M.M Akashic Records〜櫻の戦箱〜


<短いながらも登場人物の心理描写を重視したミステリー>

 この「Akashic Records〜櫻の戦箱〜」という作品は同人サークルである「CROWNGEAR」で制作されたサウンドノベルです。C82での戦利品の1つであり、いわゆるミステリー作品という事でサウンドノベルのマンネリ化に一石を投じる意味でプレイしようと思い手に取りました。ミステリーについては非常に長いプレイ時間で濃厚な伏線のもとに壮大なトリックを用意する作品よりは比較的短い時間で私の頭の中で整理できる程度のボリュームの作品の方が結果的に満足度が高かったりします。もちろん壮大な作品をプレイし終わった後の満足感や達成感がツボにはまったときはそれは至高なのですが、そんな作品は一握りしかありませんし非常に体力を使います。そういう意味でも同人サークルが作る数多くの短めなミステリーの方が手を出しやすいですね。感想ですが、登場人物の心理描写にとても気を使った作品だと思いました。

 OHPにも書いてありますが、この作品の舞台は虚空島と呼ばれる孤島です。その孤島に閉じ込められた男女7人の高校生とその顧問と船の操縦士、そして何故か1人で虚空島で生活している少女、これだけの要因がそろっていればドロドロの事件が発生するのは当たり前です。誰が犯人なのか、この島に隠されている秘密は何なのか、そして誰が生き残ってこの島から脱出できるのか、ゲーム開始から注目するべきポイントはたくさんありそれらを探りながらプレイするのがおススメです。

 この作品の特徴としてその画風があると思います。最近の美少女ゲームは目がキラキラしたいわゆる「光彩」が強調された萌えキャラが殆どですが、この作品の登場人物にそんな光彩はありません。最近流行りの萌えキャラが登場する作品に慣れている人であれば尚更ですがこの画風を見ただけで気を抜けなくなりますね。誰が裏切っても誰が犯人でも誰が殺されても不思議ではない雰囲気をまとっていると思います。

 シナリオについてはミステリーという事で基本的に全ての話題がネタバレになるのでここでは語りませんが、物語の展開に合わせて登場人物の心理描写に想像を巡らせながらプレイすると良いと思います。この作品、登場人物一人一人が結構自分の考えを口にして行動しますので誰が何を思っているかが捉え易いです。代わりにその登場人物の心理を表面だけ捉えているとその後の展開でしっぺ返しを食らうかも知れませんのでそれが嫌な方が是非考えられるだけ考えてその後の展開を予測して頂ければと思います。まあ基本的に選択肢は分岐を分ける程度の物しかありませんし主人公の視点のみですので想像力を働かせる必要もなくエンディングにたどり着けますが、折角のミステリーですので是非考えながらプレイしましょう。

 後はBGMですが、基本的にフリーの音楽素材を配信している「煉獄庭園」さんの楽曲を使用しております。この煉獄庭園さんの楽曲は同人界では人気が高いらしく、これまでプレイしてきた同人ゲームの中でも何度か聞いています。この作品の中で使われている作品の一部も既に別のゲームで聞いていまして、そのあたりはやはり同人ゲームらしいなと思いました。それでも雰囲気に合った楽曲を選んでいますので盛り上がりはバッチリですね。物語の進行を妨げないまさにBGMとしての役割を十分担っていると思いました。

 という訳でネタバレ無しだと書ける内容がこの程度になってしまいますが、短いながらも登場人物の心理描写を重視したミステリーということでそれなりに読みごたえはあると思います。是非数多くの事を想像しながらプレイしてみて下さい。ちなみに私も幾つか無茶な仮説を立てながらプレイしてみたのですが、案外予想が当たりましたね。プレイしてみて浮かんだ疑問や矛盾というものは最後まで腹に残しておくと最後にスッキリ出来ますね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<政府の陰謀というオチは、決して読めないオチではなかったですね>

 正直なところ最後の政府の陰謀というオチは決して読めないオチでは無かったですね。ボウガンとかシアン化カリウムとか銃とか都合よく設置してある武器の数々、同級生が過去に人殺しもしくはそれに連なる事を経験している、この辺りからこの島の舞台裏にはオカルト的な要素ではなく人為的な要素が絡んでいるんじゃないかと予想するのはそれほど難しくは無かったと思います。何よりもミステリーですからね。オカルト要素が強かったらそもそもミステリーとして破綻してしまうかも知れませんでしたからね。

 全てのシナリオを終えて思ったことですが、主人公がどのヒロインと組むかでその後の展開は変化しますけど前提となっている政府主導の試験という事柄が崩れることは無かったですね。一見由愛EDや汐璃EDには政府の陰謀の要素は出てきませんでしたが、それは鍵になっている倉橋が死んだことで先生が復習をする意義を失ったから人知れず消え去ったんですね。楓花についても深く言及しなかったのでその正体が明かされる事無く、皆死んでしまったけど主人公とヒロインは生き残ってその後慎ましくも幸せな将来を迎えるというEDが成り立ったわけですね。私は幸いにも楓花ルートは最後にやりましたのでこの政府の陰謀というオチを知ったのは最後だったのですが、もし初回プレイで楓花EDにたどり着いて政府の陰謀のオチを認知していたとしても特別問題は無かったと思います。

 後はそれぞれの登場人物の役割が明確なのは良かったですね。あからざまな噛ませ的なキャラ、反逆的なキャラ、全体を取りまとめようとするキャラ、ノリの良いキャラ、孤高のキャラ、無口なキャラ、謎のキャラ、ミステリーを彩る上で欠かせないパーソナリティがそろっていた気がします。キャラ設定が得てしてその後の展開を決めてしまいシナリオが読みやすくなってしまうというのは致し方が無いですが、それを逆手にとって一歩進んだシナリオ展開を予測できればもっとこの物語を楽しめ方も知れません。何れにしてもどのキャラクターも自分のキャラが持つ役割を認識してその通りに動いてくれたので良かったと思います。

 そしてやはりメインになったのは政府の陰謀を暴露する楓花ルートでした。ですがその政府の陰謀を暴露したのがかなり唐突だったので予測できなかったプレイヤーにとっては置いてけぼりを喰らったかもしれませんね。突然の楓花に降りかかった毒殺、それでも死なずに逃げてその後の独白、シナリオ展開だけでも急だったのにそれにプラスしての政府の陰謀でしたから急展開さは否めないと思いました。この辺りの後半の展開をもう少し工夫すればなお良かったかもしれません。そういう意味でも主人公の父親が残したメッセージの重さが空回りした印象も持ちましたね。この島は狂っている、確かに狂ってはいましたがその元凶が政府の陰謀ということで父親も報われませんね。せめて最後に父親の死体や墓の様なものが分かればこの辺りもスッキリしたかもしれません。

 という訳で全体としては割と満足のいく内容でした。上でも書きましたが後半の展開についてもうちょっと長くなっても良いから丁寧にやって頂ければ私的には最高でした。それでも短編のミステリーとしては十分すぎる内容でしたし全ての伏線について矛盾はありませんでしたのでそれだけで満足でした。今後もこのようなミステリーに出会えれば幸いですね。楽しかったです。


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