M.M アナテマ・フィジクス


<短いながらも特殊世界観を緻密に表現した丁寧な作品>

 この「アナテマ・フィジクス」という作品は同人サークル「ひがしのてらこや。」で制作されたサウンドノベルです。C81の同人ゲームの島サークルで見つけたことが切っ掛けであり、純愛ゲーや抜きゲーのパッケージが多い中久しぶりに銃を持ったヒロインの絵柄で興味を持ち買ってみました。このサークルについては完全に前情報なしでした。本当に島サークルを回っていて偶然見つけました。プレイ時間も短めという事でいざプレイしてみましたが、短いながらも特殊な世界観を綿密に表現した丁寧な作品でした。

 OHPを見ればわかりますが、この作品はいわゆる終末ものですね。まあこれを終末ものと言ってしまうのが正しいかどうか分かりませんが、主人公が人外の存在であるアナテマになってしまい人間側にいるヒロインとアナテマ側にいる主人公が戦わなければいけない、そしてどちらかが全滅しないと元の世界に帰れないという設定は終末ものと呼べるのではないでしょうか。そんな最初からシリアスで鬱ゲーっぽさを匂わせている作品ですが、その作りこみは非常に丁寧でした。

 ヒロインが銃も持っているということで察しが付くかと思いますが、このゲームでは人間は銃を持って戦いアナテマは素手で戦います。その時の銃の説明や戦闘描写が思いの他詳しかったんです。銃はちゃんと型式で書かれてましたし、その型式もマウスポインタを持っていく事でちゃんと説明が入るようになっています。これなら銃について詳しくなくてもそれなりに理解できます。そして戦闘描写はかなり細かく、Nitroplusの「Phantom 〜Phantom of inferno〜」を見ているかのようなリアルさがありました。一言でいえば臨場感が凄かったんです。久々に戦闘描写でのめり込みそうになりました。

 あと特徴なのは背景でしょうか。この作品、実際の風景をぼかして背景絵を作っていますがその場所は京都です。私は京都に住んだことは無いので分かりませんが、住んでいる人に見れば一目で分かる程のぼかしで表現されています。これは戦闘に臨場感を持たせるという意味で実際の土地の距離感を知っている人にとって見れば良い演出だと思いました。よほど画力が高くないでもなければ下手に全て絵で表現することよりもこういった写真の加工のほうが効率的なのかもしれません。この辺りは同じくNitroplusの「沙耶の唄」を思い出させますね。

 後はシナリオですが、全体の長さとしては3時間程度で終わりました。3時間ということで短いですが、その短さの中で登場人物の心理描写や性格などは十分伝わってきましたし。特殊世界観を表現しておきながら風呂敷を広げすぎずきっちりと収束するように作ってありました。終末ものとしての完成度は非常に高いと言えると思います。

 という訳で様々な要素で上手くまとまっている作品です。最近のコミケの同人ゲーム島サークルではあまり見ないジャンルではありましたが、素直にプレイしてよかったと思えました。銃を使ったバトルもの、異形のものとの戦い、そして終末ものを短時間で楽しみたいと思っている方には結構オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全ては自分から行動を起こすことから始まる>

 この作品のテーマを考えると、よくもまあこんな特殊な世界観を考えてシナリオで使おうと思ったものですね。準ひきこもりの主人公が未来に向かって前向きに歩まなければいけない、という事を実感させるための世界観でありバトルだった訳です。それでも、あれだけの徹底した準ひきこもりの心を動かすにはあのくらいの世界観のほうが調度よかったのかもしれません。

 開始1時間くらいはまだ非ミンコフスキー空間に移動する前の話でしたが、正直私にとってこの部分はかなり胸に刺さるものがありましたね。特に大学の講義中でクラスメイトにプリントを貸してと言えないあたりが、上手く準ひきこもりを表現していると思いました。そしてこんな1シーン一つで、ああこいつはこのまま変わらなければ他人と深く関わらず無難に人生を歩んでいくんだろうな〜って思わせるに十分でした。そしてそんな中でのボクシング部での不慮の事故、主人公が全てを信じなくなり唯一の存在であった洲原奈美ですら拒絶する心理は痛いほどわかりました。このまま主人公達があの非ミンコフスキー空間に行かなければ、ひょっとしたら主人公は準ひきこもりから完全なひきこもりになっていたかも知れませんね。

 それでも主人公がひきこもりにならなかった理由、結果として言えばゲーム開始時の準ひきこもりからも脱出できたのはやはりヒロインである洲原奈美の行動力と信じる心に救われたからでしょうね。結局主人公も分かってしまうんですね。自分はこの世にいる価値なんてないとか思っておきなから死にたくないという事に。そしてそんな中で今にも殺されそうな洲原奈美を見てこいつの傍に一緒にいたいという事に。ですが、この物語にとって主人公が自分の気持ちに気づくだけでは完結しません。その気持ちを受けて、自分で行動しなければ完結に向かわないんです。

 最後の最後で洲原奈美が殺される直前に主人公が動けなかったのは、そんな自分の気持ちを信じ切れずまた行動しきれなかったからです。その為に最愛の人を殺され、その語三登雷子が作り出した別の世界での幸せな生活に逃げてしまう訳ですね。でも、ここでも主人公は現実を知ってしまうんです。いくら幸せな生活を送れても、傍に洲原奈美がいなければダメなんです。結局のところ主人公は洲原奈美無しでは生きていけないんです。長い時間をかけてようやくそのことに気づいた主人公、そしてその時の主人公には洲原奈美と一緒に生きるためならなんだってやるという気概を持ってました。

 その後は簡単ですね。一度目的を持ちそれに向かって行動を起こせば後はその通りになるんです。自分で自分に勝手にかけたアナテマという名の呪い、その呪いがなくなれば後はただ素直に突っ走ればいいんです。ボクシング部での不慮の事故、そして非ミンコフスキー空間での出来事は全てそんな主人公の呪いを取り払うために用意されたのかもしれません。そんな、自分から行動を起こすことの大切さを表現した作品だと思いました。

 その後の主人公は、最初は上手くいかないでしょうけど自分から行動して少しずつ人と触れ合っていくのだと思います。そしてそんな中でも傍にいて助けてくれた洲原奈美との生活を送っていくのだと思います。最初は特殊な世界観における終末もので異形の存在とのバトルものかな〜って思ってましたが、その実態は現代の若者が抱えている準ひきこもりという実に現実的なテーマでした。久しぶりにサウンドノベルやってて良かったな〜って思いました。やっぱりテーマがしっかりしている作品が一番ですね。テーマを表現する為なら世界観なんておまけなんです。実に楽しかったです。


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