい雰囲気を感じるパッケージ、淡い表情のキャラクター、そして手に握られている花、まるで一目惚れのように手に取ってました。COMITIA112が終わったら真っ先にプレイしようと思い、現在のレビューに至っております。

 公式HPをご覧になれば分かりますが、この作品は「和風ボイスノベルゲーム」となっております。物語は全部で4つありまして、その名の通り全て昔の日本を舞台とした内容となっております。1つ1つの物語の長さは短く、人によっては30分程度で読み終わってしまうかも知れません。そういう意味で壮大な設定や綿密な伏線などの要素はなく、本当に作品の雰囲気をありのままに感じて楽しむ作品と呼べます。日本人であれば誰でも懐かしい気持ちになる事が出来る雰囲気を持っておりますので、是非ちょっと暇な休日に小説でも読んでみようかという軽い心持ちでプレイしてみては如何でしょうか。

 最大の魅力は、もう何度も書いておりますが日本人であれば誰でも懐かしい気持ちになれる柔らかい雰囲気です。テキストはあまり見かける事のない縦書きで表示され、本当に小説を読んでいるかのようです。そしてBGMは日本の伝統楽器を使用したものが多く用いられており、作品の雰囲気を作っております。そしてこれが一番の特徴だと思うのですが、登場人物に顔がないんですね。私、この立ち絵をみて思いました。これ、日本昔ばなしそのものだと。日本昔ばなしのあの何とも安心する朗読の声、この雰囲気そのものだと思いました。あくまで作品は語り手であり、プレイヤーは読み手である事をしっかりと意識している作品でした。顔がないという事はその分プレイヤーの想像の数だけ顔があるという事、そしてその顔の数と同様にプレイヤーの想像の数だけ日本の風景があるという事。こう思ったとき、この作品は間違いなく雰囲気を堪能するものだと思いました。是非日本に生まれて良かったと思える至高の雰囲気を思う存分味わって頂きたいですね。

 プレイ時間ですが私で1時間15分程度掛かりました。本当に1つ1つの物語は短く、人によってはあっという間に読んでしまうと思います。ですがこの作品、なんとフルボイスです。これだけ短い物語なのですから、どうでしょう是非声を全て聴きながらオートプレイで楽しんでみては如何でしょうか。男性キャラも女性キャラも、全員声に魂がこもっております。聞いていてすんなり耳に入ってくるんですね。背景、立ち絵、テキスト、BGM、そして声と全ての要素を総動員してこの唯一無二の雰囲気を作っております。決してインパクトは大きくありませんが、いつまでも心の片隅に残しておきたいと思える作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<大事なのはプレイヤー一人一人が彼ら彼女らに表情を付けてあげること。>

 プレイし終わって思ったのですが、正直この作品に限ってネタバレ有りのレビューって要らないんじゃないかと思っております。人間と人間あらざる者のはかない恋の物語。愛し合っていても想い慕っていても、生きる時が違えば添い遂げられないのかなと切なくなる少し悲しい物語。深い考察など、プレイした人それぞれがそれぞれで行えば良いのだと思います。ネタバレ無しでも書きましたが、大事なのはプレイヤーの数だけこの作品の登場人物に表情を付けることだと思います。

 花一華とは、学名ではアネモネと呼ばれる花の事です。ウィキペディアによりますと、アネモネは春に咲く花のようで種子は風によって運ばれるそうです。その為「風」に由来した名前が世界各国で付けられており、アネモネという言葉もギリシャ神話に基づいております。そしてアネモネの花言葉は「はかない夢」「薄れゆく希望」「はかない恋」「真実」「君を愛す」「嫉妬の為の無実の犠牲」。ちょっと寂しい気持ちになってしまいますね。報われない想い、それでも愛せずにはいられない。そんな心の叫びが聞こえてきそうです。この作品の物語もそんなアネモネのようなシナリオばかりでして、絶対に叶えられない恋をストレートに表現したテキストはしっとりと心に染み渡りました。

 皮肉なものですよね。どうして愛した相手が同じ時を生きる者ではなかったのでしょうか。もうその時点で、どんなに愛しても不幸になるだけなのではないでしょうか。ましてや時代は科学技術の発展していない日本です。良くも悪くも古からの風習が生きている風土です。人外の存在なんて、決して受け入れられるはずがありません。私を含め、ああなんて可哀想な二人と思った事と思います。まさにはかない恋、薄れゆく希望、この心に生まれた切ない気持ちはどこに吐き出せば良いのでしょうか。

 ですが、全編プレイし終わってこうしてレビューを書いている段階で思いました。切ないだのはかないだの、本当のところ大した意味は持っていないのだと。大切なのは、最後に離ればなれになった二人の表情を想像することだと思いました。第一話の最後、愛する人に殺されたスクナは無念だったでしょうか。きっと無念だったと思いますが、愛する人の手で逝けたのですからきっと最後の最後で幸せだったのだと思います。同じく第二話の白狐も、愛する人が生きていればそれでよかったのだと思っていると思います。第三話のシオンは流石に気の毒だと思いましたが、最愛の人を喰らった彼女に既に生きる意味はなかったのだと思います。あの時銃で死んでもその後何年も生きて死んでも同じだったのだと思います。そう思ったとき、殺してくれてありがとうと思ったかも知れません。第四話のミコトは一番の幸せものですね。神としていつまでも愛する人と村を見守れるのですから。私はこのように彼女らに表情をつけました。不幸な顔をしているよりは、多少強引でも全員幸せな顔をしている方が嬉しいです。色々な考えがあると思います。色々な考えがあって良いと思います。大事なのはプレイヤー一人一人が彼ら彼女らに表情を付けてあげること。それが出来た時、初めてこの作品の終了なのだと思いました。

 振り返れば難しいことは何一つありませんでした。何一つないからこそ、自由に彼ら彼女らの心に思いを馳せることが出来るのではないだろうかと思いました。昔話とは、語り継いでいく人の心持ちで如何様にも変化してしまいます。それはその昔話一つ一つに未来の人が思いを馳せるからだと思います。さて、皆さんはこの作品をプレイしてどう思ったでしょうか。彼ら彼女らはどんな表情をしているでしょうか。是非自分だけの感想をもってこの作品を慕って頂ければと思います。ありがとうございました。


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