M.M アルストロメリア


<登場人物のパーソナリティが確定するまでシナリオを進めてはいけないと思うのです>

 この「アルストロメリア」という作品は同人サークル「B@d Luckers」で制作されたサウンドノベルです。C83で同人ゲームの島サークルを回っているときに偶然見つけたことが切っ掛けでして、線の濃いキャラクターの描写でまず目に留まりそれからアルストロメリアという綺麗なタイトルで興味を持ちました。アルストロメリアとはユリ科の植物で花言葉としては「機敏」「持続」等が挙げられます。本作もそんな花言葉にあやかったシナリオが展開されるのかなと思ったのですが、感想を言いますと良く分からないまま終わってしまったというのが正直なところでした。

 OHPを見ると分かりますが、この作品には3人のヒロインがいます。どうやら主人公は過去の記憶を何らかの形で失っており、その失った過去を知るヒロインとの掛け合いが物語の焦点になりそうでした。実際始めは当たり前の様な日常が展開されるのですが、中盤から後半にかけてヒロインの別の顔や物語の核心になる部分が見え隠れしてきてEDまで進みます。ですがこの作品で致命的なのは、そういった核心部分に進む段階で登場人物のパーソナリティが確立していなかった事です。

 この作品の登場人物は全員のっけからトバしています。いわゆる2ちゃんねる用語なども飛び出しずいぶん軽いイメージの作品だなというのがプレイ開始直後の印象になるかと思います。ヒロインもいわゆる腐れ縁的なキャラクターであり、主人公とバカやっているありがちなキャラクターです。その事は別に悪い事ではないのですが、そんな軽いイメージのキャラクターや世界観が一瞬で180度変わってもプレイヤーが戸惑ってしまうだけだという事です。

 特に残念なのが転校生である鳳夕菜のキャラクターでした。OHPでは純情少女とうたっていたのですが、実際プレイしてみると結構様々な場面でその性格はコロコロと変わります。そしてこのキャラクターの本心は何なんだろうと探っていこうと思っていたらもうシナリオが核心に触れているんです。こちらにキャラクターを理解する時間を与えないままシナリオだけ進んでも置いてけぼりをくらうのは必至ですね。

 作品そのものも3時間以内に終わる程度の短いものであるので尚の事あっという間に終わってしまったという印象になってしまうと思います。これだったらヒロインの数を削ってでももっと登場人物のパーソナリティの表現に力を注いだ方が良いと思いました。後は最終的にあのEDを目指すのであれば前半のトバし過ぎな会話はマイナス点だとも思いました。プレイ開始直後に抱いたイメージを払拭するにはそれなりの文章量が必要です。この短いシナリオではそれも難しいと思いますので、作品全体のゴールを見据えた雰囲気作りも大切だと思いました。プロットは気に入っていただけにちょっと残念でしたね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<あらゆる要素で説明不足が目立つ>

 上でも書きましたがやはりあっという間に終わったという印象でした。登場人物たちは納得していたようですけど、何故彼らが納得しているのかプレイヤーに伝わらなければ意味がないと思うのです。

 まずは主人公と各ヒロインの過去についてあまりにも説明不足でした。主人公と夕菜と沙紀は幼馴染なのでしょうか?何をしていてトラックに轢かれることになったのでしょうか?そういった過去の情報が殆どなかったのでプレイヤーの選択の幅が無かったのではないでしょうか。とりあえず沙紀が初めにトラックに轢かれて自分の殻に閉じこもったという事は分かりました。その後どういう経緯があって夕菜も惹かれたのでしょうか?この間に主人公と夕菜に様々な葛藤があったのではないでしょうか?そういったバックグラウンドについて説明がほしかったですね。

 そしてそもそもこの世界観は何故発生したのでしょうか?雰囲気から察するに沙紀が作り出した世界観の中に主人公も入り込んだという風に思われますが、この世界で登場する夕菜は現実の夕菜と関係はあるのでしょうか?沙紀が必要だと思われる人物のみ登場するとありますが、そんな空想の夕菜だとしたら夕菜ルートでの夕菜の発言1つ1つに意味がないのではないでしょうか?特殊世界観を表現する際は必ず矛盾が無いように説明をつける事が必要不可欠です。この辺りも説明不足だと思いました。

 そういう意味では3人目のヒロインである和のシナリオ位ザックリ感の方が良いかも知れませんね。過去や未来といった要素のないヒロインですのでそういったバックグラウンドの説明が不要です。説明が不要だからこそそのままのパーソナリティのままの印象で何も矛盾がない訳です。下手に過去に因縁のある夕菜と沙紀よりもよっぽどしっくりくるシナリオでした。最後のEDは恐らく現実世界で奇跡的に消える事のなかったという事だと思いますが、あれを「奇跡です」と断言する位が調度良いのかも知れませんね。なるほど、奇跡なら仕方がないと一応プレイヤーも納得する事が出来ますからね。

 何れにしてもあらゆる要素で説明不足が目立ちました。説明不足が目立ったおかげで結局この作品でシナリオライターが何を表現したかったのかも見えませんでした。とにかく特殊世界観を表現したかったのか、女の子とバカやるような会話を書きたかったのか、それならそれで良いのですけど、テーマが無いとどうにもこうにも印象に残りませんね。上でも書きましたがプロットは好きですしキャラクターも良い素材だと思いますので、可能であれば是非リメイクして出して欲しいとも思いました。


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