M.M アメトカゲ


<是非この暗澹な雰囲気を十二分に味わい、心を空っぽにしてプレイして頂ければと思います。>

 この「アメトカゲ」は同人サークルである「ゆにっとちーず」で制作されたビジュアルノベルです。ゆにっとちーずさんの作品をプレイするのは今作が初めてであるのですが、おすすめ同人紹介などでサークル名については知っておりました。C87で島サークルを巡っている時に偶然目に留まりまして、是非プレイしてみようと思った事が今回のレビューに繋がっております。

 感想ですが、正直なところネタバレ無しで言えることは殆どありません。白黒の世界で、双子の兄妹であるホマレとスイがただ淡々と会話をするだけのシナリオです。その会話も白黒の世界と同様に色がありません。本当に淡々としており、どこか薄ら寒い感覚すら覚える程です。そして作中ずっと振り続ける雨、僅かなBGM、細かな効果音、臨場感が大きいだけに薄ら寒さが直接プレイヤーの肌や心に突き刺さります。怖い、と思うことすら無いかも知れません。淡々と読めばあっという間に終わってしまうのだと思います。

 それにしてもここまで徹底して暗澹とした雰囲気を演出するのはお見事だと思いました。上でも臨場感が大きいと書きましたが、本当に効果音やBGMの使い方が絶妙なのです。些細な違いです。ちょっと効果音の音量を変える、BGMを鳴らす止める、非常に感覚的なものだと思います。感覚的なものだからこそ、意識しなければ何も感じることなく読み終わるのだと思います。ですがそれは逆に素晴らしい事。意識させない程に自然なのですから。それに気づいたとき、作品の長さに対して演出に時間を掛けていることを感じました。

 プレイ時間は私で40分程度でした。本当にあっという間に終わってしまいます。ひょっとしたら、いやひょっとしなくてもこの作品をプレイして何も心に残らないかもしれません。一体何が言いたいのだろう。それすら無いかも知れません。意味を見出す事すら無意味かも知れません。それならそれで構わないと思います。何故ならこの作品は白黒の世界だから、色がないからです。色をつけてもいいしそのままでもいいと思います。是非この暗澹な雰囲気を十二分に味わい、心を空っぽにしてプレイして頂ければと思います。現在公式HPでフリーDL出来ますので、ちょっとした時間潰しの感覚で読んでみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<感情は色。それが自分にしか向かなくなったとき、残された色は灰色。>

 この作品で言いたい事はきっと「自己愛」なんだろうと思います。特殊な境遇の中で育った双子の兄妹ホマレとスイ、その為お互いがお互いを認め会うことを本能的に求めてました。ですがそれすらも自己愛の一つの形でした。スイに認められたいと思いそんなスイが好きな自分が好き、ホマレのようになりたいと思いそんなホマレが好きな自分が好き。お互いの会話の中で手に入れられたのはただその気持ちの確認だけ。何も実りのない虚無の時間を過ごしただけでした。

 雨が降る景色って基本的に灰色だと思っております。それは空に雲が広がっているからです。雲がなければ朝は朝焼け、昼は青空、夕方は夕焼けと色鮮やかな景色を見ることができます。ですが雨の日はそんな色がありません。ただぼんやりと明るくなりぼんやりと暗くなるだけです。そして空が灰色なら地上も灰色です。例えカラフルな広告や街灯があろうとも絶対的な空の灰色が全てを押し流してしまいます。それは仕方がない事であり悪い事でも良い事でもありません。ただ、灰色なだけです。

 私はこの単一な色と自己愛は同じなのではないかと思いました。他者を想い心が震えればそれだけで景色が色付いて見えます。嬉しい、悲しい、寂しい、悔しい、そして好きという気持ち、その全てに色があります。そしてそれらの気持ちは全て他者に向かっており、人の数だけ感情があります。それはそれだけ色に満ち溢れているということ。カラフルな世界に囲まれれはさぞ退屈することは無いのでしょうね。ですが自己愛は全て自分へと向かっております。自分の色は自分の色だけ。単色。モノクロ。それはまるで雨の景色のよう。どれだけ相手の事を思ったとしてもその目的が自己愛であれば、その思いに色はないのだと思います。

 そういえば影という存在も色はありませんね。色がないどころか、黒ですね。灰色ですらない黒。まるで自分の心の奥底を映し出したかのよう。雨と影、共通するのは単色である事。ホマレもスイも夢と現実の世界の狭間にいるからモノクロの世界なのではないのですね。いつからかは分かりませんが、気が付けば灰色になっていたんですね。自分達がこれまで思ってきた感情、好きという気持ち、子供じみたクラスメイト、家庭内暴力、付き合った女の子、学校の成績、得意不得意、それらに対して感じたことがどんどん色あせていき全て自己愛の材料となっていきました。最後に残ったのはお互いへの恋慕。それはきっと最後に残された色。そしてそれも灰色に飲み込まれてしまいました。

 それでもその恋慕が腐ってしまう前に相手にぶつける事は出来ました。この気持ちは最後に感じることが出来た色。ですがそれも今更どうしようもない事ではありました。結局は自己愛が全てだったのですから。その事を確認出来たとき、それが物語の終了の時でした。さて、私はこの作品に何色を付けることが出来たのでしょうか。何かしら思った事があればそれは全て色です。面白いと思う気持ちも色、つまらないと思う気持ちも色、怒りも悲しみも全て色です。何色かは分かりません。色をつける意味があるのかも分かりません。ただ、自分がこの作品に対して思った事が腐ってしまう前に、レビューとして残しておこうと思います。ありがとうございました。


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